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2010年8月12日 (木)

「平成の船中八策」を実現する市民の会、その96(欧州連合における全労働 世界の労働者のたたかい②)

欧州委が「緑書」への回答集約・発表 ― すすむ「企業の社会的責任」・リストラ規制のルールづくり

 EU(欧州連合)の政府にあたる欧州委員会は2001年7月、「企業の社会的責任に関する欧州の枠組みを促進する」と題するグリーンペーパー(=たたき台としての政策提案文書。以下、緑書と呼ぶ)を発表し、協議(すべての関係組織、個人の「緑書」討論への参加)を呼びかけた。欧州委員会は1月、さらに、「変化を予測し、管理する ― リストラの社会的側面へのダイナミックなアプローチ」も発表し、労使関係当事者との第1次協議を開始した(「緑書」の内容とそれへの欧州労連の反応は2002年版を参照)。
 緑書は「国際機関を含むあらゆるレベルの公的当局、中小企業から多国籍企業までの企業、労使関係当事者、非政府組織、その他の利害関係者、関心を持つすべての個人に、『企業の社会的責任』を促進する新たな枠組みを発展させるための協力関係をいかにして構築するかに関する見解を表明すること」を求めた。
 欧州委員会は7月23日の通達で、寄せられた回答意見のまとめと、今後の推進計画、とくに、検討・意見集約機関としての「EUマルチ・ステイクホルダー(利害関係者)フォーラム」の設置を提起した(同フォーラムの第1回は10月16日、ブリュッセルで開催された)。
 「緑書」への見解・意見は258件寄せられた。見解表明をした企業および利害関係者には、たとえば次のような機関、団体(労組含む)、企業などが含まれている。全体として、イギリス、北欧から多いことが特徴である。

  • 国際レベル: OECD、ICC(国際商業会議所)、アムネスティ・インターネショナル。
  • 欧州(EU)レベル: 欧州理事会、UNICE(欧州産業連盟)、CEEP(欧州公共企業センター)。欧州労連、欧州金属労連。
  • 各国レベル: 独、仏、英、蘭を含む八ヵ国政府、英商業会議所、「企業の社会的責任」監視所(仏)、独使用者団体連盟・産業連盟(BDA・BDI)、英産業連盟、デンマーク・労働組合連合(LO)、英労働組合会議(TUC)、英UNIFI労組(金融など)、英GMB労組(自治体など)、仏「労働者の力」(FO)。
  • 個別企業: バークレーズ(英)、フォード(米)、EDF(仏エネルギー公社)、GMヨーロッパ、マクドナルド(米)、NIKE(米)、ジーメンス(独)、ヴォーダフォン(英)、P&G、英核燃料公社、Adidas(独)。

 回答意見のなかでの共通の、最も大きな問題点は、「企業の社会的責任」実行の方法に関する、企業の自発性と法的規制の問題をめぐる対立だった。
 この問題に関する「緑書」の提起は、欧州労連の主張(2002年版参照)ほど具体的ではないものの、既存の実践を含めた企業の自発性の尊重と、国際法を含む法的規制の結合・併用であった。
 これに対して、各レベルの企業、経営者団体は ILO(国際労働機関)の中核的労働基準やOECDの多国籍企業ガイドラインまでは否定しないがこぞって、自発性原則一点ばりで、「企業の社会的責任」への行政的規制を拒否しているのが特徴である。たとえば、欧州の代表的経営者団体UNICE(欧州産業連盟)の見解は次のようにのべている。
 「『企業の社会的責任』は企業主導であり、今後ともそうでなければならない。したがって、UNICEはEUとしての、『企業の社会的責任』へのアプローチ、あるいは、枠組みを作りだそうとするいかなる試み――UNICEはそれを不適当かつ不当と考えるので――にも強く反対する。自発的対応が企業内での持続的な、すぐれた実践を堅実に育成するのに対し、規範的あるいは規制的対応、または枠組み設定は企業の『企業の社会的責任』への関与を侵食しかねない。『企業の社会的責任』は企業内から発展させられなければならず、規律というものは押しつけることはできない」、「欧州委員会は、EUレベル企業間での、すぐれた実践の経験交流の助成によって、『企業の社会的責任』促進に、効果的に貢献できる」。
 ICC(国際商業会議所)に至っては、欧州委員会の役割に関して、「『企業の社会的責任』はグローバル・レベルで対応する必要があるグローバルな問題だと考える。したがって、「緑書」が示唆するように、EU法制あるいは『企業の社会的責任』に関する公的政策枠組みが必要だということには、必ずしもならない。いかなるEUの対応も、この分野における、より広範な国際的イニシアチブへの補完的で、かつ支援的(協力的)なものでなければならない」と「コメント」している。
 7月23日通達は、これらを総括する形で、「共同行動の原則」として、「『企業の社会的責任』の自発的な性格の承認」など6原則を提起、「EUマルチ・ステイクホルダー(利害関係者)フォーラム」が2004年までに活動報告を欧州委員会に提出するよう求めている(欧州委員会はこの報告を受けた後、更なる対応・促進方法を具体化する)。
 次に、欧州委員会リストラ協議文書は、「変化を予測し、管理する ― 企業リストラの社会的側面へのダイナミツクなアプローチ」(以下、第1次協議文書)と題され、英文で13頁ある。
 協議文書はその基本的立場を、「創造的リストラ ― 積極的な変化の原動力(独文テキスト=積極的な変化の原動力としての創造的リストラ)」の節で、太字の斜体文字で次のように強調している。「時にはそれがもたらす痛みに満ちた社会的結果にもかかわらず、企業リストラは不可避であるだけでなく、変化の原動力でもある。それは生産性の向上と新テクノロジーの導入に貢献する。そういった意味で、ただ単純に無視したり反対したりしないことが大切である。リストラの社会的影響を適切に考慮に入れ、取り組むことが、それを受け入れ、その潜在力を高めることに大きく寄与する。これは、自らの活動を支配する条件の変化に直面している企業の利益と、失業の危険に脅かされている労働者の利益を、バランスよく結合することを意味する」。
 協議文書はEU基本条約138条にもとづき、「リストラ状況下における企業のすぐれた実践を支援するような行動に関する一連の原則をEUレベルで確立することの有効性」など3点について、意見を求めることが目的であるとして、「ありうる主な原則」として次の4項を提起している。

  1. 雇われうる能カと適応能カ(キャリア管理、雇われうる能力と適応能力の支援、あらゆる選択肢の考慮=解雇は最後の手段であるべきで解雇に訴える前に、労働時間短縮を含む労働組織の再編成などを実施していくことが必要。社会的コスト(負担・犠牲)は最小でなければならない)。
  2. 有効性と簡素化(リストラに関する法規制の枠組みの簡素化)。
  3. 対外的責任(=「企業の社会的責任」の外部的側面。地域に関する責任=地域への影響、地域関係者との協同、地域職業訓練、産業立地の再生など。下流部門への責任=下請企業とその労働者への責任など)。
  4. 実施のあり方(労使対話を含む労働者関与、公正な補償、紛争の予防と解決、中小企業でのリストラのあり方)。                                                                    その97に続く                                以上

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