拉致再調査「見返り支援」政府は内容を明らかにすべき(3/3)
拉致再調査「見返り支援」 政府は内容明らかにすべき 石丸次郎
アジアプレス・ネットワーク 6月5日(木)19時14分配信
この度の日朝合意では「昭和20年前後に北朝鮮域内で死亡した日本人の遺骨および墓地、残留日本人、いわゆる日本人配偶者」を含めた包括的かつ全面的な調査をするとしている。つまり、拉致問題、行方不明者問題と、遺骨と他の在朝日本人の問題の「抱き合わせ」である。拉致以外の問題が調査の対象となったのは日朝協議の大きな成果である。期待する人たちも多く進展させていかねばならない。そして日本による植民地支配の被害に対する償いを協議するきっかけにしなければならないと思う。
2012年8月に始まった死亡日本人の埋葬地探しと遺骨収集作業は、北朝鮮側が誠意を持って当たってくれたという評判が多い。北朝鮮側も経費負担が少なくなかったはずである。今後、遺骨の収集や日本への引渡しについては、経費の支払いが議論されることになる。また、その他の残留日本人及び孤児が日本に渡航するとなれば経費もかかる。日本側には、当然経費精算の義務がある。
しかし、これらの経費支払いの問題と、拉致問題の進展を抱き合わせにして「見返り」として一括支払いをするようなことはあってはならない。拉致問題と非拉致事案ははっきり区分し、遺骨収集等々の経費は明細を示して精算されるべきだ。
遺骨収集事業に関しては、すでにその利権をめぐる動きが日本国内で活発になっているようだ。怪文書も飛び交っている。拉致問題の対価であるのに、非拉致事案の経費と一絡げにし、まるで「抱き合わせ販売」のようにして、現金を北朝鮮側に渡す、そんな疑念が生まれないように、両者の区分を明確にして「明朗会計」を徹底すべきである。
昨年2月に金正恩政権が実施した核実験に対して、現在、国際社会は安保理決議を経て経済制裁中である。これは、大量破壊兵器関連物、ぜいたく品の輸出禁止と、大量破壊兵器関連の資金移動の禁止、大量破壊兵器関連の団体個人の資産凍結である。
今回の日朝合意で、日本政府は独自の経済制裁を解除していくことを約束した。この人道援助名目の「見返り」供与が、安保理決議に基づいて取っている制裁措置の実効性を弱めるのではないか、そんな憂慮の声が韓米から上がっている。
政府は人道支援名目の「見返り」の中身が何であり、解除していく独自制裁と、安保理制裁の線引きを明確にすべきである。現金供与が後者に抵触するのは明らかだ。前述(3)のような形で現金支払いがあるのではないか、韓米は疑念を持っているようである。
食糧の供与についても、間接的な資金供与と同様の効果がある。なぜなら現在の北朝鮮を食糧不足と捉えるのは適切ではないからだ。圧倒的に足りないのは外貨である。
現在の北朝鮮では、人民軍兵士に栄養失調が蔓延し、教員や鉄道労働者、国営企業労働者の大部分にもほとんど食糧配給を出せないでいる。だが、これは食糧難を意味するわけではない。国の財政難=外貨不足によって、体制運営に必要なはずの配給対象に支給する食糧が確保できていないのである。
今の北朝鮮では、食糧の絶対量が不足しているわけではない。全国どこの公設市場でも、現金があればコメも肉も好きなだけ購入することかできる。実際、食糧配給が途絶えて10数年になるのに、国営企業の労働者たちは、商売行為や日雇い労働で現金を得て、市場で食べ物を購入して自力で暮らしている。市場にはコメがあるのだ。ただし、それは国家保有米ではなく、民間保有米である。
金正恩政権は、優先配給対象に回すコメが足りなければ、輸入すればよい。しかし金正恩政権は発足以来、貴重な外貨収入を、金父子の新たな銅像制作や、平壌の高層アパートや遊園地、イルカショー施設、スキー場建設と維持費などに費やしてきた。言うまでもなく、核・ロケット開発などにも投入して来た。そのため、国家は外貨が足りず、兵士を食べさせる食糧確保すらできなくなっている。
日本による食糧支援は、購入費用を浮かせる効果を生む。金正恩政権にとって現金をもらうとのと同等の効果が見込めるわけだ。浮いた金を核開発に使おうか、遊園地の建設に使おうか、それは金正恩政権が決めることができるのだ。これを韓米は心配をしているのである。
「人道的見地」を言うのであれば、苦難に喘いでいる北朝鮮の民衆にこそ手が差し伸べられるべきだ。資金流用の恐れが小さく人道支援にふさわしいのは次のような物資の提供だろう。
乳幼児、妊婦、高齢者向けの栄養食、清潔な飲料水を確保するための消毒薬、井戸を掘るためのポンプ、結核、赤痢、チフスなどの伝染病の薬、ダニや南京虫駆除のための殺虫剤、石鹸、包帯、ガーゼ、手ぬぐい、手術用品、頻発する天災に備えた毛布、テントなどだ。
今回の北朝鮮の再調査は非常に速いペースで進み、早ければ6、7月にも安倍首相の訪朝がありうるという情報が巡っている。拉致問題は、これまで10年間、1ミリも動かない膠着が続いた。事態が速く、そして着実に進展するために、政府は「見返り」について説明を尽くし透明化を図るべきだ。
最終更新:6月6日(金)11時51分
以上は「アジアプレス」より
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