「平成の船中八策」を実現する市民の会、その99「欧州連合(EU)の紛争防止」
今回は植田隆子氏の「欧州連合(EU)の紛争防止」の論文をご紹介致します。
植田隆子(うえたたかこ)氏は、日本の政治学者。専門は、ヨーロッパ安全保障、国際機構論。津田塾大学学芸学部卒業後、1981年、同大学大学院終了(学術博士)。成蹊大学法学部助教授を経て、現在、国際基督教大学教養学部教授。2008年7月から、外務省欧州連合日本政府代表部次席大使を務めた。
「欧州連合 (EU) の紛争防止」 植田隆子
国際共同体は暴力的紛争による人間の苦しみやリソースの破壊を避けるべく行動する政治的、 道義的責任がある。EU は民主的価値、人権、正義、連帯の尊重、経済的繁栄と持続可能な発展を基礎とする、紛争の防止の成功した一例である。拡大過程はこの平和と発展の共同体を広域欧州圏の国々に拡張するであろう。
EU Programme for the Prevention of Violent Conßict, Brussels, 7/6/2001.
1. 緒言
1990 年代前半のバルカンにおける紛争は、欧州のさまざまな安全保障組織が、東西対立の解消という新しい国際環境に適応してゆく過程で大きな影響を与えた。ボスニア= ヘルツェゴヴィナなどからの大量の難民の流出などを含む、社会的な負荷を西欧諸国も負うことになり、紛争の未然防止の必要性が強く認識されることになった。とくに、欧州安全保障協力機構 (OSCE) は紛争の未然防止を主要な任務とすることになった。
欧州連合 (EU) の前身である欧州石炭鉄鉱共同体 (ECSC)の発足以来、50 年余りの欧州統合の歴史自体が、独仏対立を根絶し、加盟諸国間の紛争を防止する活動だったと言えよう。この欧州統合体は1993 年に発効したマーストリヒト条約によって共通外交・安全保障政策 (CFSP、第二の柱)を導入し、対外関係を政策領域に取り込み、これとともに
「クロス・ピラー cross-pillar」 と呼ばれる、第一、第三の柱にもまたがる領域である、紛争の防止にも取り組むことになった。
米国に対するテロ攻撃(9.11 事件)以後は、紛争の防止はテロの原因を根絶するという観点からも重要視されるようになった。
日本の学界においては紛争の防止自体には関心が持たれ、ASEAN 地域フォーラム(ARF) などアジア・太平洋の問題については研究が発表されてきたが、高度に発達したメカニズムを持つ欧州の地域的国際組織の動向、実態の全体像については筆者の編著『現代ヨーロッパ国際政治』(岩波書店、2003 年)以外にはほとんど紹介がなされていない。ただし、EU の紛争防止については、EU 自体が体系的な取り組みを始めて日が浅いこともあり、全容を提示する文献は筆者の管見の限りでは、シンク・タンクのペーパー類などを除くと、出始めたばかりである。
そこで、本稿では、EU の紛争防止を取り上げ、その発展過程、実態、課題と展望を素描することとする。欧州連合は2004 年5 月に25 カ国に拡大し、政策が一致した分野においては、国際的にはより影響力を増大させるものとみられる。2004 年前半に議長国を務めるアイルランドは安全保障上、中立の立場をとっていることもあって紛争の防止を重点領域にしている。
紛争の防止に対する EU の取り組みの検討を通じて、EU の対外関係全般の理解を深めることができよう。EU は近年、軍事的危機管理実施 のための軍事能力の整備に努めつつあるが、加盟国の拡大、通商、援助など、紛争防止に有効な非軍事的リソースを豊富に有しており、これをいかに用いているかとい
う点について明らかにすることは、日本の対外政策にとっても役立つ点があるものと思われる。本稿は欧州連合の基本資料に加え、1989 年より現地に長期滞在し、もしくは定期的な訪問を重ね、面接調査によって直接の担当者より収集した資料に依拠している。とくに本稿に直接かかわる面接調査については、2003 年6Ð7 月、DESK の研究調査費、および同年11Ð12 月、国際基督教大学Ô21 世紀 COE プログラムÕ により実施が可能となった。
その100に続く 以上
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