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2014年8月30日 (土)

「100ミリ以下は影響なし」南相馬での危険なプロジェクト

「100ミリ以下は影響なし」

 渡邉京大教授の南相馬講演
      
と危険なプロジェクト




 <放射線健康講演会 「今の生活で大丈夫?」>と題して、渡邉正己・京大放射線生物研究センター特任教授の講演が5月28日、南相馬市内で行われた。

 「現状では内部被ばくはほとんど問題にならない」
 「外部被ばくについて、100ミリシーベルト以下の被ばくでは人体への影響は出ない」
 「子どもより大人の影響が大きいとする証拠はない」
 その内容は、上のように、かなり偏った持論を披歴するものだった。これに対して、参加した住民からは、不信や疑問、批判の声が相次いだ。

 さらに、渡邉特任教授は、被ばくを問題にすること自体を問題視し、M・スコット・ペック『平気でうそをつく人たち』【1】を引きながら、次のように述べた。

 「社会に悪が蔓延している」
 「悪の原因は、知的怠惰と病的ナルシシズムにある」
 「日本人の多くは、ヒトが本来、備えている特性を失っている」
 その意味を簡単に説明しておくと、<被ばくを問題にすることは社会悪。そういう社会悪が蔓延している><そういう悪が蔓延している原因は、住民の科学に関する無知(知的怠惰)と専門家の話を受け入れない住民の態度(病的ナルシシズム)にある><被ばくを問題にする人びと(日本人の多く)は、ヒトの特性を失っている>ということだ。これがこじつけでないことは、本論考を読めば納得いただけるだろう。

 それにしてもこれが市の主催する企画なのだ。一体、どういうことだろうか?
 確かに、国の福島復興加速化方針やリスクコミュニケーションの意図がこういうものだというのは間違いない。また、2011年に南相馬市内で指定された特定避難勧奨地点152世帯の解除を、国が、この7月にも行おうとしていることとも大いに連動しているだろう。確かにそうだが、この渡邉特任教授の講演内容の異様さは、それにとどまるものではなそうだ。そう思って調べてみると、大きな動きが分かってきた。
 <低線量被ばくは有害ではない。むしろ健康に有益という報告もある><LNT(直線しきい値なし)仮説【2】には科学的な妥当性はない。ICRP(国際放射線防護員会)の放射線防護基準は厳し過ぎる>という主張を展開する一群の専門家らの流れがある。その専門家らが、福島原発事故に対応して、グループをつくり、大掛かりなプロジェクトを立ち上げて活動をしている。そのグループが作成した活動報告書【3】には、「南相馬市を標的として」という文言があり、彼らが何を行なおうとしているのかが明記されている。渡邉特任教授はそのグループの中心人物である。

 以下、【Ⅰ】で南相馬市行政の表向きの動きを概観し、【Ⅱ】~【Ⅳ】でその背後にある全貌を見ていくことにしたい。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
【1】 『平気でうそをつく人たち ―虚偽と邪悪の心理学』。アメリカの精神科医M・スコット・ペック(~2005年)著、1983年初版。当時、300万部超のベストセラー。その批評については【Ⅳ】参照
【2】 LNT=linear no-threshold 詳しくは【Ⅲ】参照
【3】 【Ⅱ】参照

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


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(5月28日、南相馬市馬場公会堂。馬場は空間線量が比較的高く、特定避難勧奨地点の指定を受けた世帯も多い)



【Ⅰ】 「放射線健康対策委」
        と南相馬市の取り組み



 まず、南相馬市の表向きの取り組みを見ておこう。

 
 ▼ 「不安軽減のため」

 冒頭で見た渡邉特任教授の講演会は、南相馬市の健康福祉部・健康づくり課が担当している「放射線と健康に関する講演会・地区座談会」という企画の一環。昨年11月から今年4月までで、市内各地区で計12回開催されている。参加人数は10人程度から100人弱。
 その講師は、渡邉正己・京大特任教授、富田悟・東工大放射線総合センター助教、坪倉正治・東京大学医科学研究所研究員(南相馬市立総合病院非常勤医)など。
 これは、南相馬市のウェブサイトでも見ることができるが、事前のスケジュールの広報を限定している点や、結果報告を控えめにしている点などが気になる。そして、講演会の目的が、「市民の放射線の影響による健康への不安軽減と生活習慣の見直しに役立つこと」とされている点には大いに疑問を感じる。 〔下線は引用者、以下同じ〕


