一本目はアメリカでの郵政事業の話。アメリカでは土曜日に信書配達をいよいよ中止することが決まったことが今週大きな話題になっていました。ネット通販な どで利用も多い小包便は週末配達も続けるようですが、それにしても中にはフェデックスやUPSの民間事業者が輸送の大部分を担当して、米郵政公社が担うの は集配センターからの最後の数マイルだという話も書かれています。
この論説記事は、リチャード・ジョンというコロンビア大学のジャーナリズム学の教授が書いたもので、この人はアメリカの郵政事業史の専門家です。

 この記事ではアメリカの郵政事業の成り立ちがわかります。日本では近代郵政の父は前島密ですが、アメリカでは、ベンジャミン・フランクリンに始まり、具体的にはフランクリンの死後ジョージ・ワシントン、ジェイムズ・マディソンらが近代的な郵政事業の立法に携わったとあります。

 フランクリン の作った郵便組織は大英帝国のカーボンコピーでこれを後の二人がアメリカ独自のものにしたようです。最初の郵便局は新聞を安い値段で配達できるということ や、政府に検閲されずに個人の手紙のやり取りを保証したことが決め手だった。「個人のプライバシー」というものが重要だったと。後者は本当かわかりません が、前者の新聞配達というのはわかります。この書き手の米国郵政史に関する著書が「ニュースの伝達」というタイトルです。

 今やメールに押されていますが、定期刊行物の配達だけはまだ郵便の出番があります。(その制度を悪用した日本の事件が郵便割引不正事件だったわけですが。)

 郵政事業は日本では民営化されましたがアメリカではまだ公社。しかし、いずれはこの公社も行き詰まるのでしょう。土曜配達の取りやめはそのきっかけになるような気がします。

Op-Ed Contributor
How the Post Office Made America
By RICHARD R. JOHN
Published: February 8, 2013
http://www.nytimes.com/2013/02/09/opinion/how-the-post-office-made-america.html?ref=global

 また、2本目のコラムとしては、専属のチャールズ・ブロウという黒人コラムニストの「自殺保守派」という文章が興味深かった。

 ア メリカではティーパーティーという政治集団が共和党内に出現して、それがまるで維新の会のようにアメリカ国内で旋風を2010年の中間選挙で起こしたこと はご存知かと思います。ところが、去年の議会選挙では、この茶会党の候補たちはそれまでの長老だった共和党議員を予備選で打ち負かして本選挙に望んだわけ ですが、妊娠中絶問題や移民問題で余りにも宗教原理主義的なスタンスを取ってしまったために、あまりふるいませんでした。それで共和党内では、茶会党の ピークは過ぎたというようなことが語られ始めていた。

 そこにブッシュ元大統領の側近だった共和党戦略家のカール・ローブが、「保守派の勝利へのプロジェクト」というものを打ち出して、茶会に批判的な財界人を巻き込んで、「ルーピーな候補」しか選ばない茶会党から党運営の主導権を奪いとろ うとしているという動きが出て来ました。
このコラムの中で、NYTのコラムニストは、茶会党の原理主義的な保守派のことを「スーサイド・今サヴァティヴ」と呼んでいます。

 茶 会党は反体制であるのですが、その宗教や中絶、財政赤字削減の問題に忠実になりすぎるために、「選挙で勝つこと」よりも、「自分たちの理念に殉じること」を良しとするのが問題であるという批判をしているわけです。アメリカでも神風特攻隊みたいな保守がいるということですね。
そこで思い出してしまう のが、小沢一郎軍団である「生活の党」や、自民党内のネット右翼たちであるわけです。この政治集団は例えば、前者であれば素朴な反原発感情を基盤にした支 持層を持ち、後者は対中国強硬派で固めています。ところが実際の政治は妥協の連続であるわけです。

 選挙というのは残念ながら組織を固めたほうが強い。維新の会のようなタレント的認識のあるカリスマ的政治家が風を吹かせれば別です。しかし、風で勝っても次の選挙では大量の一年生の落選議員を生み出すだけです。

 自民党が腐っても自民党というのは新人教育をこれまではしっかりとやってきたからで、派閥というものがその機能を果たしていました。

 ところが、日本の第三極はリベラルも保守も、それほど硬い組織票があるわけではない、「国民の生活」や「ふわっとした民意」を頼りに戦う空中戦で選挙を戦うわけです。特にこの二つは結党間もないこともありその傾向が強い。

