「平成の船中八策」を実現する市民の会、その287[欧州連合における(言語問題23)」
17世紀から変わっていない
英語のつづり方は17世紀からほとんど変わっていません。英語の表
記法を一新することはできないのでしょうか。残念ながら、英語には
一つの文字が一つの音を表すというシステムがないので、それは無
理な話です。実際の20音の母音を表すのに、英語の5つの母音の文
字では足りません。もし表記法を改変したとしても、新しくアルファベ
ットを増やすか、または英語の発音体系そのものを改変しなければ
なりません。どちらの方法も現実的な方法とは言えません。英語は
世界中それぞれの地域によって、発音が大きく異なるので、どの地
域の英語をもとに新しい表記法を作るか、意見をまとめるのはほと
んど不可能です。そのうえ、英語表記の改変を実行に移せるような
権威をもつ言語機関がないのですから、やはり表記の改変は無理
なようです。
スウェーデン人英語学者、ヤン・スヴァルトヴィック(Jan Svartvik)は、
著書の中で次のように述べています。(出典参照)
「英語の人気がとくに高まり、世界中に広く普及しましたが、この状
況はかえって、将来英語が国際語になる可能性を難しくしています。
世界で話されている英語の中には、わかりにくい英語もあります。
お互いに理解し合えなくなるほど、英語がさらに複雑に分化すると
いう、困った状況にもなりかねないと危惧する人も少なくありません。…」
「…学者たちは、英語に関する、ますます多くの論文を書いています。
マック・モレイ(Mac Murray)は、母語から別の外国語に切り替える
危険性について、貧困な英語力は貧困な思考につながる、ということ
を次のように示唆しています。『英語が母語でない人が科学雑誌に
書いた英語の文章は、微妙なニュアンスに欠けた含みのない文章
である。』」
111人の医者
2000年、デンマーク人とノルウェー人とスウェーデン人の一般開業
医111人が、10分間、全く同じ内容の論文を読むという実験が行わ
れました。被験者の半分は母語で、残りの半分は英語で読みます。
実験直後、被験者は論文の内容に関する質問項目に答えます。
この実験に参加したデンマーク人、ノルウェー人、スウェーデン人の
医者は、誰もが学校教育の早い段階から英語を学び始め、テレビ
や映画を通じてずっと英語に慣れ親しんできた人ばかりです。また、
彼らの母語は英語に近い言語です。医学コースの学術論文の大部
分を英語で読んできており、今でも被験者の多くが、英文の医学雑
誌を講読しています。被験者となった医者は自らの英語理解能力
が優れていると答えています。また、毎週、英語でなんらかの医学
情報を得ている人は全体の42%でした。
実験結果では、自分の母語で論文を読んだ被験者の方が、英語で
論文を読んだ被験者に比べ、はるかによい結果を示していました。
英語で論文を読んだ人は、母語で呼んだ人の数値から25%も下回
る数値を示していました。
出典:Läkartidningen(スウェーデンの医学専門雑誌), 26-27号,
2002年
一般のスウェーデン人学生は、中学校卒業(9年間の義務教育)の
時点で、表現語彙:約1000語、理解語彙:約1500~2000語を習得
しているべきだとされています。
50万語
英語には、他の言語よりかなり多くの語彙が存在します。ゲルマン
語とロマンス語が合わさったことによって(11世紀にイギリスで起き
たノルマン・コンクエスト以降)語彙が2倍に増えたからです。世界
最大収録語彙数をほこるオックスフォード英語辞典は、50万語に
のぼる語彙を収録しています。しかし、新しい語彙は毎日増え続け
ているので、実際の語彙数はさらに多くなります。常用単語数は
1万5千語です。1万5千語すべての単語を覚えていれば、英語で書
かれた文章の約95%の単語を理解することができ、ほぼどんな言
語的状況にも対応することができます。文章中に5%以上意味の
わからない単語があると、十分に内容を理解するのは難しいと言
われています。
アメリカのスティーブン・ピンカー教授は、『言語を生み出す本能』
(Steven Pinker, “The Language Instinct”)という実に興味深い本
を書いています。その本の中で、彼が引用しているウィリアム・
ナギーとリチャード・アンダーソンの研究結果(William Nagy,
Richard Anderson)によると、高校を卒業した平均的アメリカ人学
生(計12年の学校教育を修了、年齢18歳)の語彙数は、約4万5千
語だそうです。この数は、単語の語形変化、固有名詞、外国語の
単語、頭字語(例えばNATOやUNESCOなどの単語の頭文字を
とってつくられた単語)、形成要素である単語を容易に分けられない
合成語を除いた語彙の数です。もし数に加えられなかった単語も
含めると、その数はおそらく6万語近くになり、学生たちは生まれた
その日から、毎日10個の単語を覚えてきたという計算になります。
ロイヤル・メイル
英語はイギリス人にとっても難しい言葉なのです。ロイヤル・メイル
(英国郵政局)が最近行った調査によると、つづり間違いや文法の
誤用だらけのいい加減なビジネス・レターのせいだけで、イギリス
の会社は毎年60億ポンド(日本円で約 1兆円)の損失を出している
そうです。調査対象者の31%が、仕事のやり取りの際、提携先の
会社の英語の間違いがあまりに多かったために、ほかの提携先
を探したことがあると答えています。
その288に続く 以上
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