火星植民地化戦争
「火星植民地化戦争」

▲ 2014年6月22日の英国ガーディアンより。

▲ 2014年6月30日のロシアの声より。
最近立て続けに上のような記事を目にしました。
英国のガーディアンでは、 NASA のエレン・ストファン( Ellen Stofan )博士が、記事の見出しに、
「私たちの計画は火星の植民地化です」
と言ったかのように書かれ、ロシアの声には、
「ロシアの副首相が中国に火星と月の共同植民開発を提案」
という記事。
どちらも「植民」という文字が踊ります。
ちなみに、ガーディアンの方のエレン・ストファン博士という女性は NASA のウェブサイトのプロフィールによりますと、 2013年 8月から NASA の主任科学者を務めていて、その前は、ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドン(ロンドン大学)地球科学部の名誉教授だったいう華麗な経歴の方です。
ところで、ガーディアンの見出しの訳を「植民地化」としたのですが、「本当にそれでいいのかなあ」と思い、 colonise を辞書で調べると、下のような感じとなっていました。

・ 英和辞典 Weblio - coloniseの意味より。
「入植者として定住する」という意味であるようですが、しかし、2つある例文が、
・英国人は、東海岸を植民地にした
・ヨーロッパ人は17世紀にアフリカを植民地化した
というものですので、ニュアンスとしては、 colonise という単語を使う際には「植民地にする」というニュアンスとして訳してそれほど問題もなさそうです。
このガーディアンの記事を取り上げたことには他にも理由があって、それは、実は非常に長いこのインタビューの中で、 NASA のストファン博士は「一度もそんな言葉( colonise )は使っていない」のです(笑)。
どうも、このインタビューした方・・・それは記事の上の小さな写真にあるニコラ・ディヴィスさんという女性記者のようなのですが、このディヴィスさんはどうも NASA 、あるいは、 NASA の活動に「好意的な感じを持っていない...かもしれない」ということがうかがえまして、そのあたりも興味深かったのでありました。
NASA の火星計画が存続する可能性そのものが...
ちなみに、インタビューの中には、下のような問いがありました。
問い:米国の NASA に対しての厳しい予算編成は国際宇宙機関としての NASA の地位を危うくしていますか?
答え:私たちは私たちの持てる範囲の予算の中で非常に積極的な宇宙計画を持っています。そして、実際、この数年は私たち NASA は有利な予算を得てきています。私たちは非常にいい状態にあると感じています。
問い:厳しい予算には注意を向けていない?
それはあなたの思う優先順位であって、率直にいえば、これ(厳しい予算)は、技術革新を促しているとも思います。イノベーションを創り出すための予算の削減は望まないですけれど、しかし、一方で、 NASA の予算は年々制限され続けているのが現状です。それは、 NASA だけではなく、米国連邦政府の関係機関すべての予算編成にあてはまることです。その限られた予算の中で、私たちは驚くべきことをやってみたいと思っています。
現在の NASA の各ミッションへの予算がどの程度のものなのか具体的な数字を私は知らないですが、現状はともかくとして、「火星へのミッション」だけに関していえば、 2012年2月に、
・米国政府が NASA 火星計画の予算を停止。米国の火星ミッションが事実上終了へ
2012年02月29日
という記事を書いたことがあります。
これは、 2012年 2月の AP 通信の記事で、
・ホワイトハウスは 2016年と2018年に予定されていた NASA の火星計画への予算計上を中止
・火星への有人飛行計画は、白紙(多分消滅)。
・欧州宇宙機関等は、中国とロシアに火星計画を持ちかけている。
というような報道がされたことを絡めて書いたものでした。
なので、その予算計画が変更されていなければ、
・そもそも現時点では NASA による火星への有人飛行計画そのものが存在しない
という可能性もありそうなのですが、そのあたりのことがどうなっているのかはよくわかりません。
民間レベルとしては、実現できるのかどうかはともかくとして、 2025年までに火星に人類初の永住地を作ることを目的にしているオランダの民間非営利団体マーズワンのようなものはあります。
「ワープを実現した」と主張する NASA ですが
ところで、 NASA の主任科学者が、今の時期に「火星への入植」を口にしたのは、最近の NASA の下の発表があったからではないかとも思ったりしたのでした。
それは、先日、 NASA は、
・光速を超えて宇宙空間を移動する「ワープ航法」の性能をもった宇宙船の設計画像を公開した
のです。

