検診と放射線
検診と放射線
検診とか医療で行われるX線検査は安全だとの説明はインターネット上で沢山見つけることができるのだが、どれくらい危険があるのかを説明するサイトはなかなか見当たらない。放射線被曝は検診とか医療のほかにも色々なことで起るので、検診や医療による影響だけを正確に知ることは難しい。だが、医療では危険の疑いのあることは避けるのが常識で、薬では生命の危険があれば使えない。平成16年1月英国の医学雑誌ランセットは、「日本のがん死のうち3.3%は医療被曝によるものである」との論文を掲載し、日本の多くの新聞が取り上げた。続いて週刊朝日も本当かどうかを記事にしている。インターネット上では愛知がんセンターから世界33か国のがんを年令調整死亡率でまとめたデーターがあったが、WHOのデータが充実したためか、消えている。これらによると日本は色々ながんの増え方が著しかったり、減り方が少ないことが明らかで、ランセットの指摘が当っているのかを検討せずにはおられない。10年前から、 放射線被曝がどれくらい危険なのかを知ろうとして調べたところ、我が国の白血病・肺がん・肝がんなどの増加には検診による被曝の影響もかなりありそうなので、結果をここに書くことにした。肺がんは喫煙、肝がんはC型肝炎の流行が主因とする説からすればかなりの異説であるが、日本のがん増減の原因をかなり細かいところまで説明できていると思う。
がん死亡率の動向については、日本は厚生省が毎年度に刊行する人口動態統計、世界の国々はWHO CANCER MONDIALを利用した。今回は、放射線被曝・白血病・肝臓がん・肺がんについてのデーターから、放射線の危険度は放射線影響研究所の値くらい高いこと、がん検診や診療に使用される数ミリシーベルトの少ない被曝でも危険があることを書いており、胃がん・乳がん。その他のがんについても追加を予定している。世界のデーターはグラフとして表示していないので、WHOのデーターを参照されたい。
WHO Cancer Mortality Database www-dep.iarc.fr/dataava/infodata.htm
このページはグラフを大きく表示する関係で、モニター画面の解像度には800×600ピクセル、画像フォーマットはPNGを用いている。当サイトの作成者の住所・氏名を記載する。
香川県綾歌郡宇多津町131番地1
眞鍋外科内科医院
医師 眞鍋 攝
は じ め に
放射線被曝の危険度
放射線被曝で起るがんの危険は国際放射線防護委員会(ICRP)の定めた率を基に検討されていることが多い。この基準は英国・米国・フランス・スペイン・日本のデーターによるもので、我が国で医療とか検診に利用される放射線の危険についても、この基準からして安全だとされている。しかし物理学者や医学者の間では、左表のようにもっと危険だとの主張もある。10ミリシーベルトの放射線を全身に浴びた時の悪性腫瘍発生の危険率は、ICRPの値の10倍のものまである。下表は発生するがんの臓器別分布表だが、放射線を浴びない状態でのがんの分布率と考えてよい。この値は日本・米国・英国・プエルトリコ・中国の生涯がん死亡確率を平均したもので、日本だけのものとは少し異なっている。放射線を各臓器が同じ量浴びると、各臓器のがんは同じ率増える。例えば腹部全体が同じ量の放射線を浴びたとき、胃がんが10%増えれば、膵臓・腎臓などのがんも10%増えることになる。繰り返しになるが、日本人が全身被爆して、胃がんが10%増えれば肺がんも10%増えるが、日本では元々胃がんの人数は多いので、外人に較べて胃がんの人数は多く増え、肺がんの人数はそれほど増えない。骨髄は体幹部に広く分布しているので、肺の撮影のように2分の1程度の骨随が被曝するときは全身被曝に較べて半分程度増加することになる。
放射線を浴びると染色体が損傷され、その結果生じた異常な細胞が白血病やがんになるとされている。白血病は年令に関係なく10ミリシーベルト当たり1.5人余分に増えるが、増え始めは3年後からで、7~8年後に最も多く、その後次第に減る。また、がんは9年後から増え、自然発生がん死亡を基準にして30~40年後に最大の増加率となり、以後次第に減るとするのが定説となっている。また、がんについては同じ線量を被曝しても、若い時の被曝ほど高い率で増え、55才以上の被曝では殆ど増えないことになっている。しかし自然現象として起っている染色体異常は高令者にほど多いのに、放射線による染色体損傷が高齢者で起りにくいとするのは矛盾している。この件については白血病の項などで触れる事にする。
