エボラ戦争に負けつつあるかも知れない人類
2014年09月03日
エボラ戦争に負けつつあるかもしれない人類。そして、実は治療に関してはそのエボラと同じタイプであるデング熱

▲ 2014年9月2日のアルジャジーラより。
エボラの患者数と死亡者数のカウントが止まった理由
少し前の、
・エボラ・パニック : アメリカでは 30州において「エボラ検査」が依頼され、WHO が「死亡者の実数が過小評価されている」と語る中、コンゴ民主共和国では「エボラと似た別の感染症」で多数の死亡が進行中
2014年08月23日
という記事の中で、8月の中旬から急速にエボラによる患者数と死亡者数が増えていることを書きました。
2014年4月から8月20日までのエボラ患者と死亡者数の推移

・2014 West Africa Ebola virus outbreak
(2014年の西アフリカでのエボラの流行)
などのページで、数日おきに WHO 発表の感染者数と死亡者数が、ほぼリアルタイムで更新されていました。なお、日本語版 Wikipedia 「2014年の西アフリカエボラ大流行」にも、同様の表が載せられています。
ところが、現在、9月3日なんですけれど「8日間」データが更新されていません。

それで、こう、いろいろと報道なんかを見ていますと、どうも、冒頭に貼りました報道の「世界はエボラとの戦いに敗れつつある」というような感じの悲観的な報道を数多く目にしまして、中には、下のように「治療の努力の窓はすべて閉められた」と、 アメリカ疾病予防管理センター( CDC )の職員が述べたというような報道を引用した記事なども目にしました。

・Extinction Protocol
思っている以上に現地は混乱しているようなのです。
そして、さきほどリンクしました過去記事「エボラ・パニック……」にも書きましたけれど、
・リベリアなどで医療崩壊が起きている
・雨期のため遠隔地の情報がまったくわからない地域が多い
・死亡した家族を密かに埋葬する人々が多い
などの事情を含む多くの理由により、すでに「実際の患者数」や「実際の死亡者数」は、把握したくても、しようのない状況になりつつある、あるいは、すでになっているのかもしれません。
ウォールストリート・ジャーナルでは下のような記事も目にしました。

▲ 2014年9月1日のウォールストリート・ジャーナルより。
「リベリアの埋葬の習慣がエボラとの戦いを妨げている」というタイトルですが、記事では、リベリアという国全体ではなく「隔離地域」とされた首都モンロビアのスラム街「ウエストポイント」で起きていることなどが書いています。
このウエストポイントには、75,000人ほどの人たちによりスラム街が形成されているのですが、ここにエボラ患者の隔離施設が作られています。
しかし、現在のリベリアでは「医療システムが事実上崩壊」していることもあり、「隔離」というのは、本当に「隔離」というだけの意味で、医療も予防方法もない形で数万人が詰め込まれている状態のようです。
そこでは、死亡した患者は報告されずにひそかに埋葬されているケースが多いとのことですけれど、素手などで埋葬している例も多いそうで、リベリアで医療活動に当たっている市の一人は、
「その場所そのものが壊滅的(カタストロフィック)なのだ」
と述べています。
当然、もはや正確な死亡者数はわからないはずです。
そして、この「隔離」というのも、その方法は、警察とリベリア軍を使って「防疫線」という非常線内に住民を威圧的に封じ込めるものです。

▲ 8月20日にモンロビアの「ウエストポイント」で撮影された写真。軍が住民たちを防疫線の中に追い立てています。2014年8月22日の THP より。
このような現実の下で、「状況が改善する」というのは、神様などの登場でもない限り、無理かもしれません。
そんな中で、アメリカの国立衛生研究所( NIH )が今週、エボラ出血熱を予防するワクチンのヒトへの臨床実験を開始することが発表されました。これが「神様」となるかどうかは微妙ですが、そのことを少し書いておきたいと思います。
「突然変異」を繰り返すウイルスの治療薬とワクチンの効果

