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2014年6月13日 (金)

霧のなかの巨塔、第23回、黎明②

長編小説 霧のなかの巨塔  第23回

   第二章 灯りを求めて

   

  ■ 黎   明②

   

 西病棟33階3358号室の窓カーテンは広く開けられている。眼下に見える大小のビルが赤っぽい夕日を受けて幻想的な色彩をかもしだしていた。
 「お姉ちゃん、見てよ。ビルがいろんな色に染まって、ほんとにきれいだよ……」
 窓から外を見ていた正樹が感動を抑えた小さな声で姉の梨香を呼ぶ。午前中に主治医である大河内から母の恵美が意識を戻したという報告を受けてから、病室で恵美を待つみなの心には「生」という明るい光が差し込んできたように思え希望が湧いてきた。
 手術によって取り除くことができなかった癌腫は二つも残っているが、体力が回復すれば、あの東洋医学の療法が残っている……この療法であの政界の大物、楢本代議士が僅かな日数でほとんど完治してしまったという断食療法が。暗闇のなかで逸平が見つけた一条の光だった。
 「もっと小さい声でいいなさい、正樹……! おばあちゃんを起こしちゃうじゃないの……わあーきれい! エンジ、紫、オレンジ色も…… 影は白や青にかわって! なんて美しいの! まるで虹の世界にいるみたい……!」梨香も感激して、思わず声が出てしまう。夕日は沈むのが早い。その沈み具合によってビルは次々と色を変えていった。
 「お母さんにも、早くこの景色を見てもらいたいね」正樹のそんな言葉に梨香も黙って頷く。
 恵美がいないベッドには恵美の母、亮子が横になっている。安堵によって一気に疲れが出たのだろう。軽いイビキをかいている。顔色も随分よくなっていた。
 応接セットを壁側に押しやったカーペットの空間には水色のカバーをした敷布団と掛け布団がおかれ和江が眠っている。疲れの色が濃い家族たちのために病院が取り計らった好意である。
 博樹は応接セットのソファで横になって目を閉じていた。逸平の姿はない。
 部屋の壁時計は5時16分を指している。恵美がいないこの病室に2日目の夜が訪れようとしていた。そんな病室の下、32階にあるロビーに逸平がただ一人いた。5台が並んだ電話ボックスの一つで電話のボタンを押している。何度も頭を傾げながら……電話が繋がらないのだ。
 ……おかけになった電話番号は現在つかわれておりません……何度かけ直してみてもそういう合成音が聞こえてくるだけだった。
 逸平は先ほどから5回以上も千鶴のマンションに電話しているのだが、まったく繋がらない。
 千鶴が逸平との永遠の別離を決心し、電話を外しマンションも引き払うことにして、今は松山の実家に帰っていることなど逸平に分かるはずもない。下の階から階段で上がってきた逸平だったが、また頭を傾げながら病室へと向かう。
 通路を歩く逸平の後ろから、急ぎ足のサンダルの音がした。振り向くこともなく歩く逸平に声がかけられた。
 「姿さん、姿さんじゃありませんか?」その声に驚いて振り返り立ち止まる逸平。恵美の主治医である大河内が走り寄る。
 「先生、恵美にまた何か……!」逸平の顔色が不安からさっと変わる。
 「いえ、いえ、違います……」大河内は慌てて顔の前で右手を振った。
 「……麻酔から完全に覚められました。20分ほど前に。経過は非常に良好で意識も明瞭です」
 大河内は通路を歩きながら明るい声で説明する。
 「よかった、先生、有難うございました!、よかった……」
 逸平は病室のドアをノックすると返事を待つこともなくドアを大きく開けた。
 「みんな! お母さんが目を覚ましたんだって!」
 ドアを開けるなり逸平は、喜びに満ちた大きな声で朗報を伝える。亮子も和江も逸平の大声に驚いて身を起こした。
 「姿恵美さんは先ほど、麻酔から覚められました。20分ほど前です。意識はしっかりしておられますよ。今は体を動かさなければ痛い所はないと言っておられます。実に順調な回復で、うまくいけば、明日の夕方には集中監視室を出られるかもしれません……」
 満面の笑顔をつくり大河内は、みなの顔を自信げに見回す。役者ぶりが身についてきた……

   

   

  ■ 三 叉 路

   