  「帰還促進」

 ところで、渡邉特任教授の肩書に「南相馬市放射線健康対策委員会委員長」とある。また、富田助教、坪倉医師も、その委員会の委員となっている。この委員会は何か?市のサイトを見てもよくわからない。そこで行政情報の公開請求をしてみた。
 公開文書によれば、「南相馬市放射線健康対策委員会」は、昨年7~8月に市役所内部で建議され決定されている。
 予算は総務費の健康管理支援事業、事務担当は健康づくり課で、放射線に関する専門家や健康支援に関する専門家等で構成、委員5人以内などとなっている。【1】 
 委員の構成は、委員長に渡邉、さらに委員は上でも見た富田、坪倉に加えて金澤幸夫(南相馬市立総合病院院長)の四氏。〔なお金澤氏は遅れて今年2月に任命〕
 会議は、昨年10月、今年1月、4月、5月に行われている。
 公開文書を見ると、南相馬市放射線健康管理対策委員会の活動が、被ばくと健康被害のリスクに正面から向き合おうというものではなく、「放射線への不安の軽減」という方向にずらされていることがはっきりわかる。そして、次のような言葉が並ぶ。
 「放射線への不安から帰還に(ママ)悩んでいる市民に対し、情報提供等することにより帰還促進に繋げる【2】
 「室内の汚染について・・・相当の高線量の部分であると認められるが、健康に影響を及ぼすレベルにはないとした【3】
 この南相馬市放射線健康管理対策委員会の役割は、文字通り、「不安軽減」「帰還促進」。しかも、それを「相当の高線量」でも「健康影響はないとした」というように、強引ともとれるやり方で進めようとしていることが見えてくる。
 行政の姿勢が、<住民の帰還をもって原子力災害は終わり>という国の政策とほとんど同じであることがわかる。
 しかし、南相馬市行政の側の情報だけでは,まだ全貌は見えて来ない。さらに、渡邉特任教授と日本放射線影響学会の問題に踏み込んで行こう。
 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
【1】「南相馬市放射線健康対策委員会設置要領」
【2】「南相馬市放射線健康対策委員会の役割、予定」(H25.8.21)
【3】「平成26年度第2回南相馬市放射線健康対策委員会議事録」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・


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(渡邉特任教授の話に疑問が投げかける住民)



【Ⅱ】 「南相馬市を標的として」
      ―日本放射線影響学会



 さて、ここで、「日本放射線影響学会」という学術団体の文書を見てみよう。そこに「南相馬市放射線健康対策委員会」に関することが書かれている。

 「我々のチームは、福島原発事故後も原子力災害対応組織を持たない南相馬市を標的として、市(市長)に各課横断的な原子力災害対策システムを作ることの重要性を提案した。それを受けて、渡邉および富田が南相馬市健康対策委員会委員に就任することとなり、現在、市役所横断的な復興対応組織の整備とそれに伴う知識向上活動の実施を継続提案している」 〔「平成25年度 日本放射線影響学会 福島原発事故対応プログラム活動報告書」【1】 以下「H25年度 活動報告書」〕
 
 福島原発事故に対応して、日本放射線影響学会の中に、「日本放射線影響学会福島原発事故対応グループ」〔以下、グループ〕が立ち上げられた。京都大学・放射線生物研究センター〔以下、放生研〕を拠点に、十数名の全国の大学教員、研究所員【2】が参加している。グループの代表世話人が、渡邉正己・京大放射線生物研究センター特任教授だ。
 グループは、事故発生後の3月18日、「福島原子力発電所の事故に伴う放射線の人体影響に関する質問と解説(Q&A)」サイトを開設している。さらに、2011年9月から、「放射線影響説明Q&A講演会」の活動を開始している。東日本を中心にして、総計96回(2011年度~13年度)。因みに、35回(2011年度)中の26回が福島県内の開催、また、35回(2011年度)中の28回に渡邉特任教授が講師として出向いている。
 この「Q&A講演会」の活動資金のスポンサーは、京都大学・放射線生物研究センター、一般社団法人・国立大学協会、公益財団法「ひと・健康・未来研究財団」【3】、独立行政法人「科学技術振興機構・震災復興支援プラザ」、日本コルマー株式会社など。2011年度には、原子力産業大手の千代田テクノルの名もあった。
 グループは、昨年7月と今年2月の2回、泊りがけで「Q&A講演活動内容検討会議」【4】を行っている。「H25年度活動報告書」は、その議論に踏まえて書かれており、グループの意識や意図がよく現れている。

「・・・意識調査の結果を解析すると『インターネット時代を反映して放射線の健康影響に関する情報が氾濫したことによって、かえって情報の真偽が判断できず、人々の間に不安が根強く蔓延している』ことを感じる。・・・不安の原因は、様々あげられるが、⑴政府および地方自治体が発する情報に納得いく説明がほとんどないこと、⑵科学者の判断が一人一人全く違うこと、⑶そのために全てを信頼できないという一種の社会崩壊状況に陥っていること、などが引き金となっていると思われる。
 そうした中で住民の心をもっとも掴む意見は、「放射線は危険」とする立場にたち、「政府、東電そして科学者を糾弾」する一部の方から発せられたものである。そして、そのような偏った考え方をする一部の人物の講演をきくことがきっかけとなり、多くの人が、福島ばかりか、首都圏、そして日本を離れる行動を起こしていると聞く。まさしく、世紀末を演出する思想集団のようで極めて残念である。・・・こうした事態を引き起こす原因が一部の科学者による内部被ばくの危険性を煽るような情報提供活動、および、責任ある公的組織による正確な情報提供の不足の結果であることは間違いなく残念である。地道にこれらを論理的に理解するための情報提供が、極めて重要である。
また、驚いたことに、こうした極端な行動を選択する人々は、医師、教師、自治体職員といった、こうした事態が生じた時に、意思決定のリーダーとなるべき階層に属する人達であり、我が国の文化程度の低下を象徴していると危惧される」〔「H25年度活動報告書」〕
 