 民 意とか国民の生活をすくい上げるというのは、体制派に対するポピュリズムです。維新の会の場合はもともと大阪自民党なので、ポピュリズムを装った体制派で はないかと思いますが、生活の方は衆院選で前身の未来の党がボロ負けしたことで分かるように、純粋なポピュリズム政党でした。

 ポピュリ ズムというのは茶会党でもそうですし、2008年の大統領選挙で旋風を巻き起こした共和党のロン・ポール下院議員もそうでしたが、体制派に対して沸き起こ る「ふわっとした民意」あるいは「草の根の怒り」を母体にした政治運動です。いままでの体制派からはポピュリストはだから毛嫌いされます。

 そ こで問題は、ポピュリズム政党は、一歩間違えば、個人が怒りで結集したような集団にとどまってしまって、批判はできるが政権担当能力や立法能力で疑わしい可能性が否めないということです。政治家である以上、当選した上で、国会で立法活動を行わなければならない。つまり、法律案の下書き程度は書けなければな らないということです。

 ポピュリズムはすくいあげた民意を立法によって結晶化させる必要があり、その際には様々な既成勢力との交渉も必要になります。交渉というのは相手がいることですから、利害の調整がどうしても必要になる。

 ポピュリズムというのはすでに何度も述べているように、ふわっとした民意が出発点でその点で極めて純粋ですから、場合によっては米国の「自殺保守」のようにこちらがわからの妥協を一切やらないということにもなりかねない。

 そういう政治勢力はやっぱり議席を安定して確保はできない。

 安易に妥協しすぎるのはもちろん問題です。しかし、自分たちの原則を踏まえた上で、捨てるべきところは捨てるというやり方が必要でしょう。要するに、物事に優先順位を付けるということです。
そこで参考になる話しとして紹介したいのは、コラムの中で登場する若手インド系知事であるルイジアナのボビー・ジンダル(共和党の次期大統領候補の一人)の言葉です。

 コ ラムでは、ジンダルが去年の共和党党大会で「妥協したり温和になったり、原則を捨てるべきだといっているわけではないが、ゼロにばかりこだわる共和党は愚かな政党」であると述べたことを要約して、ジンダルの視点を「物事を別の言い方で訴えること(talk diffrentely)と述べています。

 日 本の例に当てはめ、原発政策で述べてみましょう。原発ゼロを目指すということを語る場合には、「原発要らない」というアプローチだけではなく、「別の言い方で訴える」ことが必要だろうということです。原発政策は数十年のしがらみと利権と補助金の網の目の中にあり、単なるエネルギー問題ではなくなっていま す。「エネルギーは足りている」というだけでは済まない、原発自治体の財政政策の問題や既存施工業者の業態転換の問題もある。この産業構造転換の視点で物 事を訴えていった結果として原発はコスト面であわない可能性が高いことを、安全基準の制度設計の議論の過程で訴えていくことが重要なのではないかと私は思います。

 原発ゼロ派は、最終的な目標と過渡的な目標実現を混同していると思います。「今の安全基準の議論は不十分だ」という批判は正し いのですが、じゃあどうやったら「100点の安全基準になるのか」というイメージを持っていなければ議論になりません。その洗い出しを急いでやり政策提言にしなければ、原子力ムラには勝てません。(原発事故の悲惨さを感情面で訴えるだけではもっとダメです。相手はそういうセンチメンタリズムが通用しない百 戦錬磨ですから)

 アメリカのティーパーティのように、「自殺する反原発派」になるのであれば、それもよしですが。そういうわけにもいかないでしょう。

 日本のリベラル派が完全消滅するかどうかの参議院選挙が今年はありますから、その辺をよく考えていただきたいものです。

 これは、運動家や評論家は好き勝手に理想・願望を語りますが、政治家はそういうものでもないのでそれに引きずられないほうがいい、という話でもあります。

Op-Ed Columnist
‘Suicide Conservatives’
By CHARLES M. BLOW
Published: February 8, 2013
http://www.nytimes.com/2013/02/09/opinion/blow-suicide-conservatives.html?ref=global


 

以上は「ジャパンハンドラーズと合理的な選択」より

昨年暮れの総選挙でも、小選挙区制度では、多党化の現在は、組織政党が強いのは当然です。2~3割の得票率で80%の議席は少し極単過ぎるように思われます。もう少し民意が汲み取れる戦挙制度にしたほうが良いようです。最終的には得票率に応じた議席が良いと思われます。脱原発支持が70~80%なのに現実には逆の原発推進の自民党の政治が行なわれているのは主権在民に反することになります。        以上