▲ 2014年9月1日の abc news より。
今回の臨床試験は、健康なボランティアを対象に人体への安全性を確認するのだそうで、 CNN によれば、
このワクチンは、英製薬大手グラクソ・スミスクラインと米国立衛生研究所内のアレルギー感染症研究所が共同で開発し、チンパンジーを使った実験で非常に大きな効果が確認されている。
エボラ出血熱ワクチンの臨床試験が実施されるのはこれが初めて。食品医薬品局(FDA)は臨床試験の開始前に必要とされる審査を一部簡略化し、通常より早く許可を出した。
まず副作用の有無を調べるため、成人3人に投与する。安全と判断されたら次は18歳から50歳までの少人数のグループを対象に、ウイルスへの強い免疫反応が生じるかどうかを確認する。副作用の有無についても詳しく観察を続ける。
ということだそうで「臨床試験の開始前に必要とされる審査を一部簡略化」してまでの、かなり強引なヒトへの臨床試験の開始となるようです。
まあ、ワクチンといえば、つい最近も、
・コロンビアの少女たちの「謎の病気」の裏に見える、世界を覆う「システム」
2014年09月01日
というような記事を書いたばかりで、たとえ「全体のほんの一部」でも、その副作用の重大性というのは、「数の比率としてだけで片付けられる問題ではない」と、つくづく思います。
しかし、実際には、ワクチンの安全性というのは、結局、何十万人、何百万人に摂取されてから初めてわかるものが多いです。
とはいえ、病気によっては、ワクチンの有用性が非常に高いものも多くあるわけで、実際にエボラ出血熱のワクチンが完成するのなら、それはそれでめでたいことだと思いますが、そこに立ちはだかる「問題」が、最近わかった、
エボラウイルスが繰り返す激しい突然変異
なんです。
このことは、
・エボラウイルスのゲノムが判明。その遺伝子数は「たった7個」。そして現在、エボラウイルスは急速に「突然変異」を続けている
2014年08月30日
という記事にも書きましたけれど、日本語の報道でも多く記事となっています。
下はニューズウィーク日本語版からの抜粋です。
エボラウイルスに急速な遺伝子変化、シエラレオネの研究が指摘
ニューズウィーク 2014.08.29シエラレオネでエボラ出血熱に感染した患者からサンプルを採取して行われた遺伝子研究によると、ウイルスがヒトからヒトへと感染する過程で300回以上の遺伝子変化が起きていたことが明らかになった。
同研究を主導したハーバード大学のパルディス・サベティ氏は「ウイルスが突然変異していることが分かった」と述べた。
研究結果は、ウイルスが急速に突然変異し、現在の診断法や開発中のワクチン・治療薬の有効性に影響を及ぼす可能性を示唆している。
ということで、しかも、エボラウイルスは、「オオコウモリなど動物の場合と比べ、人間では、その2倍のペースで突然変異している」ということらしいのですね。
つまり、
エボラウイルスは非常に早いペースで、何百回もの突然変異を起こし続けている
ということのようなのです。
これが意味するところは、仮に、今回、アメリカで臨床試験が開始されるワクチンが、その時には効果があったとしても、すぐに効果がなくなる可能性があるというような懸念を表明している専門家も多くいるようです。

・Extinction Protocol
ヒトの4000分の1の遺伝子のみのエボラウイルスのゲノム
これだけすさまじい症状と致死率をもたらすエボラウイルスですが、その構造は非常に単純というか、シンプルな作りのウイルスで、遺伝子の数(推定遺伝子領域)が「7個」だけであることも解析で判明しています。
推定遺伝子領域というのは、まあ、私もよくわからないですが、独立行政法人製品評価技術基盤機構のこちらのページによりますと、
塩基配列のうち、タンパク質として機能していると予想される領域を推定遺伝子領域と呼びます。
とのことで、この「遺伝子の数」は、例えとしては(数は Wikipedia によります)、
ヒト 26000
マウス 29000
イネ 37000
などと、哺乳類だとか植物などでは大変に多いのですが、
大腸菌 4149
などのように、細菌類になると少なくなっていき、ウイルスではずっと少なくなります。ウイルスの中で最大のゲノムを持つ「パンドラウイルス・サリヌス」でも 2566 の遺伝子の数だそう。
いずれにしても、エボラウイルスのように「7つだけの遺伝子」の生物(ウイルスは生物ではないですけれど)に、26000の遺伝子を持つ人間が、好き放題に殺されてしまうという図式には、他の多くの病気を含めて、何だかいろいろと思うところもあります。
そんなわけで、エボラ出血熱については、 WHO や CDC などからは、現地の状況についての報告は何となく止まっている感じもあり、また、スーダン政府のように、
・患者が発生した可能性が出た途端、報道を禁じた
という例もあります。

