免疫細胞療法・分子標的薬とANK免疫細胞療法の併用(6/12)
がん治療における分子標的薬とANK免疫細胞療法の併用
根幹から転換期を迎えたがん治療
世界のがん治療は、根源的な変革期に入っています。
画像診断や外科医の目に見える大きな病巣を叩くことに捉われ過ぎ、免疫や基礎的な生命力も一緒に削いでしまう従来型の標準治療から、「がんを叩く」、「がんを抑える免疫を活かす」、「基礎的な生命力を傷つけない」三つを同時に考える方向へのシフトが始まっています。
がん細胞と正常細胞を見境なく攻撃する化学療法剤は、日本を除けば過去のものとなりつつあり、
今、世界で抗がん剤といえば、分子標的薬です。
がん細胞も正常細胞も殺さず、増殖を抑えるだけ。
完全な脇役に徹しています。
がんを攻撃するのは、がん細胞と正常細胞を見極めることができる免疫の役割です。
ANK療法との同時併用で相乗効果が期待できるのは、何といっても分子標的薬です。
分子標的薬は強力なパートナーとなりますが、残念ながら、すべての患者さんが使えるわけではありません。使用可能かどうか、事前に検査が必要です。分子標的薬は単独使用や化学療法剤との併用では、僅かなスーパーレスポンダー(劇的に反応し、高い効果がでる患者さん)を例外として、それ程、効果を発揮しません。ですがANK療法と組み合わせれば、分子標的薬が一時的にがん細胞の増殖を抑えている間に、NK細胞が、一つずつ、がん細胞を潰してまわり、しかも分子標的薬の種類によっては、NK細胞の能力を何倍も高める効果があります。
がん細胞特有の物質を標的として抗がん剤や、がんワクチンを開発しようとする試みは、過去、尽く失敗に終わりました。日本の一部の研究者は、今もがん細胞に特異的な物質を追いかけていますが、世界の医薬品メーカーや欧米のバイオベンチャーが狙うのは、がん細胞にも正常細胞にも共通に存在する物質です。存在するかしないかではなく、存在する量の違いを狙うのです。増殖の早い危険ながん細胞は、一般に細胞増殖に関係する物質を大量に発現しています。この増殖関連物質を標的とし、増殖信号の伝達の邪魔をする物質を抗がん剤として開発しているのです。がん細胞と正常細胞を正確に見分ける薬はいくら探しても見つかりません。そこで、考え出されたのが、増殖の早いがん細胞に特に多くみつかる物質を標的として、その機能を妨害するタイプの薬です。
新しい抗がん剤は全て分子標的薬
80年代以降、新規の化学療法剤の開発は殆ど止まります。10年間、承認ゼロという時期もありました。タキソール系を除けば、今、使用されている化学療法剤は、70年代までに承認された物質か、その誘導体、或いは投与法などを変更したものです。
80年代には、バイオテクノロジーの興隆と共に、がん特有の物質を標的とする治療法の開発に巨額の予算が投じられました。今日、話題になっているがんワクチンと同様のプランを掲げるバイオベンチャーは1000社以上いたのです。また、インターフェロンやインターロイキンなど、免疫刺激物質、TNFのようながん細胞に特別な信号を送る物質なども新薬として本格的な開発期に入りました。インターフェロンは肝炎を中心に1000億円以上の市場を形成しますが、「がんを治す夢の薬」には程遠いのが実態です。結果、一部、生き残ったものもありますが、壊滅に近い状態となってしまいます。単純な物質で、がん細胞だけを特異的に攻撃する、あるいは、免疫を制御する、こういった発想は、複雑な生命システムの現実を無視した幻想に過ぎなかったのです。
90年代には、ダナファーバーがん研究所(ハーバード大)にシグナルトランスダクションの専門家を集め、米国の国家予算が集中的に投入されます。
正常細胞もがん細胞も、細胞増殖因子とか、成長因子とよばれる刺激物質を沢山、受け取ると、細胞分裂つまり増殖を活発化させることが分かっていました。また、発見された発がん遺伝子の大半が、この増殖因子を受け取るレセプターに関係する遺伝子に僅かな変異を起こしたものでした。レセプターは、細胞表面に突き出したアンテナで、細胞増殖因子を受け取り、そのことが引き金となって、細胞内にも突き出した部分に変化が起こります。そのあとは、何十という物質や酵素が複雑に影響しあって、結果的に、細胞分裂のスイッチを押し、増殖フェーズに入ります。外部信号を受けてから、結果として、細胞が分裂するという行動につながる、この一連の複雑な制御反応プロセス全体をシグナルトランスダクションといいます。
