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2014年6月 1日 (日)

霧のなかの巨塔、第11回、しがらみ①

長編小説 霧のなかの巨塔  第11回

   第一章 奈   落

   

  ■しがらみ①

   

 千島学説講座の体験発表はまだ続いていた。
 窓ガラスを雨滴が筋をつくって流れ落ちている。時刻は午後2時半少し前。受講着たちにとって、いちばん睡魔におそわれる時間だが、誰一人として眠っているものはいない。
 みな、体験談を続ける壇上の久村光司を注目していた。
 畑中も浅川も、久村の話を聞きながら、時折りノートにペンを走らせている。
 額の汗をぬぐいながら話し続ける久村だ。
 ただ、横たわるだけの妻を見つめていると、また、いいようのない不安感が頭をよぎる。不安を取り除くことは、どうしてもできなかった。川上の指示には間違いがないと確信していながらも…… 久村は時計を見る。午前3時10分。志津江が寝台車で運び込まれた昨日の午後から、まだ何の反応も示さない。熱も39度6分から下がっていないし、黄疸症状にも変わりは見られなかった。どれをみても、好転の兆しはない……
 ……大学病院の棚橋医師は、今夜から明日がヤマ……
   自分の診断では生存の見込みは10%以下としか云えないといっていた……志津江はこのまま、還らぬ人となってしまうのか……?
   そんな、バカな……小林先生も川上君もついていてくれるんだ……あのまま病院においておけば、もう今ごろは命をなくしていたかもしれない。
   退院させだからこそ、いま生きているんだ……このまま死なせてなるものか、志津江……生きるんだ志津江…!
   たのむ、かんばってくれ……!
 危篤状態の妻を見ながら久村は、心のなかで必死に妻を励ましていた。志漢江の胸と背に当てていた冷湿布を取り替える。
 熱を吸った布は手に熱さを感じさせた。
 川上は昨夜8時ころ、別の患者の容体が悪化したという連絡を受けて、そちらへ急ぐ。終わり次第に戻るといって。
 川上や小林医師の指導に信頼しつくしている久村だったが、自分ひとりになると、どうしても不安感が先にたってしまう。
 千島学説の一つ「可逆的分化説」の原理は知りつくしていた久村だ。断食や飢餓によって、体内の蓄積毒物は急速に体外へ排出され、体細胞は新鮮な血液に分化し、傷病部の組織の治癒も促進する……特にガン腫や炎症部の組織が、いち早く赤血球に逆分化する……このような原理を講師として受講者たちに説明してきた久村だったが、いざ、自分の最愛の妻が、このような危篤状態に陥ると、確信のなかにも不安を禁じることはできなかった。
 志津江の苦しそうな早い呼吸が、いっそうに久村の不安感をつのらせた。しかし、今はこれ以上どうすることもできない。
 ただ志津江を見守るだけの久村だった。
 午前4時ころ、川上が戻ってきてくれる。患者の容体は安定してきたという。それから翌日の朝まで、川上は志津江につきそってくれたが、その朝、志津江が意識を取り戻した。
 「……あなた……川上先生も……」目を開けた志津江の口から出た初めての言葉だった。
 細く苦しそうな声だったが、意識を取り戻した志津江の顔を見たとき、久村は嬉しさに声を上げて泣いた。表現しようのない喜びだった……愛する妻が危機を脱したのだ。
 意識さえ戻ればもう心配はほとんどない。後は時の経過によって少しずつ快復するはず。
 食欲はないものの、喉の渇きを訴える志津江に、川上は湯ざましを与えるよう指示する。明日からは薄い番茶を与えてもよいという。それから、3日後、続いていた高熱は微熱程度にまで下がった。ただ食欲は依然となく、腎機能の衰えから尿量が極めて少ない。顔や手足に浮腫が現れるようになる。

   