記事から少し抜粋いたします。
これがワープ実現の宇宙船――NASAが画像公開
CNN 2014.06.13
米航空宇宙局(NASA)は、光速を超えて宇宙空間を移動する「ワープ航法」の性能をもった宇宙船の設計画像を公開した。
ワープ航法を実現する宇宙船の研究は、NASAの先端推進技術研究チームを率いる物理学者のハロルド・ホワイト氏が2010年から取り組んできた。(略)
同氏によると、「宇宙ワープ」は一般相対性理論に出てくる抜け穴の法則を利用して宇宙空間を歪曲させ、何千年もかかって到達するような超長距離を数日で移動できる航法。この航法を採用すれば光速を超えられるようになり、速度に制限はなくなる。
というものです。
もっとも、
NASAによると、ワープ航法の存在はまだ実証されていないものの、その理論は物理学の法則に反していない。ただ、実現できるという保証はないとしている。
ということで、実現できないほうに 30バーツといったところでしょうか。
ちなみに、上の宇宙船のデザインはオールドSFファンにはおなじみの 1966年から放映が開始された人気SFテレビドラマ「スタートレック」の「エンタープライズ号」を参考にしてデザインされたものだそう。

▲ スタートレックの宇宙船エンタープライズ号。
スタートレックは、私が中学だったか高校くらいだったかの時に、『宇宙大作戦』というタイトルで夕方に何度も再放送されていたので、初回シーズンなんかは結構見ているんですよね。

▲ 『宇宙大作戦』の主要3人。左からカーク船長、Dr. マッコイ、スポック博士。
どうでもいいですが、主演のカーク船長を演じたウィリアム・シャトナーは、この作品が代表作であるにも関わらず、 Wikipedia によると、
自分が出演した作品は見ないので、自分が監督した作品以外の『スタートレック』は見たことはないと語っている。
というような部分は、私個人は結構好きな感じです。
さて、話がそれましたけれど、とにかく、ここにきて、 NASA は突然、
「私たちはワープで光速を超えられるかもしれないですよ」
というアピールを打ち出してきたわけです。
しかし、このニュースも一部の人々に多少興味を持たれただけで、すぐに忘れられたニュースになってしまいました。最近の NASA の「サプライズ手法」は、なかなか世論を巻き込むようなことにはならないようです。
本当の「入植」の可能性
そして、上の 2012年2月の AP 通信の記事の中に、
・欧州宇宙機関等は、中国とロシアに火星計画を持ちかけている。
という項目があったのですが、その中国とロシアは冒頭に貼りましたように、「火星と月の共同植民開発」の計画を立てたりしているようです。
そのロシアの声の記事は、以下のようなものです。
ロゴジン副首相 中国に火星と月の共同植民開発を提案
VOR 2014.06.30
ロシアのロゴジン副首相は「ロシアは、火星及び月開発を中国と協力して進める用意がある」と述べた。
その際ロゴジン副首相は「有人宇宙飛行や、月や火星をまず第一とした太陽系開発について言えば、我々はこの領域で、中国の友人達と共に手を取り合って前へと進む用意がある。
ロスコスモスは、一連の科学研究機関と共に、月植民プロジェクトを作成したと伝えた。このプロジェクト実施には2030年に取りかかる予定だ。
火星はともかく、月に対しても「2030年に取りかかる予定」とはずいぶんと悠長な感じではありますが、いずれにしても、
「植民」
という文字が入っているということは、入植、つまり「人間が定住すること」が条件ですので、まずは、「有人で到達する」ことが前提となります。
いずれにしても、
・ NASA の言っていること
・中国とロシアの言っていること
どちらも、「入植」(人が定住する)という言葉が使われている時点で、どうにも今の時点では現実的ではない気はするのですけれど、しかし、仮に本当におこなおうとするのなら、その時の予算と規模は天文学的なものになる可能性もあります。
なので、 NASA も中国もロシアも関係なく、仮に、あくまで仮にですけれど、またも世界的な経済恐慌のようなものに見舞われた場合、多分、すべての火星計画は延期、あるいは「消滅」ということになるのは避けられないとは思います。
現在の火星のあまりにも過酷な環境の現実
ところで、月はともかく、火星というのは非常に過酷な環境である可能性があります。
私、あるいは多くの人々の中にも火星の表面に「文明跡」のような痕跡が数多く見受けられるような気がしてならないという人はたくさんいます。私の目にうつるのは一種の「廃墟」です。
まあ、それらのオカルト話はともかく、過去の火星がどのようなものであったかはともかく、今現在の火星というのは、地域にもよるでしょうけれど、「非常に過酷な環境」である可能性が高いと考えています。
過去記事、
・最近の火星では何かが起きている:火星の環境が激変しているかもしれない証拠になり得るかも知れないさまざまなこと
2014年05月25日
では、
火星表面で砂粒子の跳躍が起こる時, 地表付近でも50m/s 程度の高速度の風が吹いている。
ということを書いていますが、50m/s の風というのは、
たいていの木造家屋が倒れる。樹木は根こそぎになる。
という超暴風です。
あるいは、過去記事、
・火星の「超」異常現象: 地表から数百キロ上空まで吹き上がる現象は何か
2012年03月26日
では、2012年に火星の地表から宇宙空間に向けて、「地表から約 240キロメートルの高さの何かの噴出が起きている」ことが確認されたりと、火星という場所が、想像している以上に激しい状態になりやすい環境の可能性はあります。