300ミリシーベルト以下の小線量被曝では放射線の影響はないとの説もある。この仮説を楯にして、、100ミリシーベルト近いCT検査などが多く行われている。だが、X線撮影を受けた小児のデーターなどをもとに、ICRPでは小線量でも影響があるとの説を支持している。実際、結核検診で利用された10ミリシーベルト以下の被曝でも、白血病・がんの増加が起きていることを明らかにする。
ICRPでは職業上の被曝と一般公衆の被曝に別けて各々の年間線量限度を20ミリシーベルト、2ミリシーベルトと定めている。職業上の限度は18才から65才まで継続して仕事に従事しても65才まで毎年がんで死亡する率が0.1%増に止まる量が容認限度であるとして決められ、公衆はその10分の1に定められているが、自然からあびる放射線量1ミリシーベルトを除くと公衆の人為的な被曝線量は1ミリシーベルトが限度値となっている。
放射線は色々なことで浴びている
大気圏内での核実験
終戦後5年経って大気圏内で核爆発実験が盛んな頃、「雨に濡れると放射線で白血病になるから必ず傘を挿せ」と言われた記憶のあるのは、昭和25年より前に生まれた人である。核実験の影響で大気中の放射性プルトニウムが増えたことについては、平成10年10月10日に「北極の氷に含まれるプルトニウムの量」が朝日新聞に掲載されている。1945年、広島・長崎に原爆が投下されたあと、大気圏内での核実験によって北極の氷に含まれるプルトニウムの量は増え、とくに1950~1965年の間が高い。大気中のプルトニウムは肺に吸い込まれて沈着し、肺がん増加を引き起こす。核実験で同時に発生した放射性ストロンチウムは大地に降下して農産物に吸収され、食物連鎖で牛乳などから骨に吸収されて白血病を引き起こす。米国のゴフマンによると、世界で95万人の肺がん死が増えたとしている。また、ソビエトの原爆開発者であるサハロフは50万メガトンの大気圏内核爆発でがん死が60~100万人増えたとしているが、実際は450メガトンなので400万人のがん死が増えていることになる。日本でも、肺がん・白血病が相当増えているが、この原因が大気圏内核実験の影響だと知っている人は少ないのでなかろうか。肺がんは煙草が原因と強く言われいるが、この事については、肺がんの項で述べる予定をしている。
空路利用による宇宙線被曝
飛行機で高度1万メートル・20時間かけてヨーロッパへ行くときの被曝量は0.07ミリシーベルトと言われている。10往復すると1.4ミリシーベルトとなり、公衆被曝線量の限度を超えるが、問題にはなっていない。そこで、航空機に搭乗して被曝する放射線量は容認されているから、同じ量の被曝があっても受忍限度内で納まっているとの主張がある。一般の人は航空機に搭乗して被曝するとは殆ど知らされていないので、受忍しているとも思っていないだろう。平成10年頃、ドイツの航空会社で5年以上勤務したパイロットでは脳腫瘍が倍になっているとの報道があった。長期間勤めても、職業上被曝の限度からすると0.1%増になっているので、5年で100%では1000倍もの脳腫瘍が発生したことになる。ICRPの基準より放射線被曝はかなり危険と考えるが、操縦士の適性検査などでX線検査が行われて被曝しているかの確認がないので、放射線の危険率が1000倍なのか明らかでない。
検診と医療
日本では昭和25年以降結核予防法による胸部撮影が学校・職場で続けられている。医療施設にはX線診断装置の普及が進み、医療による放射線被曝も世界有数と言われている。40才以上になると肺がんや胃がん検診が推奨され、被曝量は増えているが、がん検診の有効性評価では検診による被曝は影響がないとされている。当サイトでは検診によって逆にがんや白血病が増えているのでないかと疑われる事実を並べている。米国の医学者ゴフマンは、その著書「人間と放射線」で放射線被曝の危険はICRPの7.5倍と主張し、また、6才前後の幼児で歯のX線撮影を受けると将来2千人に1人が脳腫瘍に罹ると主張している。1975年頃からCT検査が始まり、このお蔭で脳腫瘍の診断が正確に行われるようになっているが、大量放射線被曝を伴い、1980年以後20年間に脳腫瘍死は30%増えている。CTや歯科での頭部被曝は相当増えているので、あと10年で脳腫瘍は倍になると予想している。