 これが、科学者・専門家と称する者の手で書かれ、れっきとした学術団体の名で出されているというのだから驚かされる。
そして、グループの当面の活動方針として、①「福島県内の地方自治体の担当者に『放射線の健康影響に関する講義』を提供し、原子力災害からの復興活動に必要な『放射線の環境及び健康影響』に関して、住民に説明できる程度の知識を教授する」、②「専門家グループと地方自治体職員のネットワークを構築し、住民から新たに発せられる疑問に専門家と自治体職員が協力して対応する体制を構築する」の二つが示されている。
 この活動方針を実現するため、昨年7月、「南相馬市健康対策委員会への委員の推薦」が決定され、「渡邉および富田が南相馬市健康対策委員会委員に就任」し、南相馬市にたいする働きかけが始まっていることが報告されている。
 それが、「南相馬市を標的として」という冒頭の一節になるわけだ。また、それは、【Ⅰ】で見た南相馬市放射線健康対策委員会設置の裏の動きということになる。
 南相馬市の住民にしてみれば、「東大や京大のエライ先生の話が聴ける」ぐらいの気持ちだが、このような意図の「標的」にされているとすれば穏当ではない。

 しかし、これもまだ、5月28日の講演会の背後にあるものの一部に過ぎない。さらに、次章では、渡邉特任教授の研究内容と<LTN仮説否定>という動向を見てみる。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
【1】「H25年度 活動報告書」は京大・放生研のサイトにある。
http://house.rbc.kyoto-u.ac.jp/wp-content/uploads/2014/04/8d5429125ab9b49578a77843a2b128c6.doc
【2】「日本放射線影響学会福島原発対応グループ」参加者
宇佐美徳子(高エネルギー加速器研究機構・講師)
柿沼志津子(放射線医学総合研究所・研究リーダー)
小松 賢志(京都大学・放射線生物研究センター・教授) 
島田 義也(放射線医学総合研究所・プロジェクトリーダー)
鈴木 啓司(長崎大学・医歯薬学総合研究科・准教授)
高田  穣(京都大学・放射線生物研究センター・教授)
松田 尚樹(長崎大学・先導生命科学研究支援センター・教授)
松本 英樹(福井大学・高エネルギー医学研究センター・准教授)
松本 義久(東京工業大学・原子炉工学研究所・物質工学部門・准教授)
松本 智裕(京都大学・放射線生物研究センター・教授)
田内  広(茨城大学・理学部・理学科 生物科学コース・教授)
立花  章(茨城大学・理学部・理学科 生物科学コース・教授)
富田  悟(東京工業大学・放射線総合センター・助教)
三谷 啓志(東京大学・大学院新領域創成科学研究科・教授)
渡邉 正己(京都大学・放射線生物研究センター・特任教授)(代表世話人)
【3】公益財団法「ひと・健康・未来研究財団」。「疾病の予防、健康づくり、環境やこころの健康」を研究するとする研究財団。渡邉特任教授はこの財団の副理事長。「H25年度 活動報告書」とほぼ同じ文書が、この財団のサイトにもある。
【4】「Q&A講演活動内容検討会議」の結果報告文書
http://rbnet.jp/shiryo2/QA2.pdf

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



【Ⅲ】 LNTモデル否定
      と防護基準の緩和




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(渡邉特任教授がパワーポイントで示した説明)


 ▼ 「100ミリ以下は影響ない」

 改めて、渡邉特任教授の5月28日の講演内容の特徴的な部分の検討から入りたい。
 講演の大部分は、「原子とは」「原子力とは」「放射線とは」といった教科書的な解説に費やしたが、以下の点だけは断定的だった。
◇<分からない>ではなく<影響ない> 
・「現存の科学的データの解析によれば、100ミリシーベルト以下の線量の被ばくでは、確定的影響も確率的影響も現れない」
・「100ミリシーベルト以下の線量の被ばくで、子どもが大人より影響が大きいとする証拠はない」
・「結論として、100ミリシーベルト以下の被ばくで人体への影響は出ない。あるとしても無視できる」
・「<100ミリシーベルト以下はわからない>と思っているかもしれないが、そうではない。<影響がない>である。<影響がある>というデータは、この100年間、積み重なっていない」
・「影響はないけど、被ばくは少ない方がいいから、LNT(直接しきい値なし)仮説を取っている」