がん、といっても、活発に増殖しない、また、それほど転移しないものであれば、危険度は低いわけです。危険ながんは成長速度が早く、転移する傾向が強いものです。増殖因子のレセプターを異常に大量にもつ(過剰発現する)がん細胞は、危険ながん細胞、と考えられ、増殖因子のレセプターを封じることで、危険ながんの増殖を抑える、新しい抗がん剤のコンセプトが打ち出されました。
増殖因子のレセプターは正常細胞にも存在します。がん細胞の増殖因子レセプターに関連する遺伝子に、僅かな変異がある場合もありますが、それは、レセプターの発現量の制御に影響するものです。遺伝子上の僅かな変異を利用して、がん細胞だけ攻撃しようとしてもうまくいかないことは、失敗の山を築いた結果として、明らかになっていました。ちなみに、オンコジーン(発がん遺伝子)を直接の標的とするがん治療は、尽く失敗に終わります。 米国では、90年代、オンコなんとか、という名前のついたバイオベンチャーが何百と生まれましたが、全て、消え去りました。増殖因子レセプターを過剰発現しているのが危険ながん細胞なのであれば、増殖因子レセプターを標的とする薬剤は、正常細胞にも影響を与えるものの、危険ながん細胞に対してより集中的に強い影響を与える、と考えられました。
こうして、二系統の分子標的薬が続々と開発されます。
一つは、抗体医薬品と呼ばれるもので、もう一つは狭い意味での分子標的薬、あるいは低分子分子標的薬と呼ばれるものです。低分子分子標的薬の代表格がイレッサ(商品名)です。イレッサは、EGFと呼ばれる成長因子の一種が惹き起こす細胞分裂のプロセスを、細胞の内部まで入り込んでブロックします。低分子分子標的薬は、抗体医薬品よりも細胞分裂を抑えるパワーは強いのですが、特段、NK細胞を刺激することはありません。イレッサは、非小細胞性の肺がんに適用が認められましたが、原理からすれば、部位の問題ではなく、EGFR(EGFレセプター、EGFを受け止めるアンテナ)を過剰発現しているがん細胞に対して、より有効と考えられます。
一方の抗体医薬品の代表格ハーセプチン(商品名)は、EGFレセプターの2型(HER2)に結合するものです。細胞表面に突き出たアンテナに結合することで、成長因子がアンテナに受け止められるのを妨害します。細胞増殖を抑えるパワーは低分子分子標的薬には敵いません。ハーセプチンもまた、乳がんを対象に保険適用になりましたが、やはり本来は部位に関係なく、がん細胞がハーセプチンの標的となるHER2を過剰発現(HER2抗原強陽性)しているがんに対して、使用を検討すべきものと考えられます。
腫瘍の種類 | EGFR過剰発言の場合 |
---|---|
肺がんの一部 | 40-80% |
前立腺がん | 40-80% |
胃がん | 33-74% |
乳がん | 14-91% |
大腸がん | 25-77% |
膵臓がん | 30-50% |
卵巣がん | 35-70% |
腫瘍の種類 | 症例数 | HER2タンパク過剰発現の割合 |
---|---|---|
乳がん | 2111 | 17-37% |
卵巣がん | 73 | 32% |
胃がん | 459 | 12-55% |
非小細胞がん | 207 | 27-56% |
間葉がん | 94 | 37% |
膀胱がん | 141 | 36% |
食道がん | 25 | 60-73% |
唾液腺腫瘍 | 27 | 32-62% |
Hynes NE et al:Biochem Biophys Acta 1198,165,1994 |
なお、分子標的薬には、細胞増殖に関係する物質以外を標的とするものもあります。
代表的なものは、リツキサンです。これは、B細胞に多く存在するCD20という物質を標的とします。CD20は、正常なB細胞にも沢山、存在するため、大量の抗体(リツキサン)が正常細胞に吸着されます。そのため、投与量が多く、値段が高いのがネックです。また、この抗体は、B細胞ががん化したもの、悪性リンパ腫B型専用のものです。
他にも、血管新生阻害というタイプがあります。腫瘍組織は、数ミリ程度まで大きくなると、組織内部に血液が循環せず、成長できなくなります。そこで、腫瘍組織は自ら血管網を形成しようとします。この血管新生を阻害すれば、腫瘍組織の巨大化を防げる、と言う考え方です。
現在、開発中の新薬については、細胞増殖に関係するものに集中しています。EGFレセプターやHER2抗原といった、既存品が存在する同一標的に対し、特性の異なる複数の抗体医薬品が開発中です。また、一部にマウス由来の構造を残している抗体を完全にヒト型に変更したもの、最初からヒト抗体として開発されているものなどもあります。