医療被曝には、線量限度が適用されないが、その理由は以下のとおりである。
1 医用照射はそれを受ける人の直接の利益のために行われる。
2 行為の正当化と防護の最適化が適切に実施されていれば、患者の線量は医療上の目的に照らして十分低い。
3 一律の制限を設けることは、必要な医療行為を制限することになる。
だが、医療従事者には線量低減に対する関心が薄く、同様の検査でも、線量が2桁も異なる場合がある。また、「念のため撮影」とか、過度の撮影回数など医療行為の正当性を疑われることもある。
結核あるいはがん検診などによる被爆は、厳密には医療被曝に当たらないので、一般公衆被曝の限度内で行うべきものだが、少なくともICRPの勧告に従って被曝線量限度は決める必要がある。
建築家屋からのラドンによる被曝
岩石や土壌中とかこれらを原料とするコンクリートなどからはラドンが大気中に拡散し、気道や肺に沈着してα線を放出、肺がんの原因になっている。スエーデンなどでは建築物で換気規制が行われているが、日本では木造建築が多く、床下に空間があって地面と床面が離れており、しかも建物には隙間が多くて換気も十分であったので、欧米ほど問題になっていなかった。近頃日本でもコンクリート住宅が増え、換気も悪いことから、注目されつつある。1998年にアメリカ科学アカデミーは米国で年間に肺がんで死亡する15万7千人のうち1万5千~2万2千人はラドンが原因と発表した。このほとんどが喫煙者で非喫煙者は多く見積もっても2900人程度。ラドンによる肺がん死に喫煙が大きく関連していた。平山雄氏の煙草が肺がんの原因説は今も有力であるが、この根拠となったコホート研究は、核実験によって大気中の放射性物質が増えた時期に行われており、大気中の放射性物質増加・喫煙・肺がんの関連でみると似たところがある。今では大気圏内核実験が行われなくなり、大気中の放射性物質も減少しているので、煙草を吸っても肺がんになることは昔のように多くはないだろう。それでも、煙草が呼吸器疾患の原因であるのは間違いないので、煙草を吸わないに越したことはない。
白 血 病
我が国の白血病死亡率の動向では以下の特徴がある。
1 1945年以後大気圏内での核爆発実験が盛んに行われ、日本でも白血病による死亡率が増加するが、世界の国々の中でも増加が長期間続いている。
2 1950年より 結核予防法による学童検診が全学年で実施されていたのが、1972年に小・中・高等学校入学時に限られたとたんに5~19才の白血病死亡率が減りはじめ、1990年には1945年以前と同じところに戻っている。
3 20才以上の年令層では、1990年まで増加が続き、その後減少はしているが、減少率は20%以下である。20才以上で続けられている職場検診も影響もあると考えられる。
4 がん検診の行われている 40才以上では、高令になるほど白血病死亡の増加が著しく、世界でも例のない増加であるが、この原因は問題なっていない。
大気圏内での核実験による白血病増加
核実験で大気に放出された放射性ストロンチウムは大地に取り込まれたあと、食物連鎖を通して人間の体内に入り、骨髄に沈着して白血病を増やす。食欲の旺盛な若年者ほどストロンチウムが骨髄に取り込まれる量も多く、白血病も多く増えると考えられる。ところが1955年以前の胸部検診による影響が少なく、白血病増加が核実験の影響で起っている時期でも高令者ほど白血病が増えている。しかも、今も高令になるほど白血病死亡率はたかいままで、高令であるほど放射線被曝による白血病の危険が大きいことになる。
検診で増えたがん