◇内部被ばくは無視できる
・「1Fから空気中に放射性物質は出ているけど、ほとんど問題ない」
・「汚染水もときどきあるけど、それほど多いことはない」
・「基本的に土壌にあるセシウムが問題だが、泥と結合しているから、植物への移行は少ない。畑で作ったものは、ほとんど大丈夫。ときどき出るけど、それは他の理由による汚染だ」
・「よってみなさんが気を付ける必要があるのは、セシウムが出すガンマ線による外部被ばくだけ」
 注目したいのは、渡邉特任教授が、「100ミリシーベルト以下は影響はない」と言った上で、さらに、「<わからない>ではなく、<影響がない>」「<影響はない>が、LNT仮説を取っている」と念を押して説明している点だ。そして、これが「我が国の放射線防護の考え方」であるとした。
 渡邉特任教授の考え方は、ICRP(国際放射線防護委員会)の放射線防護基準の考え方とは、厳密な意味では違う。ICRPが採用している「直線しきい値なし(LNT)モデル」とは、<100ミリシーベルト以下の低線量でも、がん・白血病などの発生確率は、線量と比例する>とするもの。それに基づいて、ICRPの放射線防護基準が策定されている。もちろん安全サイドから見れば、ICRP基準には様々な問題があることは言うまでもない。
ところが、日本の一群の専門家たちは、ICRP基準の土台となっているLNTモデルを科学的でないと否定し、そうすることでICRP基準の緩和を要求するという動向がある。その一人が渡邉特任教授だ。
渡邉特任教授は、42年間にわたって「放射線による発がんメカニズム研究」に取り組んできたという。その成果に踏まえて、「LNT仮説の再考」「放射線防護概念の再構築」という論陣を張っている。
若干、専門用語もあるが、渡邉特任教授の文章から、LNTモデル否定の言説を見てみよう。


 ▼ 「LNT仮説の再考」「原子力は人類最大の賜物」

◇「低線量放射線への生体反応は生命現象」「リスクを切り出すのは無意味」
「・・・低線量放射線の生体影響研究は、21世紀に発展が期待される極めて重要な研究動向である・・・。低線量の放射線に対する生体の応答反応の仕組みは、生命現象そのもの・・・。・・・低線量放射線を生命に対するリスク要因として切り出すことに大きな意味はないといえます。
 今回纏(まと)められたこのレビューには、電力中央研究所の低線量放射線影響研究グループの最近10年の動向が報告されています。これによって、ある意味で、我が国は、この分野の研究で世界をリードしてきたことをわかっていただけると思います」【1】

◇「低線量放射線の発がんリスクは『閾値なし直線仮説』で評価できない」
「低線量放射線は、酸化ラジカル発生を先進するとともに、様々な生理活性を活性化(いわゆるホルミシス効果や適応応答現象など)するが、高線量放射線を受けバランスが大きく崩れると生命に危険が及ぶようになる。この状態になると救命的な様々な損傷修復機構(DNA損傷修復機構、アポトーシス、細胞周期制御機構など)が活性化される。放射線ストレスの場合、数100mSv程度の線量がその境目ではないだろうか?この予想が正しければ、100mSv以下の放射線量で誘導される酸化ラジカルは、内的ストレスによるラジカルと区別されることなく通常の生体生理活動で処理される。これを『生物学的閾値』と捉えることはできないだろうか?少なくとも低線量放射線の発がんのリスクをDNA標的説に基盤を置く『閾値なし直線仮説』で評価することはできないとするのが妥当ではないか?2】

◇「LNT仮説は再考すべき、防護基準を再構築すべき」

「(「四十二年間の研究の末」という表題で、その結論として)国際放射線防護委員会が採用する『放射線発がんの原因は、DNA損傷である』という大前提の上に成り立っている閾値無し直接仮説(LNT)仮説〔ママ〕によって放射線の発がん危険度を推測することに科学的な妥当性はなくなった。・・・LNT仮説の利用は再考されるべきである。・・・いま望まれることは・・・科学的基盤に立った放射線防護概念を再構築することである」【3】

◇「原子力は人類最大の賜物」
「・・・発がんのメカニズムにDNA損傷を起源としない経路が存在し、それが発がんの圧倒的主経路であるとする新仮説を提案できました。・・・
 ・・・宇宙万物の成り立ちが放射エネルギーであることを考えると“生命が放射線と密接な関わりを持って存在している”ことは間違いありません。・・・
 こうした意味で、私は、“原子力は、人類の科学活動で得られた最大の賜物であるとともにこれからも、人類の夢を広げ、人類に必須なものである”と信じています。・・・
・・・平成26年4月末で(放射線の健康影響に関する講演会活動が)96回を数えますが、その経験を通じて、強く科学者やリーダーの責任を考えるようになりました。科学者しか果たせない役割は、科学者にしか果たせません。しかし、リーダーや科学者である前に一人の人間として行動することの重要性を再認識させられました。・・・
私達、科学者は、原子力と放射線の平和利用は、我々の意思と行動で達成する以外ないことを世に発信せねばなりません」【4】
 簡単に言えば、「DNA損傷を起源としない発がんメカニズム」という新仮説を提唱し、もってLNTモデルは「科学的妥当性はなくなった」としている。そして、100ミリシーベルト以下の低線量被ばくについては、健康への影響がないどころか、「様々な生理活性を活性化する」と有益であるとすら見ていることがわかる。さらに、「原子力は人類最大の賜物、人類に必須」とまで礼賛している。そして、「原子力と放射線の平和利用は、我々の意思と行動で達成する」と決意表明している。
全国の講演活動や南相馬市を「標的」にした活動が、このような考え方と目的のために行われている。とくに「原子力は人類最大の賜物」の一文は、今年の4月、つまり南相馬市放射線健康対策委員会委員長として活動している最中に書かれたものだ。


