「平成の船中八策」を実現する市民の会、その278[欧州連合における(言語問題⑭)」
なぜ母語は大切か
この章はスウェーデン人以外のみなさんにとっても、とても大切な
内容ですので、ぜひ飛ばさず読んでください。ここでお話することは、
私の母語であるスウェーデン語に限らず、世界中のほとんどの言
語にも当てはまることです。みなさんの母語がまだ危機に瀕してい
なくても、もしかして数年後にはそうなっているかもしれないのです。
私たちはお互い助け合うべきなのです。少数の言語しか存在しない
世界に向かって進む道は、不安と争いで満ちているのです。
世界では英語による植民地化が進行しています。外国から受ける
政治的、文化的、技術的な影響は好ましくない影響を与えるという
よりは、かえって豊かにしてくれることがわかっています。しかし
あまりに急速に英語の影響を与えたために、今やスウェーデンの
言葉や文化を脅かす存在にまでなってしまいました。スウェーデン
人言語学者の中には、数世代後には、スウェーデンの主要言語は
英語になってしまうかもしれないと言っている学者もいます。そのとき
には、言語だけではなく、文化も英語に支配されてしまっていること
でしょう。
何千語という言語が消える
言語学者らによると、100年後には、何千という言語が消えてしまう
そうです。
スウェーデンでは、状況によっては、スウェーデン語より英語の方が
主に使われることがあるという困った状況になっています。ここ何十
年かで、特に自然科学、医学、工学といった分野の研究や高等教育
で、英語がだんだんと力を増しています。
分野の消失
英語の拡大に伴い、スウェーデンでは「分野の消失」の危険性が叫
ばれるようになりました。ここでいう「分野の消失」とは、科学や文化
において、ある分野そのものそっくり失ってしまうという意味です。
例えば、医学に関する「分野の消失」の例として、次のような現象が
みられます。
- 医学の参考書物の大半を英語が占めている。
- 医学の講義またはコースそのものが英語で行われている。
- 医学論文のほとんどが英語で書かれている。
学術論文の大部分は、概して英語で書かれています。スウェーデン
語の論文には英語の要約を必ず付けなければなりませんが、英語
の論文にはスウェーデン語による要約は必要ではありません。
言葉だって死ぬ
言語が衰え消えてしまうとき、一体そこでは何が起こっているのでし
ょうか。ある分野で一旦言語の使用が止まってしまうと、もはやこの
言語はその分野におけるコミュニケーション手段として発達しなくなっ
てしまいます。新しい事象に対応する言葉も生まれなくなってしまい
ます。例えば、スウェーデン語が医学研究の分野で使われなくなった
としましょう。その場合、やがてスウェーデン語で話した方がいいよう
な場合でも、新しい研究に関して書いたり話したりするために
スウェーデン語を使うのは難しくなるでしょう。これは、医学のある
分野において、スウェーデン語がある医学知識を説明する言語とし
て機能を失ってしまったという、「分野の消失」のシナリオを表してい
ます。もしこのような状況が続けば、学生はもっぱら英語で医学を学
ぶばかりであり、スウェーデン語から医学全体が遠ざかってしまうと
いうことにもなりかねないのです。
スウェーデン語審議会(Svenska Språknämnden)では、「分野」全体
がスウェーデン語を必要としなくなってしまうのではないかと憂慮して
います。国際化がますます進む政治の世界においても、銀行業、
財政、コンピュータ、情報技術の世界においても、スウェーデン語の
単語と表現が不足しています。このことを考えれば、スウェーデンの
教育と研究が英語で行われていることは、何も不思議なことではない
のです。
スウェーデンがEUに加盟して以来、政治の分野において、英語が重要
な役割を占めるようになりました。産業や商業では、スウェーデンの
多くの会社が、英語を企業言語として採用しています。つまり話すとき
には主に英語を使い、書類は英語で作成するといった具合です。こう
いったケースでは、スウェーデン人同士がコーヒーを飲むときぐらいに
しか、スウェーデン語を耳にすることができません。
ここで起こっていることは、つまり、スウェーデン語が自国の文化と社会
を伝承する力を失いつつあるということを意味しています。
スウェーデン語から英語への「分野の消失」は、とりわけ、社会に関する
民主主義的な議論からほとんどのスウェーデン人が締め出され、大事な
知識からも遠ざけられてしまうことを意味します。このような
「分野の消失」は、数々の問題を引き起こします。例えば、専門家以外
の人々に知識を広めることが困難になります。科学研究における問題
を見通す力を弱め、様々な疑問に対応するために欠くことのできない
一般の議論が開かれる機会も減少します。将来、科学者たちが自分の
母語で科学的知識を語ることができないからといって、環境や医療の
論議などに関する科学者の知識もろとも、国内の議論から隔絶されて
しまってもいいと思いますか。
その279に続く 以上
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