1945年から起った白血病の増加は、北半球の中緯度地帯にある多くの国でみられる。大気中の放射性物質は1952~1962年にピークとなっており、白血病は1970年頃から各国で減り始めているのに、我が国の白血病はなお増加が続くことと、学童では胸部検診が1972年以降行われなくなったとたんに白血病が減っていることを考えると、結核集団検診が、白血病増加の一因であったことは明らかである。1950~2000年の間で5年毎に5~19才の結核と白血病の死亡数を比較したのが右表である。1950年の白血病死亡率は10万人あたり男1.5人女1.0人であるので、これに相当する人数を過剰死亡数では除いてある。1950年に結核予防法による胸部検診が始まった頃には、結核による死亡者がかなり多いので、検診の必要性に疑いはない。白血病による過剰死亡者の中には、大気圏内での核爆発実験によるものも相当含まれているが、大気中の放射性物質の最終ピークがあった1965年から20年経った1985年には核実験による白血病は殆どないはずである。そこで、1985年以降では5~19才の白血病過剰死亡者は結核検診による犠牲者と考えられる。
検診でのX線被曝の危険度
結核検診が始まった1950年には、胸部撮影の線量は40ミリシーベルト程度だが、その後の技術の進歩により、1972年には撮影線量は大人で4ミリシーベト前後であるので、身体の小さい9才前後では2ミリシーベルトと推定される。胸部撮影では骨髄の半分程度が被曝するので、全身に換算すると1ミリシーベルトとなる。この被曝線量では、ICRPの値に従えば白血病死亡は10万人あたり0.15人増である。1972年に9才前後であった年令階層は1980年の15~19才となるが、この年1年に限っても白血病過剰死亡率は10万人あたり1.0(死亡率は2.5)で7倍も高い。
また、65~69才での白血病死亡率は10万人あたり15を超えているが、これはICRPの値に従えばこの年令階層の全員が55才以後毎年全身に90ミリシーベルト被曝している勘定になる。日本人の被曝量は3ミリシーベルトまでだが、高齢者は医療や検診による被曝が加わり、6ミリシーベルトであったとしても、60才前後での被曝危険度は白血病に関してICRP値の15倍以上であることになる。(他に白血病増加の原因が特定されれば別だが)
なお、放射線被曝による白血病増加のあと10年遅れてがんの増加があることも考えることが必要である。
職場検診での胸部撮影は節目の年に限る動き
1997年に”乳がん検診にマンモグラフィーを導入しないこと”を訴えて厚生省と直接交渉を行った団体(宝塚市 中川慶子氏等)があった。公開質問状には次の内容が含まれている。
1) 費用効果からみて超音波法が良いのでないか。
2) マンモグラフィーては日本人の乳腺は形からみて圧迫するとかなり痛くて多くの人が耐えられない。
3) マンモグラフィーが乳がん検診に有効とするデーターが乏しい。
4) 集団検診で行われた胸部撮影ががんを増やしているとの説をどうみているのか。
この交渉の場での厚生省の発言内容には次の項目があった。
1) マンモグラフィーの導入を当分見合わせる。
2) 近くがん検診の有効性を検討した報告書を刊行する。
3) 厚生省が主体となって行っていたがん検診を地方自治体にまかせる。
半年後に公表されたとき、反対が相当あったが、結局実施されている。2003年になって、職場検診ががんを増やしているとの説があるので、毎年行われていた胸部撮影は節目の年に行うように回数を減らすことが厚生省より提案され、以後3年ごとに繰り返されている。これが実施されると放射線技師が2000人不要になるので、検診関係の施設が反対しているとの噂があるが、もし実施されると5年後には25才以下、10年後には30才以下、・・・・25年後には45才以下が胸部検診をあまり受けていない世代となり、白血病が減って、”集団検診で行われた胸部撮影ががんを増やしているとの説”が裏付けられるだろう。なお45才以上では、肺がん・胃がん検診とか、高令化による疾病の治療でX線撮影を受けることが多いので、これらの抑制がないと白血病は減らないだろう。最近では厚生労働省も職場検診での胸部撮影は厳格に実施していないようである。
肺 が ん
肺がんの増えた地域