 ▼ ICRP基準の緩和要求の流れ

 以上のような言説は、渡邉特任教授だけの独特ものではない。『つくられた放射線「安全」論』〔島薗進 2013年2月〕に詳述されているが、それによれば、日本の一部の科学者・専門家らが、1980年代後半あたりから、ICRP基準よりも楽観的な立場、ICRP基準の緩和を要求する方向に傾いて行ったという。それには二つの流れがあるという。
その一つが、LNTモデルを否定するための科学的データを示そうとする動きだ。その動きは、電力中央研究所【5】、放射線医学総合研究所から、全国の研究機関に広がっていった。やがて、日本が、世界の研究動向を先導するような状況になって行ったという。
渡邉特任教授は、電中研・低線量生物影響放射線研究センター(当時)主催の「低線量放射線影響に関する国際シンポジウム」(2002年)【6】で講演、また、上で引用した電中研機関誌の特集「低線量放射線生体影響の評価」で「巻頭言」【1】を執筆するなど、この流れの中心的な研究者であることがわかる。
 今一つの流れは、被ばくに対する健康不安に対応しようという動きだ。被ばくではなく、不安を減らすことに主眼があり、現在、リスクコミュニケーションと称するものだ。これは、1986年のチェルノブイリ原発事故後に、放射線健康影響の国際的評価に関わった重松逸造(元放射線影響研究理事長)や長瀧重信(元放射線影響研究所理事長)らによって主唱されたという。
 このような二つの流れに属する専門家らが、福島原発事故を機に、政府やその周辺で積極的な動き、働きかけを行っていく。そういう中の一人、長崎大学から福島県放射線管理健康リスクアドバイザーに就任した山下俊一は、そのエキセントリックな発言で一躍有名になった。


 ▼ 京大・放生研を中心に専門家らが連携

 次に、【Ⅱ】で見たように「放射線健康影響Q&A講演会」活動の拠点となり、渡邉特任教授が在籍している「京大・放射線生物研究センター」について見てみよう。

 歴代のセンター長を見ると、菅原努、岡田重文、丹羽太貫(おおつら)など、<低線量被ばくは健康影響なし。LNT仮説は間違い>と主唱した研究者が多い。
 放生研を紹介する文章には、「放射線生物学は、原子力発電などの放射線リスク評価の学術的基盤」、「生命はその誕生以来、放射線や種々の環境ストレスに曝されて・・・進化をも遂げてきました」という言葉が並ぶ。
 放生研を中心に全国の大学・研究機関が連携して行う事業が二つ挙げられている。
 そのひとつが、「国際原子力イニシアチブ事業」として、「『被ばくした瞬間から生涯』を見渡す放射線生物・医学の学際教育【7】。被ばく人間を何十年単位で観察し、「放射線による損傷と影響との因果関係」を調査するという。
 この事業への参加機関には、弘前大、福島県立医大、京大、長崎大、東工大の他に、放医研、環境研、電中研、放影研など原子力政策に関わる研究所の名がある。 
 いまひとつは、「放射線安全確保に資するコミュニケーション技術開発と専門家ネットワーク構築」【8】。ここでは、国民の科学に関する知識レベルが低いために正しい情報が伝わっていないとして、「原子力及び放射線に関する基礎的知識を国民に浸透させるための教育システムの充実」を図ることを目指すとしている。そして、リスクコミュニケーション技術を開発することと、リスクコミュニケーションを担う専門家のネットワークの構築を目指すとしている。とくに、その専門家のネットワークを「日本版ICRP」に発展させるなどと称している。
 この事業は、京大・放生研が提案し、茨城大、東工大、福井大、長崎大、東京大、放医研、日本放射線影響学会、公益財団法人 体質研究会、公益財団法人「ひと・健康・未来研究財団」、さらに福島県内の市民団体【9】も連携している。
 【Ⅱ】で見た「放射線健康影響Q&A講演会」や「南相馬市放射線健康対策委員会」での渡邉特任教授らの活動は、つまり、この後者の「原子力及び放射線に関する基礎的知識を国民に浸透させる」事業として行われている。