▲ 2014年8月31日のスター・アフリカより。
これは、8月 30日に、スーダン西部のダルフール州でエボラ出血熱の疑いのある患者が発見されたことを地元メディアが報じた後、スーダン政府はメディアに対して、「エボラ出血熱に関してのすべての報道を禁じた」というものです。
このように、
・流行地の封鎖
・医療システムの崩壊
・患者の強制隔離
・患者の隠蔽
・報道の禁止
ということになってきている現状では、感染状況の実態はさらに曖昧になっていくようにも思います。
しかし、それでも、近現代の医療は、天然痘などを含めた脅威的な病気の多くを根絶してきたという歴史もあるわけで、未来的にそれほど悲観的になることもないのかもしれないですが、ただ、「現状は悲観的」ではあります。
ところで、「東京の代々木を媒介とするデング熱」が発生して、日本で 70年ぶりに患者が発生したことが報道されていますが、今年の2月に書いた、
・病気の時代 : 太陽活動での地磁気の乱れが誘発するもの。そして「新種」の病気の出現に震え上がるアメリカ国民
2014年02月27日
という記事の後半に「マレーシアで爆発的に増えているデング熱」のことをご紹介したことがありましたが、最近の数年は、デング熱の流行地域が爆発的に拡大していて、記事でも、
地図を見ている限りは、朝鮮半島や日本に上陸するのも時間の問題のようにも見えます。
と記していますが、それは、下のふたつの地図を見ると、おわかりかと思います。
2004年のデング熱の発生地域

・ 感染症情報センター「デング熱」
2010年版 デング熱のリスクのある国

・厚生労働省
そして、2014年に上の地図で日本も、「デング熱の発生がある地域」を示す黄色を塗られてしまうことになってしまったようです。デング熱が日本に定着していくのかどうかはわからないですが、何しろ、今は日本は「過去最高の外国人旅行者数記録を更新」し続けているわけで、人と共に、いろいろな病気もやってくるのは仕方ないことだと思います。
なお、デング熱は、軽い症状の人から重い症状の人まで様々ですが、上の「病気の時代 ……」では、インドを旅行していて、デング熱になり、出血を伴う重症化を経験した日本人の方のブログのページ「デング熱の恐怖6 緊急処置」をリンクしていますが、デング熱の症状が悪化した場合の恐ろしさがよくわかります。
> 痛みはだんだん増してきた。歯が痛み、頭が痛み、肘、膝、骨、背中、皮膚の腫れぼったい痛みと痒み。全てが同時に襲いかかってくる。
> 右腕がだんだん真紫に変色していき、そのエリアがどんどんひろがっていく。
> 膝の激痛で満足に立ち上がるどころか、背中の激痛で起き上がる事もできない。
などのような記述が並びます。
日本のデング熱の最新の報道では、
デング熱 感染者36人に
テレビ東京 2014.09.03国内でデング熱に感染したことが確認された人の数は、きのうまでに36人となりました。いずれも東京の代々木公園やその周辺を訪れていて、東京都は蚊を採集して調査する方針です。
重症例はないということです。
ということで、今回、日本で罹患された方々は上のインドで感染した方のように重い症状の方はいなかったようです。
ところで、タイトルに、
「治療に関してはそのエボラと同じタイプであるデング熱」
と記しましたが、何が同じかというと、 デング熱 - Wikipedia の以下の記載がそれをあらわしている部分です。
予防
デングウイルスには、認可されたワクチンがない。
治療法
デング熱に対する特別な治療法はない。
という、ワクチンも治療法もないという点においては、エボラ出血熱と同じタイプの感染症です。予防法は「蚊に刺されないようにすることだけ」のようです。
さらに、 この Wikipedia には、「デング熱の発生率は、1960年 - 2010年の間で30倍に増加した」という記述もあります。
最近は、何度か「病気の時代」という言葉をタイトルに入れた記事を書きましたけれど、それはまさに進行中なのかもしれないなあと、昨年あたりから特に思います。
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