ユーロの問題点ーその⑤
だが、強国が弱小国を収奪しまくる仕組みは「持続的」ではない。相手がダウンしてしまうとゲームは終わってしまう。安全装置として「欧州金融安定化基金(EFSF)」が強化されようとしているが、今の規模では十分でない。拠出を求められた小国やユーロに入っていない英国が反対している。今の仕組みがドイツを中心とする「勝ち組国家」の利益につながると分かっているからだ。
ドイツが本気で身を乗り出さなければ支援体制はまとまらない。市場に不安が広がり、問題国の金利が跳ね上がる。ギリシャ危機が表面化して2年余りが経つのに、解決の糸口さえも見いだしていない。懸案になっている資金支援は「多重債務者への追い貸し」のようなもので、ユーロ体制の持続的発展を担保するものではない。債務切り捨てや、富める国から貧しい国へと財政支援など、荒療治はまだ始まっていない。
解決を難しくしているのは、経済統合や統一通貨について「本音と建て前」がごちゃごちゃになっていることだ。建前は「全ての国が一緒に豊かになるために」とされているので、ドイツ国民は「自分たちだけが多く負担するのは理屈に合わない」「自助努力の足りない国に私たちの税金を使うな」と主張する。
メルケル首相は「実はユーロは我が国に都合のいいルールで」とは口が裂けても言えない。冷徹な打算で救いの手を差し伸べようとしても「外交的敗北」と有権者は納得しないだろう。だから一歩を踏み出せない。民主主義の弱点だ。市場原理にそった政策の内実は「建前」ほど美しくはないのだ。
夜回りで私に教えてくれた興銀の幹部も、世間に対してそんな説明はしなかった。「金融秩序の安定のため」と抽象的な表現だった。あけすけに言えば、身も蓋もない話なのだ。大蔵省の指導で全てが決まった時代なら、そんな芸当も可能だった。
ドイツが得をする「共通通貨という仕組み」が、説明責任という時代の要請に揺れているのが今の風景だ。正直な情報が公開されなければ民主主義も機能しない。
決断できなければ、市場は待ってくれないだろう。選択肢は、ユーロ分裂か、ドイツが決断するか。しくじれば津波は世界に及ぶ。
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