 ◇住民をモルモットに 
 放生研のサイトを読んでいて強い違和感を感ぜずにはおれない。
 この研究者・専門家らは、福島原発事故に対して、その被害の大きさに責任や危惧を抱くのではなく、自分たちの研究基盤が脅かされるという方向で危機感を抱いている。そして、その原因が、原子力政策の問題としてとらえるのではなく、一般国民の無知のせいだという方向でとらえてしまっている。だから、原子力と放射線の知識を浸透させていくということが実践的な結論になっている。
 さらに怖いのは、彼らが、住民が長期にわたって低線量被ばくの状態に置かれる事態が、自分たちの仮説を証明するチャンスであり、その研究成果でもって国際的な評価を受けたいという欲望が滲んでいることだ。
 被ばくを強いられている住民は、「私らをモルモットにするのか」と繰り返し憤っているが、まさにそういうことだと言わざるを得ない。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
【1】「電中研レビュー第53号 低線量放射線生体影響の評価」(06年3月発行)「巻頭言」
http://www.denken.or.jp/research/review/No53/
【2】「放射線がんの主たる標的はDNAではない可能性が高い ESI‐NEWS Vol.25 No.5 2007」
http://anshin-kagaku.news.coocan.jp/sub071120watanabeESI.html
【3】「四十二年間の研究の末 発がんの主経路は DNA 損傷を起源としないという主張渡邉正己退官記念講演会抄録(平成24年6月23日、京都)」
http://rbnet.jp/shiryo/opinion6.pdf
【4】「御挨拶 平成26年4月 渡邉正己」  
http://rbnet.jp/jnabe.html
【5】(電力会社の合同出資によって運営され、電力会社のニーズに沿った研究開発を推進する研究機関―ウィキペヂア。以下、電中研)
【6】「低線量放射線影響に関する国際シンポジウム 低線量生物影響研究と放射線防護の設定を求めて」 
http://www.iips.co.jp/rah/n&i/n&i_de31.htm
【7】「国際原子力イニシアチブ事業 『被ばくした瞬間から生涯』を見渡す放射線生物・医学の学際教育」
http://house.rbc.kyoto-u.ac.jp/hito8996/
【8】「放射線安全確保に資するコミュニケーション技術開発と専門家ネットワーク構築」
http://house.rbc.kyoto-u.ac.jp/communication/
【9】参加する市民団体は、福島県伊達市諏訪野町内会、セシウムバスターズ郡山、福の鳥プロジェクト、NPO法人 持続可能な社会をつくる元気ネット。元気ネットは福島県外

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


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(渡邉特任教授の略歴・肩書は本文末に掲載)



【Ⅳ】 渡邉特任教授の原点
        と思想の問題性



 【Ⅲ】で渡邉特任教授の放射線に関する言説を検討してきたが、その言説の背後にある原点、あるいは思想にかかわる問題について見ておこう。
 ひとつは、長崎原爆に関する問題。いまひとつは、渡邉特任教授が講演の中で引用していたM・スコット・ペックに関わる問題だ。


 ▼ 長崎原爆と「発がんメカニズム研究」

 渡邉教授は、「放射線発がんメカニズム研究」を志した動機を、長崎原爆の写真だったと語っている。

「私がこの研究分野を選んだ大きな理由は、大学の恩師が授業で見せてくれた被ばく直後の長崎のパノラマ写真が(ママ)切掛けである。その写真には、昭和20年10月中旬に撮影された、今の長崎大学医学部(西山)のあたりから浦上地区を写したものであったが、私の目を奪ったのは、その写真に、煙を上げながら走っている蒸気機関車が写っていることである。私は、目を疑ったが、原爆投下後70年は、放射能の影響で草木はおろかあらゆる生物が生きられない死の世界であろうと予想されたという話とずいぶん違うことに驚くとともに人はなんと逞しいのかと感じた【1】
 原爆投下から2カ月とは、どういう状況だったのだろうか。
 長崎では、原爆の強烈な爆風、熱線、放射線によって、瞬時に、死者7万4千人、重軽傷者7万5千人。しかし、それからさらに地獄が続く。被ばく直後から数か月後にかけて急性期原爆症が現れ、脱毛、出血、白血球減少などで苦しみ悶えながら、死んで行っていく者が続出した。さらに、年を開ける辺りから、原爆後障害として、ケロイド、白血病、諸種のがんなどを発症していった。【2】
 なお、汽車は10月どころか、8月9日の当日から、救援列車として運行されていた。そして、このような状況下でも、懸命の救護活動と生きるためのたたかいが行われていた。
 しかし、渡邉特任教授の感じたという「逞しさ」にはやはり感性としてズレがあると思う。その言葉は、渡邉特任教授が、<原爆による放射線障害は、案外、大したことはなかった>と、その写真から受け取ったと読める。
原子力の導入に大きな役割を果たした中曽根康弘は、「原爆雲を見て、次の時代は原子力の時代になると直感した」と著書【3】の中で得意げに回想している。そして、「長崎原爆の写真」を原点に研究者を志した渡邉特任教授が、今日、「原子力は人類最大の賜物」といい、「100ミリ以下は影響なし」と述べている。奇しくも両者は符合している。


 ▼ スコット・ペック-エリートの精神的荒廃

 ところで、渡邉特任教授は、『平気でうそをつく人たち ―虚偽と邪悪の倫理学』(M・スコット・ペック)を繰り返し読んでいるという。座右の書というところだろうか。放射線や被ばくの問題から離れるように見えるが、実は、この本の中身は、渡邉特任教授の精神世界や住民に対する目線と一致している。少し脇道のようだが、この本の中身を検討しておきたい。
 アメリカの精神科医であったペックは、その著書で、「人間の邪悪性」「邪悪な人間」「集団の悪」を科学的に究明したとしている。文庫版に次のような紹介文がある。
 
 「世の中には平気で人を欺いて陥れる“邪悪な人間”がいる。そして、彼らには罪悪感がない――精神科医でカウンセラーを努める著者が診察室で出会った、虚偽に満ちた邪悪な心をもつ人びとの会話を再現し、その巧妙な自己正当化のための嘘の手口と強烈なナルシシズムを浮き彫りにしていく」【4】