 喉の渇きを訴えるため、与える水分が多くなったためだろう。
 川上からトウモロコシの毛を濃く煎じ、1日3回飲ませるようにと指示された久村は大須にある漢方薬の店から購入してくる。
 志津江は意識を戻しており、さして病状の急変は考えられず、志津江が倒れてから初めて一人おいて薬局に急いだが、帰るまで気が気でなかったことが今も久村には忘れられない。
 その日の昼と夕、飲ませただけで、深夜から翌朝までに5回も大量の尿が出た。
 5回とも尿は濃い番茶のような色をしていたが、それ以後は次第に色は薄れてゆく。正常色に戻ったのである。
 ムクミもそれから数日でとれ、空腹を訴えるようになる。
 退院させ自宅に戻ってから6日目になっていた。
 意識を戻してからの志津江の回復は目を見張るばかりだった。
 病院の医師からは、生存確率が10%以下と宣告されていたのに……そんな志津江を見ながら久村は、あの意識が戻らない妻を小林医師や川上とともに退院させてきた日のことを思い起こしていた。意識もなく身じろぎひとつしない、死んだような志津江を祈りながら見つめていたことが夢のように感じられた。
 自分が故・千島喜久男博士と出会い、そして千島学説を学んだひとつの運命が、川上という友人を得ることとなり、また志津江の命の恩人ともいえる名医、小林医師ともめぐりあうことになった。妻の消えかけた命を救う幸運との出会いになったのである。
 7日目から、志津江に朝だけ、湯飲みに軽く一杯の重湯を与えること、そして水分は薄い番茶を十分に与えるよう、小林医師から直接、久村に電話で指示がはいる。腎機能が正常の機能を戻したいま、肝臓をはじめ体内に残留する毒物を早く体外へ排出するためである。
 そのころ、娘の恵利に会いたがっていた志津江のために、岡山にいる志津江の母に来てもらい、恵利を中津川の祖母のもとから連れて帰った。娘が帰ったことで、志津江はより元気をとり戻したようだ。また、不思議なことに、倒れる前、いつものように云っていた喉の異物感を、忘れたように訴えることがなくなった。
 第3期の食道ガンと診断され、その治療のために別府の東洋医学療養センターに入院することになっていたのだ。志津江には知らせてなかったが、余命数ケ月と宣告されて……
 志津江に喉の状態を尋ねたいと久村は幾度か思ったが、せっかく忘れているらしい志津江に、また思いださせることはないと考えてそのままにしていた。
 うまくいけばこの断食療法で、センターに入院したと同じような結果がでるのではないかという期待があったからである。
 志津江が倒れてから19日目になる、9月3日のことだった。 久村が生涯忘れることのできないことが起きた。
 その日は朝から、真夏のような大陽が輝き、厳しい残暑が予報されていた。すでに新学期が始まり、久村は通常どおり出勤していた。義母の温子がずっと志津江についていてくれること、また危険状態を完全に脱していたこともあり安心して……
 午後12時すぎ、職員室で昼食をとっていた久村に、義母の温子から慌てた声の電話がかかってくる。
 ・・・光司さん、すぐ帰ってきて! …志津江が……志津江が・・・慌てている温子は次の言葉が出てこない。
 「お義母さん、落ち着いてください……志津江がどうしたんですか…?」
 ・・・志津江が腐っちゃったみたい…! 目をつむったままで、ひどい臭いなの、廊下まで臭うの……早く、早く帰ってきて! 温子は悲痛な声でいう。
 食事を途中でやめ、午後の担当授業を同僚に頼み、急ぎ帰宅の準備をする久村に、他の教師たちが気づかいの声をかけた。
 自宅は高校から車で20分ほど。自宅に着くと温子がおろおろしていた。息はしているようだが、声をかけても目を開けないという。たしかに志津江の部屋から廊下まで異臭が漂っていた、 眠る志津江の顔には玉のような汗が浮かんでいた。首すじも汗で光っている。ひどい汗だった。室内の臭気は耐えられないほどだ。義母が驚くのも当然だろう。腐った魚にアンモニアを混ぜたような強烈な臭い……汗の臭いである。
 室内は適度に涼しく冷房がきいており、暑さのための汗とは考えられない。体内に蓄積されていた種々の毒素が急速に汗とともに排出された臭いに違いないと久村は考えた。
 義母に障子と廊下のガラス戸を開けるよう頼み、久村は志津江の顔や首に流れる汗をそっとぬぐう。
 その感触で志津江は目を覚まし、驚いたように周囲を見回す。
 「あら、あなた……どうしたの? いま、何時なの……? すごく汗をかいてしまったみたい……」顔に手を当てながらいう志津江。気のせいか、その声は今朝よりも力があるように久村には思えた。
 「やあ、起こしちまったね。よく眠っでいたのに。ごめん……いま、午後の1時過ぎだよ。さっき、お義母さんから電話があったんだ。志津江が腐ってしまったってね。それで、慌てて帰ってきたところ……」志津江の枕もとに座り、顔の汗を拭いてやりながらいう。その顔には安堵の微笑みが浮かんでいた。
 「ほんとに、びっくりしたわいね……何かうわごとみたいな声を出しとるもんで、部屋をのぞくと、ものすごい臭いがして……志津江、志津江って呼んでも目を開けんし、てっきり志津江が腐ってしまったと思うて……」温子が志津江の足もとに力が抜けたように座りこんでいう。
 「えーっ、わたしが腐っちゃったって…? そんな……」起き上がろうとする志津江の肩を久村は押さえる。
 「光司さん、お湯を沸かしてくるから……」温子はそういっで部屋をでる。
 「ありがとう、お母さん。さっぱりしたい……」
 そういう志津江に温子は、やさしく笑顔でうなずいた。
 志津江に起き上がろうとする力が湧いてきた……きのうまでは、そんな様子などまったく見られなかったのに。
 「だいぶ元気が出てきたみたいだな。でも、まだ急に起きたりしたら駄目だ。いま沢山の汗を出したばかりだから、まだ、しばらくのあいだ寝てないと……この汗といっしょに志津江の体にあった毒素がたくさん出たようだよ。ひどい臭いの汗だったからね……」久村が話をしている間にも、志津江の額にはもう汗の粒が光っていた。そんな汗を久村はタオルで軽く拭きとる。
 「そんなに臭って…? わたし……わたしには、ぜんぜん分からないわ……」自分の腕に鼻をあてる志津江。部屋の空気はだいぶ換わったが、まだ臭いは抜けきっていなかった。
 「自分には分からないものさ。もう、ほとんど乾いてきたしね……さあ、これから体を拭こうか。お義母さんが、お湯をもってきてくれるから」
 志津江はその翌日まで、眠るたびに臭いの強い汗を出した。また尿も汗と同じように強烈な悪臭をともなっていたが、それから3日後からは、汗も止まり尿の臭いも消えていた。

   

(つづく)   

                                   

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