▲ 上の記事より。
太陽系全体としてもこれからさらにいろいろなことが起こるかもしれませんし、火星の状態もますます荒くなるのかもしれません。
そんなわけで、「火星の植民地化」というキーワードからいろいろと考えてたり、あるいは思い出したりしたことを適当に書き並べてしまいましたが、冒頭のガーディアンのインタビューの記事について、これは大変に長いものですので、要約も難しいですが、
・インタビュアーがどんなことを質問したのか
を書いておたきいと思います。それに対しての NASA の科学主任の答えは、多分、ほとんどの方の想像されることと同じようなもので、驚きもなければ、夢や刺激のあるものではないです。
とにかく今は「夢より予算」。
それが NASA の進む道のようです。
ガーディアンの記者のNASA のエレン・ストファン博士への質問の一覧
Q:NASA は知的生命体を探しているのですか?
Q:ケプラーミッションでは私たちの太陽系以外の多くの太陽系型の惑星を発見しました。これはどのような影響がありますか?
Q: NASA のミッションの中には、その予算を地球の問題の解決のために使った方がいいのではないかと議論されるものもありますが、どう思われますか?
Q:火星には生命がいないようですが、同じ探査をするなら、火星ではなく、生命のいそうな他の惑星の探査に力を注ぐというお考えはないのですか?
Q:NASA は火星に人を送ることができると考えていますか?
Q:火星に有人飛行ができたとして、飛行士たちは地球に戻ってこられますか?
Q:人間が火星を汚染してしまう可能性はありませんか?
Q:あなた( NASA のストファン博士)は以前は、タイタンの上陸調査計画 TiMEの主任でしたが、タイタンの調査計画は消滅したのですか?
Q:米国の NASA に対しての厳しい予算編成は国際宇宙機関としての NASA の地位を危うくしていますか?
Q:中国とインドの宇宙開発競争を NASA はどのように見ていますか?
Q:ウクライナ情勢のもとで、国際宇宙ステーション( ISS )のロシアとアメリカの将来の関係について懸念はありますか?
Q:ケプラーミッションでは私たちの太陽系以外の多くの太陽系型の惑星を発見しました。これはどのような影響がありますか?
(訳者注) 下の図は見つかった、上の「太陽系以外の多くの周回する太陽系型の惑星」のいくつかの例です。2013年05月17日の記事「さよならケプラー: ありがとうありがとう、本当にありがとう」より。
▲ 2012年1月に探査機ケプラーが新たに特定した26個の「他の太陽系」。
Q: NASA のミッションの中には、その予算を地球の問題の解決のために使った方がいいのではないかと議論されるものもありますが、どう思われますか?
Q:火星には生命がいないようですが、同じ探査をするなら、火星ではなく、生命のいそうな他の惑星の探査に力を注ぐというお考えはないのですか?
Q:NASA は火星に人を送ることができると考えていますか?
Q:火星に有人飛行ができたとして、飛行士たちは地球に戻ってこられますか?
Q:人間が火星を汚染してしまう可能性はありませんか?
Q:あなた( NASA のストファン博士)は以前は、タイタンの上陸調査計画 TiMEの主任でしたが、タイタンの調査計画は消滅したのですか?
Q:米国の NASA に対しての厳しい予算編成は国際宇宙機関としての NASA の地位を危うくしていますか?
Q:中国とインドの宇宙開発競争を NASA はどのように見ていますか?
Q:ウクライナ情勢のもとで、国際宇宙ステーション( ISS )のロシアとアメリカの将来の関係について懸念はありますか?
というような感じです。
このほとんどの問いに対して、 NASA のストファン博士は、長いことは長くとも、あたりさわりのない返答を最後まで貫きました。
以上は「IN DEEP」より
何れ火星には人類が住むようになります。2020年には第一便が出発しそうです。以上
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