 青森港を午後12時30分、定刻通りに出港した東北フェリー第9便の函館行きは津軽海峡を順調に航行していた。海峡は風が強くやや波があるものの、コバルト色の空には綿をちぎって飛ばしたような白い雲が、幾つか風に飛ばされ流れている。
 9月中旬というこの時季はまだ残暑が厳しいときだが、北海道を間近にしたこのあたりでは、東京のような暑さはない。海峡を渡る風は涼しいというより冷たささえ感じる。
 夏の観光シーズンは既に終わり、また青函トンネルが開通していることもあり函館行きのフェリーを利用する一般客はほとんどいない。
 2等船室、また1等船室のデッキにも人影は見えないが、特等個室C室には乗客がいた。外賀総合病院の看護師、松川由美だった。まったく化粧の跡がない顔は蒼白だ。
 小さな船室の壁側にはベッドがあり、白いシーツの上には青いカバーが付けられた毛布と枕、畳まれたユカタが置かれている。まど側には壁から引き下ろすタイプのテーブルと、肘掛けと白い布カバーがついたヘッドレスト付きの豪華な回転イスが床に固定されていた。そんなイスに座って松川由美はぼんやりと窓の外の海を見ている。
 目は虚ろに見開かれたままで人形の目のように動きがない。けさ、まだ暗いうちに看護師寮を出てきた由美……持ってきたものは、その膝の上にある小さなハンドバッグだけだ。
 そんな軽装で何処まで行くというのだろう……急に何か思いついたように、ハンドバッグをテーブルの上に置くと、小走りに船室を出ていく。通路の左右を見回すと特等船室デッキという赤い矢印の標識を目にすると、そちらへゆっくりと歩いていった。ちょっとした階段を上がると内開きのドアがあり、それを開けるとすぐデッキだ。
 一面に人工芝で覆われ、幾つかの丸テーブルとそれを囲むようにした肘掛けイスがある。そこにも人影はない。由美は真っ直ぐデッキのフェンスに向かう。ちょうど300米ほど離れた所を反対方向へいく大きなフェリーとすれ違う。船上に作業員の姿が見えた。
 青森へ向かう同じ会社に所属するフェリーだろう、ボーッ……相互に長い汽笛を鳴らし合う。
 その音は快晴の海峡ではあったが、何かもの悲しさを感じさせた。フェンス近くに立つ由美の長い髪が風に巻き上げられた。その髪を押さえようと頭を下げたとき、由美の体はフェンスを乗り越えて海面へと落ちていった! 頭を下にして泡立つ海中に呑み込まれていく……
 あっという間の出来事だった。

   

   

 ボーッ、ボーッ、ボーッ…… すれ違った青森行きらしいフェリーが激しく汽笛を鳴らす。
 船尾デッキで作業をしていた乗務員が第9便のデッキから人が転落したのを目撃、常時携行している業務無線機で操舵室へ緊急連絡をしたのである。
 この船から乗船客転落の連絡を受けた9便はスクリューを逆転させる激しい音を響かせて停船した。それから50分ほど後、2隻の懸命な捜索によって転落場所から4キロほど青森寄りの海上で、むごたらしい遺体の一部が発見される。船腹真際に転落したらしく、スクリューに巻き込まれていた。体は右胸部から左の大腿部まで斜めに切断されていて、発見された遺体はその下半身だった。救出にあたったフェリーの乗員のなかには、余りにもむごい遺体の状況に、嘔吐するものもいた。遺体の上半身はその後の捜索を引き継いだ海上保安庁の巡視船でも、ついに見つけだすことはできなかった。その後行われた北海道警察科研のDNA検査で、遺体は松川由美であることが確認される。
 松川由美は19歳という若い命を、目を覆いたくなる凄惨な姿で自ら断ってしまった……その死は彼女には思いもよらない大事件へと進展していく……
 第9便が函館港へ到着するまでに特等船室に残されていた松川由美の遺留品が見つかった。
 函館港に接岸すると直ぐ、無線連絡を受けていた事故海域の管轄警察署である北海道警・函館南警察署の係官が乗船、検視と同時に船長立会いのうえ遺留品のハンドバッグを調べたところ2通の遺書が発見され、この事故と思われた件は自殺であると断定される。
 遺書の内容から医療事故、また病院ぐるみの医師法違反があると睨んだ北海道警は、短時間のうちに大々的な捜査に入ることを決定した。
 投身自殺者の身元を確認できるような所持品は見当たらなかったが、遺書にあった「外賀総合病院」の所在は道警本部の調べで直ぐ判明する。遺書の内容を重く見た道警本部は、警視庁社会経済課へ捜査協力の依頼をするとともに、厚生労働省、及び東京都庁の医療監察部門へも刑事事件としての立件へ捜査協力を依頼した。道警はその日のうちに「外賀総合病院医師法違反捜査本部」を函館南署内に設置、本部長には捜査1課長の那覇田時鐙・警視が当たることになる。

   

 函館南署の捜査1課は4階建ての庁舎の2階にある。明るい蛍光灯に照らされた室内には、5、6人の私服や制服の警官が残務整理をしていた。そんな一角に捜査第3係がある。
 捜査第3係は社会的犯罪、例えば暴力団の嫌がらせ、未成年者の犯罪、性犯罪などといった社会秩序の保守を主とする犯罪を取り締まっている。医師法とか薬事法といった医療問題も管轄に含まれている。ただ、今度の事件は該当現場が東京であるため、道警には主捜査権はないため、警視庁の捜査を補佐することになる。その補佐責任者が太田垣宣豊 警部補である。
 捜査3係は4脚ずつが向かい併せに置かれていて、その頂点に両袖のデスクがおかれ、その上には自分の方に向けられた「係長 警部補・太田垣宣豊」という白地に黒字のプレートがあった。
 午後10時を過ぎた今は、係員は誰もいない。太田垣ひとりが顔をしかめて座っている。
 何かの書類を見ている太田垣は40歳後半だろうか、日焼けした顔、引き締った体はスポーツ選手のようだ。顔にはこれまでの労苦を物語るような無数のシミがが浮き出ている。丸刈りにした頭髪と目の鋭さは捜査官というより、暴力団幹部といった雰囲気がある。
 しばらく書類を見ていたが、傍らの電話に手をやると、書類にある電話番号を片手でなぞるようにしてプッシュボタンをゆっくり押していく。その書類にはファックスの汚れらしい横に走る何本もの黒い筋が残っていた。その書類は『救急医療機関登録簿』で医療機関名は「医療法人東友会 外賀総合病院」となっている……

   

(つづく)   

以上は「千島 明 著」より

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