 ということらしいので読んでみると、ペックの言う「邪悪な人間」の邪悪性よりも、この人びとを見るペックの眼差しの方に大いに問題があるということに気づく。
 「邪悪な人間」とは、ペックも認めるように、「ごくありふれた人間」。しかし、そういう人びとをペックは、「労働者」「二流市民」「低中流層出身」というカテゴリーでとらえ、そういう人びとを前にすると、ペックは、「吐き気をもよおす」「同じ部屋にいること自体が不潔」「人間を汚染し破滅させる」という感情を抱くという。そして、その感情は、「健全な人間が邪悪な人間に抱く嫌悪感」なのだと正当化している。しかも、「邪悪性」は、「子供時代の状況」「親の罪」「遺伝的なもの」によっており、また「その人間の一連の選択の総体の結果」だとしている。そして、「邪悪性は精神病理学的障害である」という確信を得たとしている。
 つまり一読するとわかるように、ペックの話の大半は、「邪悪」の研究というよりも、格差社会の矛盾の中で、ペックのようなアメリカのエリート層が、「二流市民」に対して抱く嫌悪感、蔑視、差別感情を活字にして吐き散らしたものというのが妥当だろう。
 それにしても、なんでそこまで嫌悪するのか。ペック曰く、「邪悪な人間」が「自分より高いものに屈服しない」、つまり自分たちエリートに対して「屈服しない」から。

 ◇ソンミ村虐殺事件
 いまひとつ、ペックは、この本の中で「ソンミ村虐殺事件」を「集団の悪」の問題として大きなテーマとしている。
 ソンミ村虐殺事件とは、1968年3月16日、アメリカのべトナム侵略戦争において、ソンミ村を襲った米軍が、非武装・無抵抗の村民504人を残酷なやり方で殺害した事件。ベトナム反戦運動高揚の契機にもなった歴史的な大事件だ。
 ペックは、<なぜこんな事件が起こったのだろうか?>と設問し、原因の究明を試みている。そして、組織の専門化によって個人の良心が希釈化されたからとか、戦場のストレスで、心理的成長が退行したからとか、といろいろ検討している。
 しかし、ペックの検討には大きな欠陥がある。それは、事件が、あたかも兵士の個人的な動機で引き起こされたもの、あるいは、せいぜい部隊の行き過ぎで起こってしまった事件のように見ていることだ。
 米軍は、当時、「サーチ・アンド・デストロイ(索敵・せん滅)作戦」という大規模な平定計画を展開していた。そして、米軍の軍用地図には、ソンミ村が、せん滅対象を意味する赤い丸で囲まれていた。この日のせん滅作戦は、前夜の作戦会議において部隊の指揮官の主張で決定されている。【5】
 つまりどこまでも米軍の組織的で計画的な虐殺だった。このことは、資料や証言からも明らかなことだ。ところが、ペックの記述には、資料や証言に照らして、明らかに事実と違う点が少なくない。なぜペックは、事実と違う状況把握で話を進めるのか?ちょっと調べれば分かることなのになぜそれをしないのか?
 ペックは、「優れた精神的な価値を有する合衆国軍」が、そんな残虐な行為をするはずがないと信じている。もっと言えば、アメリカが、アメリカ人が、そんなことをできるはずがないと思っている。しかし、事件は起こった。そこで、ペックが跳びついたのは次のことだった。
 「(虐殺を行った)部隊は、平均的な市民を代表するものではない」「部隊を一般アメリカ市民の無作為抽出サンプルとして見ることは無理がある」
調査をしたわけでもないと言いながら、ペックはそのように決めつけている。
 そして、「低中流層出身の若者は攻撃的」、「アルコール依存症の農業労働者と疲れきったその妻とのあいだに生れた六人兄弟の長男」、「厄介者やはずれ者」、学校を中退、職を転々、盗みなどと、ストーリーを創作してしまう。そして、そういう人間に武器を与えたら、「無差別殺人を行っても何の不思議もない」「罪の意識も感じていない」などと結論づけている。

 ◇エリートの精神的荒廃
 つまり、<ソンミ村虐殺事件は、一部の厄介者や外れ者の仕業だ>としたいのだ。<ソンミ村虐殺事件を引き越すような連中と、自分たちエリート層とは全く違うんだ。自分たちエリート層は「平和主義的アメリカ市民」だからそんなことはしない>と。そういう強い心理が虚偽のストーリーまで作らせている。
 ベトナム敗戦によって、アメリカ社会が受けた傷の深さを物語っている。正義、自由、繁栄といったアメリカ的な価値が、ベトナムの人びとの抵抗の前に敗れた。その事実に向き合って総括できない。
 この本がアメリカで出版されたのが1983年、一挙に300万部を超えるベストセラーになったという。まさに、この本を読んで溜飲を下げているアメリカの黄昏るエリート層の精神的荒廃、知的頽廃が投影されている。
 
