「フォトクロミズム」の将来性は!その②
杉森 少し専門的になるかもしれませんが、迅速な色の変化がどのようなメカニズムで起こるのか、ご説明いただけますか。
阿部 私たちが使ったのはイミダゾール二量体と呼ばれる分子。これは紫外線をあてると結合が1カ所切れて2つのイミダゾリルラジカルに分かれ、それに伴って発色します。2つのイミダゾリルラジカルが、再度、結合してイミダゾール二量体になることで元の無色に戻りますが、液体の中ではイミダゾリルラジカルは拡散してしまいますので、再度結合するまでにかなりの時間を要します。その上、「ラジカル」は非常に反応しやすい不安定な状態ですので、溶かしている液体の分子などと反応してしまい、元の分子に戻らないものもあります。だから色はなかなか消えず、繰り返しフォトクロミズムを起こさせることは不可能とされてきました。
私たちの作った「高速フォトクロミック分子」は、2つのイミダゾリルラジカルの端に橋をかけたような形になっています。そのため、結合が切れてもイミダゾリルラジカルはバラバラに拡散することはなく、もっとも手近なラジカル同士がすぐに再結合して元に戻る。だからごく短時間で色が消えるのです。
杉森 そうした分子ならうまくいくという着想は、どうやって得たのですか。
阿部 いや、最初は偶然なんです。
当時、大学院の博士課程に在籍していた女子学生が、実験結果が予想と違うと言ってきた。単なる失敗かと思ったんですが、彼女が分子の構造や光に対する反応性を詳細に調べてくれたことが、「高速フォトクロミック分子」の開発につながったのです。
それで、これはいけるのではないかと。そこからは、理論計算に基づき、結びつける分子を取り替えるなど、改良を加えていったわけです。
杉森 きっかけをつくったのが女子学生というあたり、さすが青学という感じ(笑)。最近は理系女子、略して「リケジョ」なんて言葉もありますが、かつては「汚い、臭い」が代名詞だった化学の分野でも、女性は増えているようですね。
阿部 研究の環境がまったく変わりましたからね。それに、食品、化粧品など女性に身近な研究テーマも多いので、向いている分野ではないでしょうか。
女性の研究者の特長は、細かいところに眼が届き、あきらめないこと。今回の分子も、男性だったら失敗と簡単に片付けて、見逃していたかもしれません。
ですから、異なる方法論を持つ男性と女性がバランスよくチームを組んで研究を進めるのが理想だと、私は考えています。
杉森 その点、女子の多い青学の環境は、恵まれているといえますね。ほかに、こちらの化学の教育・研究の特色はありますか。
阿部 2004年に「化学科」から「化学・生命科学科」に改組しました。化学は物質を分子レベルでとらえ、分析していくわけですが、その方法論を武器として生命を考えることは、非常に有効です。学生にとっては、新しい視点で化学や生命科学を学べる、とてもいい環境が用意されていると思いますよ。
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