大気圏内での核実験がほとんど北半球の中緯度地帯で行われ、生成された放射性物質が偏西風にのって拡散したので肺がん増加もこの地域に多い。中国・ソヴィエトによる天山山脈セミパラチェンスクでの核実験は西側にある日本で白血病・肺がんを増やしている。大気圏内核実験による肺がん増加は1970年には始まっているが、当時のわが国での年間肺がん死亡数は1万人である。これが1980年には2万人を超え、1998年には5万人超えている.1980年~2002年には肺がん死合計85万人を超えるので1970年の1万人を基準にして60万人余分になる。この日本の肺がん過剰死亡者の半数が核実験によるものとすると30万人となるが、核実験の被害は60年以上続くので、今も死亡数は増え続けている。地中海に面したスペイン・フランスなどで肺がんが増えているのは、サハラ砂漠での核実験による影響などが
考えられる。また、チェリノブイリの原子力発電所の事故では周辺諸国の白血病・肺がんの増加が今も続いている。これに反し、北欧諸国や南半球のオーストラリア・ニュージランド・ペルーではあまり増えていない。詳しいことはCancer Mondialをみていただきたい。
日本の肺がんの特徴
1)大気圏内核実験は、北半球の中緯度地帯で行われた結果、日本でも、この地帯の多くの国と同じように1945年以降は肺がんの増加が起っている。1962~1972年に大気中に含まれるプルトニウムの量がピークとなり、これに応じて肺がんが1995年にピークとなり、その後は減り始める国が多いのだが、日本では この あとも増加傾向 にある。白血病の増減には結核集団検診が関係していることを述べたが、胸部の被曝が白血病の増加を引き起こしているとなると、その後に肺がんの増加が続いて当然である。北半球中緯度地帯の多くの国では1993年には肺がんの増加が止まり、減り始めるのだが、日本では胸部検診の影響でその後も肺がんの増加が続き、2000年になってやっと減り気味になっている。1950~1970年の肺がん死亡増は年齢階層に関係なく、ほぼ同じ割合であり、高令者でも放射線被曝の危険は高いことを示している。
男では1975年以後、40才以上では●印で示す1930~1935年生まれの年令層で肺がんが第一のピークを迎えるが、その後に生まれた世代での減少傾向は長く続かず、1945年以後に生まれた年令層で肺がんの増加が再び起っている。第一のピークは1950年に結核予防法による胸部検診が始まった時に20才前後であって。大学受験とか就職で盛んに胸部検診をされた上、就学・就業後も頻回に検診を受けた世代である。第二のピークが始まるのは、●印で示す1945年生まれが1950年に小学校に入学したあと毎年胸部検診を受けた世代からであることに留意する必要がある。なお、1965年生まれ以後の世代では大気中のプルトニウムが減少した後に生まれており、しかも1972年に学童の胸部撮影がほぼ廃止された後に学校生活を始めたので、放射線被曝にあまり縁のない世代であり、肺がんも減ることが見込まれる。職場検診による胸部撮影はやっと2003年に縮小されたが、白血病の減少は10~15年経たないと明らかにならない。また肺がんでは20年以上経たないと減らないので、1965年以後に生まれた世代が高齢化する2020年頃までは世界各国なみには減らないと予想される。女では1930~1935年生まれのピークは明らかでないが、これは男に較べて受診率が低いためと思われる。なお、1945生まれからの肺がん増加は男に較べると少ないが、これは女は男に較べて放射線に対する感受性が低いためと考えられる。
日本の肺がんの増加は世界の多くの国で起ったように大気のプルトニウム汚染が一つの原因であるが、これによる被曝はほぼ肺に限られ、肺がんだけを増やしている。もう一つの原因である胸部撮影では、肝臓・胃なども同時に被曝している。肝臓は大気汚染の影響は受けていないので、胸部撮影による各世代の肺がんの傾向に並行した肝がんの増減を見ることができる。これについては日本の肝がんの所で検討する。
肺がんと煙草
平山雄氏が肺がんと煙草の関係を追求したコホート研究が行われたのは1955~1983年であるが、この時期は大気圏内での核実験により放出されたストロンチウムが骨髄に取り込まれて白血病が増加し、同時に肺は大気中に増加したプルトニウムによる放射線で被曝して、