抗体医薬品の大きな特徴、ADCC活性(抗体依存性細胞傷害活性)
抗体医薬品は、がん細胞と正常細胞を区別するものではなく、がん細胞にも正常細胞にも結合します。また、抗体が結合した、というだけでは、通常、何も起こりません。単純に、増殖因子のレセプターに抗体が結合することで、物理的に、増殖因子がレセプターに結合できなくするだけです。ところが、抗体の中には、ADCC活性をもつ特殊なものがあります。抗体医薬品を開発するプロセスにおいて、とにかくADCC活性をもつタイプを探します。このタイプの抗体が標的抗原に結合していると、NK細胞を刺激します。抗体が正常細胞に結合していても、NK細胞は見向きもしません。ところが、抗体ががん細胞に結合していると、NK細胞は、非常に効率よく、がん細胞を攻撃します。
分子標的薬はがんを攻撃できません。
ADCC活性をもつタイプの分子標的薬は、NK細胞によるがん細胞の攻撃力を高めることで、がん細胞の排除を狙います。世界の大手医薬品メーカーや、バイオベンチャーは、非常に低い確率でしか存在しないADCC活性をもつタイプの抗体を最優先で探します。NK細胞こそ、がん細胞を傷害する主役であることは周知の事実だからです。厚生労働省が承認した抗体医薬品の添付文書にも、抗体医薬品は、ADCC活性により、NK細胞の傷害活性を高めることで、抗腫瘍効果を発揮する、と明記してあります。
ポテリジェント技術というものがあります。ADCC活性をもつ抗体の一部分を少し削ることで、ADCC活性を100倍強くする、という技術です。協和発酵がライセンス権をもっており、2009年末時点で、世界の主要医薬品メーカー14社にライセンスの使用許諾を付与(販売)しております。
抗がん剤開発における医薬品産業の新基本戦略
NK細胞が、がん細胞攻撃の主役
医薬品は、がんの増殖を抑える脇役へ
NK細胞を刺激するADCC活性をもつ抗体開発に注力
ポテリジェント技術により、ADCC活性が100倍強化される
キリンファーマ社は、協和発酵社を買収しました。協和発酵社は、世界の医薬品メーカーが重要視するポテリジェント技術をもっているからです。キリンファーマ社は、医薬品用の抗体を、短い開発期間で、コストを抑えて開発し、より安価に量産する様々な技術を蓄積してきました。欧米のバイオベンチャーに先行された抗体医薬品の分野において、抗体の制作技術で世界をリードする戦略を打ち出しています。協和発酵社の買収により、世界最強の抗体技術を有する企業となりました。
欧米の大手医薬品メーカーは、2010年中に分子標的薬(これは日本独特の言い方で、欧米では、BIOLOGICALSと言います。)の売上は、全医薬品の50%を越えるとされています。日本では、分子標的薬の売上比率は、2007年の統計で3%に過ぎません。完全に出遅れた日本の医薬品メーカーは、キリンファーマによる協和発酵の吸収合併以外にも、エーザイ、第一三共、武田、アステラス、大手各社とも数千億~1兆円の予算を組み、欧米の抗体医薬品ベンチャー企業へ買収攻勢をかけています。
これからの医薬品の主要分野はリューマチとがん治療(いずれも免疫分野です)。
重要品目は分子標的薬。
がん治療のおける核となる技術はADCC活性やポテリジェント技術
NK細胞を刺激することが主目標となっています。
抗体医薬品が標的とする物質は、元々、正常細胞にも存在するものですので、通常、ヒトの体内で抗体がつくられることはありません。そこを何とか工夫して、一度、ヒトの抗原を標的に、異種であるマウスに抗体をつくらせてから、わざわざ、ヒト型の抗体に置き換える、などなど、大変な手間と技術、開発コストと開発期間を要します。最近では、いきなりヒト抗体をつくる技術も使われ始めています。抗体医薬品の最大の問題は、開発コスト、量産コスト、ともに低分子の化学合成された医薬品より桁違いに高い点です。米国では、二十数品目が承認され、160品目が臨床試験中ですが、日本で承認されたのは数品目に過ぎません。これは、厚生労働省の審査スピードの問題ではなく、国民健康保険制度のもつ構造上の問題です。つまり、薬価が高い抗体医薬品を次々に承認すると、国民健康保険の予算を著しく圧迫することになります。一方、米国FDAは、これまで高価な医薬品を次々に承認してきました。医療費を直接、支払うのは民間の医療保険なので、予算上の心配をしなくていいという立場だからできるわけです。ドラッグラグ、つまり、欧米で承認されている医薬品が日本では健康保険適用にならない、という問題は、各国の医療保険制度の違いに根本的な原因があるため、容易に解決されるものではありません。解決策の一つとして、個人輸入という方法があります。患者様が、個人輸入として欧米から薬剤を購入する(健康保険適用にはなりません)という、ものです。