 ◇安全神話崩壊の中で
 さて、翻って渡邉特任教授は、冒頭で見たように、『平気でうそをつく人たち』を引きながら、<被ばくを問題にすることは邪悪>、<悪がはびこるのは、住民の科学に関する無知(知的怠惰)と、専門家の話を受け入れない住民の態度(病的ナルシシズム)に原因がある」とほとんど八つ当たりのようなことを言っている。また、【Ⅱ】で見た「H25年後活動報告書」には「一種の社会崩壊情況」「世紀末を演出する思想集団のよう」などという不穏な言葉が見られた。
 ここで渡邉特任教授が問題にしているのは、原子力神話の崩壊、経済成長と科学技術への信仰の崩壊という状況である。その状況に、彼ら専門家は、自分たちの存立基盤の崩壊を感じている。しかしそのことに向き合って、総括できない。そして住民をなじる方向に話を転嫁して行く。渡邉特任教授らの眼差しは、ベックが、「二流市民」たちを蔑視し嫌悪する眼差しと見事に重なっている。

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【1】「我が国に原子力の安全管理の専門家育成システムを作る必要がある」(ESI‐NEWS VOL.25 No.46 2007)
http://anshin-kagaku.news.coocan.jp/sub080109watanabe.html
【2】「長崎原子爆弾の医学的影響」 長崎大学後障害医療研究所
http://abomb.med.nagasaki-u.ac.jp/abomb/data/panf.pdf
【3】中曽根康弘『政治と人生―中曽根康弘回顧録』1992年
【4】2011年 草思社文庫 裏表紙
【5】「ソンミを振り返る」 クァンガイ省一般博物館 吉川勇一訳
http://www.jca.apc.org/~yyoffice/Son%20My/A%20look%20back%20upon%20Son%20My.htm

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【Ⅴ】 南相馬市が問われている


 渡邉特任教授らの南相馬市で行っている活動の全貌がかなり見えてきたと思う。
 渡邉特任教授らは、「原子力は人類最大の賜物」という信念で、「LNT仮説の否定」「放射線防護基準の緩和」「日本版ICRP」に執念を燃やし、「原子力と放射線の平和利用は、我々の意思と行動で達成する」という決意をもって、「南相馬市を標的として」乗り込んできている。
 しかも、被ばくを危惧する住民や低線量被ばくに警鐘を鳴らす専門家に対して、「邪悪」「知的怠惰」「病的ナルシシズム」「世紀末の思想集団」と悪罵し嫌悪感を露わにしている。こんな姿勢でリスクコミュニケーションなど成り立つはずもない。
 渡邉特任教授が、個人的にこういう主張や信念をもっているというのは、百歩譲って自由だとしよう。しかし、それが、南相馬市放射線健康対策委員会という立場で、南相馬市とその住民を対象にして行われるとするならば、それは話が違うだろう。
 これは、南相馬市の行政当局の姿勢が問われる問題だ。このような目的のために、住民をモルモットに差し出すという話だ。それを承知で、委員会を設置し、この人選を行ったのだとすると看過できない。
 委員会には、桜井市長、江口副市長も出席しているようだ。桜井市長は「脱原発」を旗印に再選されているが、その真贋が問われている。 (了)


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 ◎ 渡邉特任教授の略歴 ・肩書
  • 薬学博士、放射線生物学・がん機構学 放射線による発がん機構の研究
  • 金沢大大学院薬学研究科修了、金沢大薬学部助手、ミシガン大研究員、横浜市大医学部助教授、長崎大薬学部教授、長崎大副学長、京大原子炉実験所教授。現在は京大・放射線生物研究センター特任教授
  • 原子力安全委員会・原子力安全研究部会および環境影響部会委員、ICRP(国際放射線防護委員会)G4・G5合同ワーキンググループ人体および環境影響作業部会委員、UNSCEAR(原子放射線の影響に関する国連科学委員会)国内対応委員 
  • 2002年、長崎大に東京電力の寄付講座の開設が一旦決まり、直後、東京電力のトラブル隠しが発覚、講座開設が断念に追い込まれた事件があった。そのとき渡邉氏は同大副学長。当時のことを渡邉氏は次のように述懐している。「・・・大学教授でさえも、多くが放射線や原子力に偏見を持ち、極めてヒステリックに行動するということであった。私は、放射線の生体影響の研究を続けてきたが、長崎大学で副学長を務めた時期に、教授会の席で複数の教授から公然と『渡邉がやっている放射線生物学は悪の科学である』と非難されたことである。最後は『核爆弾擁護者である』とまで言われた。勿論、彼らの真の目的は、科学的論争ではなく、他に目的があったことは明々白々である・・・」 〔「我が国に原子力の安全管理の専門家育成システムを作る必要がある」(ESI‐NEWS VOL.25 No.46 2007) http://anshin-kagaku.news.coocan.jp/sub080109watanabe.html
  • 以上は「福島・フクシマ」より
  • 影響ないと言って講演していますが結果健康被害が出た時に責任を取ってくれるのでしょうか?
安倍政権と同じく放射能汚染ではないと否定するだけです。現実にすでに放射能汚染で健康被害が出ていることに対してはどう説明するつもりなのか問いたいところです。全く酷い連中です。                                   以上

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