肺がんが増加する原因となった時にあたっている。このあと世界の多くの国で1975年頃白血病のピークを迎え、1993年には肺がんもピークとなって、以後減少が続いている。CANCER MONDIALで20~40才の年令調整白血病死亡率と45~65才の年令調整肺がん死亡率の関係を追ってみると、白血病死亡率が10万人当り2.5以下にならないと肺がん死亡率が下がらない傾向がある。肺がんが煙草が原因で増えているとすると、肺がんに先立って白血病の増加が起っている原因を説明できにくい。1993年日本医師会雑誌に掲載された記事によると、米国では禁煙運動で肺がんが減少したが、日本では禁煙運動が不十分だから肺がんも減っていないことになっている。ところが、米国では禁煙運動が行われる以前から肺がんは日本に較べて増加率が低く、殊に45才以下では肺がんは早くから減少傾向にあるので、日本との比較対象にはならない。禁煙運動が始まるとすぐに効果があって肺がんが減るのも不思議である。45才以上では1925~1930年生まれの世代に肺がんのピークがあるが、兵役で原爆実験にかり出されたの原因かもしれない。
喫煙者では気道上皮が損傷されており、大気に含まれるプルトニウム等を吸い込んでも排出する力が弱っているので、肺にプルトニウムが蓄積されることから、肺の被曝量が多くなり、肺がんが増える。ゴフマンによると米国では喫煙者は非喫煙者に較べて10倍の肺がん死が起っている。平山雄氏によると日本では喫煙者は非喫煙者に較べて5倍の肺がん死が起っている。この差が生じる原因としては、ては、胸部検診によって非喫煙者の肺がんが倍に増えていることで説明がつく。つまり、右図にでは喫煙者での(肺がん10+検診による肺がん1) と非喫煙者の(肺がん1+検診による肺がん1)を比較しているので11対2になっている。なお非喫煙者では肺がん死が少ないので、検診の効果も少ない。今は40才以上で無差別に肺がん検診を行っているが、喫煙習慣により分別して行う必要がある。
喫煙者で特に肺がんが増えるのは大気中の放射性プルトニウムが増えたのが原因ではあるが、これも今では1952~1962年のピーク時に較べて50分の1に減っているので、喫煙によって肺に蓄積されるプルトニウムもかなり減少しており、肺がんになることも少ないので、禁煙の効果も少ないだろう。
ディーゼルエンジンの 排気ガスとか粉塵も喫煙と同様気道損傷を起こすので、肺にプルトニウムが沈着する原因となって肺がんを増やした時期はあったが、今では肺がんの増える原因にはなり難い。自動車が増えて国道周辺の排ガスが増えたのは大気中のプルトニウムが減った1970年以後であり、公害裁判でも肺がん増加が争点になっていないようである。
日本の肝がん
日本の肝がんの特徴
1) 肺がんと同じように1975年以後、40才以上では●印で示す1930~1935年生まれの年令層で肝がんが一つのピークを迎えるが、男性ではこのピークが肺がんよりもはるかに明らかである。
その後に生まれた世代での減少傾向は肺がん同様な増加は続かず、1945年以降に生まれた年令層で肝がんの増加が再び起っている。これらのピークが肺がんと肝がんでほぼ同じところにあるのは第1の特徴であり、肝がんも肺がんと同じように胸部検診によって増加していると考えられる。細かいことを言うと、肺がんのピークは1928~1933年生まれのあたりにあり、肝がんに較べて2年ほど先の世代に現れている。この原因は、プルトニウムによる肺がんのピークが、胸部検診による肝がん・肺がんのピークより先にあり、二つの合成によるピークをみているためである。肝がんの増減には、大気圏内での核実験による大気のプルトニウム汚染は関係なく、胸部検診の影響が鮮やかに現れる。肺がんは核実験による大気のプルトニウム汚染と胸部検診の二つの複合した原因によって増加しているので、胸部検診による影響は薄められて現れている。
2) 男の肝がんの減少は1982年に30~34才であった世代(●に示す1948年~1952年生まれの世代)から明らかになる。これに比べると肺がんの減少は1995年に35~39才の世代からで、肝がんに比べて10年も遅れている。この原因は、肝がん増加の原因である胸部検診では1950年の被曝線量が最大で以後減っているが、肺がん増加の主要原因である大気中のプルトニウム量は1950~1965年には特に多く、肺の大量被曝期間が10年遅くまで続いているためである。
図中の●は1948年~1952年生まれの世代にあたり、1953~1958年に小学校へ入学、1972年結核検診が廃止された年に20才~24才で、20才まで全期間結核検診を受けているが、このあとの世代では検診中止で回数が次第に減っているうえ、技術の発達により撮影線量が次第に減るので被爆線量合計は少なくなる。1965年生まれ以後の世代では大気中のプルトニウムが減少した後に生まれており、しかも1972年に学童の胸部撮影がほぼ廃止された後に学校生活を始めたので、放射線被曝にあまり縁のない世代になる。▲に示す1958~1962年生まれでは肝がんは、1948~1952年生まれに較べ半分に減っている。10万人当たりの死亡率でみると、30~34才では 1.4-0.7=0.7減 35~39才では 3.6-1.8=1.8減 になる。このあとの1965年以に生まれた世代では、結核検診は受けておらず、余分な放射線被曝量はないので、肝がんの減少も世界の他の国並みに落ち着くだろう。なお、1972年には胸部撮影の線量は5ミリシーベルト以下になっている。放射線被爆の閾値が300ミリシーベルトとの説があるが、胸部検診による毎年5ミリシーベルト以下の被爆が1972年に止められたとたんに検診を免れた男の肝がんが減っていて、低線量被爆でも危険はありそうである。
3) 女性では60才以下では肝がんの減少が続いている。男性でも45才以下では殆ど増減がない。元々女性は放射線被曝によってがんになるリスクは低いうえ、1950年前後には就業・大学への就学も少なく、これに伴って胸部検診で被曝する機会も少なかったので、肺がん・肝がんに罹る危険も少ない。そのため女性の肝がんは外国並みに減り続けているが、最近になって男性同様●印に示す1930~1935年生まれの肝がん増加が目立っている。男性でも世界の多くの国と同じ様に減るはずだが、胸部検診の影響で減らなかったのではないか。胸部検診が始められた1950年の胸部撮影線量は40ミリシーベルトで年2回と推定している。当時の胸部撮影実施率は女で20歳前後では10%なので、平均して年8ミリシーベルトになる。女ではこの世代の動向は●のところに当たるが、各世代で肝がんは減少傾向にあることを考慮すると、この程度の線量でも30年後の50~55歳になって肝がんは20%以上増え、35年後の55~59才になると100%は増えている。ICRPの職業被曝の限度値設定では、18才~65才の間毎年20ミリシーベルト被曝しても毎年0.1%のがん死増で収まることになっていて、年8ミリシーベルト以下の被曝継続で20%もの増加は考えられない。最近盛んに行われるようになったマンモグラフィによる乳がん検診は2年毎で被曝量が1回あたり1ミリシーベルトなので年あたり0.5ミリシーベルトになる。これは1950年頃の結核検診の被曝量と較べると1%であるが、被曝線量はそのあと装置の改善で急速に減つていることを考えると、マンモグラフィを40才から行うと30年後70才を超えたあたりから0.2%以上の乳がん増加、35年後の75才を超えると1%以上の乳がん増加が見込まれる。
肝がんとC型肝炎
注射の回し打ちが原因でC型肝炎が伝染し肝がんが増加しているとの説が有力であるが、これには以下の点で疑問がある。
1) 肝がんと同時に肺がんが増えている。肝炎ウイルスに感染すると肺がんも増えるのだろうか。
2) 特に1930~1935年生まれの世代の男に突出して肝がんが多い原因が説明されていない。
3) 男女で差がある原因が明らかでない。
4) 女性では肝がんは減っているので、C型肝炎の伝染性は疑わしい。
5) 注射の回し打ちは1980年までは行われていたのに、その間に注射の回し打ちを受けた世代で肝がんが次第に増加してはいない。1980年に20才であった世代は1990年に30才、2000年には40才になるので、肝がんが減るのはこれ以後になるはずだが、結核検診が1972年に停止された時20才であった世代である1980年に30才、1990年に40才、2000年に50才からと早くから肝がんが減っている。
大気圏内核実験の行われたビキニ環礁の住民にC型肝炎が多いことから、被曝が肝炎ウィルスの生息に都合の良い体質を作るのでないかとの説があるが、被曝によって突然変異を起こしたウィルスが出現した疑いもある。
これらの事実の説明は、結核検診が肝がん増加の原因とした方が説明がつく。
世界のがん動向
日本はがん大国
厚生労働省編の悪性新生物統計(人口動態統計特殊報告)には国別14カ国悪性新生物死亡率統計が掲載されている。
我が国の多くのがんで増加率がトップであることが注目される。
世界各国の肺がんは1992年前後にピークとなっているが、そのあとも日本は増え続けている。
胃のX線検査では上腹部にある肝臓・上部結腸・膵臓も被曝する。これらの臓器のがん増加は日本で著しい。胃がん検診の影響が疑われる。
米国が自国の生産する穀物を売り込むため、世界中に鶏舎・養豚場などを建設する穀物戦争を仕掛けた結果、動物性蛋白質の供給が増えて食生活が豊かになった。とたんに胃がんが減り続けているのは、食生活の変化が原因でなかろうか。
世界各国の胃がんは1955年以降減り続けているが、日本の減り方は少ない。胃がん検診が行われているのは日本だけであり、がん検診が胃がんの減少を抑えている疑いがある。
高齢者の胃周辺のがん
ま と め
放射線の危険度を我が国の白血病・肺がん・肝がんの動向から検討した。以下のことを少しは明らかに出来たと思っている。
1) 放射線の危険さは、ICRPの値が妄信されているが、検診で利用された放射線の影響は追跡されておらず、根拠がない。今回検討したところでは、放射線のリスクはかなり高い。割に早く現れる白血病についても、検診の効果検討で問題にされて い ない。医療で診断に利用している放射線が白血病死増加の原因でないかとの予防がん学(平山 雄著)での指摘も10年以上放置されている。放射線の影響は30年以上追わないと明らかにならない。
2) 高令者では被曝してもあまり影響がないとの説があるが、若年者と較べて白血病は多発し、がん増加は同じ率であり、高令者での放射線被曝の危険さは、若年者より高いと考える。
3) 肺がんの増加は大気圏内での核実験が主要原因だが、日本では結核検診での胸部撮影も影響している。
4) 日本の肝がんは結核検診での被曝量に関係がある。予防注射のまわし打ちによるC型肝炎の増加は副次的である.
5) 放射線を利用したがん検診の効果は放射線被曝で起る白血病・がんの増加で完全に帳消しになる。
6) がん検診を主導する医師は、放射線の閾値は300ミリシーベルトであり、これ以下の線量で行われているがん検診とか医療診断では、放射線の影響は無視してよいレベルと主張している。(www.yobouigaku-tokyo.or.jp/lb16_xry.htm 「検診と放射線」舘野之男)。だが、かなり少ない線量で行われた結核に対する胸部撮影でも、肺がん・肝がん・白血病をかなり増やしていることは明らかであり、胃がん検診が胃や周囲の臓器のがんを増やしていることを推測させるものである。医療で利用されているX線撮影も相当危険であるので、必要最小限にとどめる必要がある。
胸部検診の被曝線量は1950年には80ミリシーベルト、1970年には4ミリシーベルトと推定したが、この線量は多めに見込んで検討した。現今のマンモグラフィや胃がん検診では1ミリシーベルトと言われているが、検診を行う施設によっては10倍ほどの差がある。
参考資料
J.W.ゴフマン 人間と放射線 1991年
社会思想社 今中哲二 他訳
平山 雄 予防ガン学 1992年 メディサイエンス社
森 清一郎 ビキニ環礁における被曝調査を通して
第10回核戦争に反対し、核兵器の廃絶を
求める医師・医学者のつどい報告集
中川 保雄 放射線被曝の歴史 1991年 技術と人間社
草間 朋子 ICRP 1990年勧告1991年 日刊工業新聞社
厚生省 がん検診の有効性等に関する情報提供の
手引 1998年
以上は「真鍋医師」ブログより
より多くの方に知っていただきたいと思います。情報の拡散をお願いします。 以上
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