ANK免疫細胞療法と分子標的薬併用の治療設計
ANK療法と分子標的薬の相乗効果の現れ方について、実際に、どの程度のがん細胞を攻撃するかは、他の免疫細胞療法との比較に実験データを掲載しておりますので、ご参照ください。ここでは、ANK療法と分子標的薬を併用する場合の治療設計の考え方について、グラフを用いて説明させていただきます。
細胞1個が、分裂して2個になるまでの平均時間をダブリングタイムと言います。固形がんの多くが、概ね、10~30日、つまり10日毎に2倍、2倍と増えるものから、30日毎に倍々で増えるもの、こういったものが多いといわれております。白血病は2~3日で2倍あるいは、それ以上、早く増殖するものもあります。正常細胞はどうでしょうか。成人の心筋細胞や中枢神経の細胞は殆ど増殖しません。一般の筋肉細胞も数は増えません。ところが、免疫の担い手であるリンパ球の多くは2~3日で2倍になります。内臓の組織の多くを占める上皮細胞(粘膜や皮膚に類したものとお考えください)も同様か、1日の内に数回分裂するものもあります。そのため、分裂する細胞を無制限に攻撃する化学療法剤は、がん細胞よりも先に多くの正常細胞を叩いてしまうのです。
ちなみに、インフルエンザウイルスは、8時間で1個のウイルスが100~150個、24時間で100万倍~200万倍、48時間で1兆倍~数兆倍に増殖します。大腸菌はもっと早いです。15~20分で一回分裂しますので、仮に1時間に10倍に増えるとすると、同じ8時間で1億倍、16時間で1京倍になります。ダブリングタイム、細胞分裂速度の僅かな違いが、結果的にどれ程、「数」に影響を与えるか、如何に少ないうちに叩くことが重要か、如何に増殖速度を抑えることが大事かが、お分かりいただけると思います。
では、仮に、体内に100億個のがん細胞があったとします。1cmの固形がんで、概ねの目安として、10億個ぐらいです(がん細胞の大きさはまちまちですので、あくまで参考としてお考えください)。2cmぐらいになると、100億前後になります。100億個のがん細胞というのは、1cmが10個とか、2cmが1個、そういうイメージとお考えください。ダブリングタイムが、10日、15日、20日、25日、30日の場合を考えます。実際には、大きな腫瘍の場合、中心部は増殖が止まっている、あるいは診断困難な微小分散がんが全身に散っていて猛然と増えている、がんの実態は様々ですので、これもあくまで参考のための一つのイメージとお考えください。何も治療しなければどうなるでしょうか。次のグラフをご覧ください。時間経過は、ANKの標準点滴パターンが一週間に2回ですので、点滴一回を「1」、つまり「2」で1週間、「8」~「9」で、ほぼ一ヶ月に相当します。 一番、急激に増加しているのが、ダブリングタイム10日のケース、以下、ダブリングタイムが長くなるほど、増殖は遅くなります。
がんは、一旦、増殖を始めると、あっという間に膨大な数になってしまいます。小さいうちはゆっくりしか増えないように見えても、ある程度の大きさになってくると、凄まじい勢いで増えているように見えます(実は、同じペースで増えていたのですが、印象としてはそう見えます)。目に見える腫瘍組織が半分になったかどうかではなく、がんの勢いがどうなのか、その方がはるかに重要であることがお分かりいただけると思います。放射線や化学療法剤で、少し腫瘍を叩いても、残ったがん細胞の増殖速度が上がってしまうのでは、何の意味もないのです。標準治療を用いる場合は、治療後に、がん細胞の増殖を抑える策が必要です。
ちなみに、がん細胞が一個からスタートして、どのような増殖曲線を描くかを見てみましょう。
上の図で、ダブリングタイムが10日の場合、1個のがん細胞が10億個に増殖するまで、1年かかっていません。そしておよそ一ヶ月毎に、10倍ずつ増殖し、1年と3ヶ月程度で、1兆個に達します。ところが、10ヶ月目までは、数ミリ以下のサイズであり、画像診断では発見されません。ダブリングタイムが15日、20日などのケースでは、1年半、2年目位でグラフ上に現れ、その後、数ヶ月でやはり1兆個レベルに達します。
がんは慢性病です。急に症状が変化することなく、自覚症状もないまま時間が過ぎます。ところが、ある程度、がん細胞の数が増えてくると、あっという間に手がつけられないほどの膨大な数になってしまいます。
では、次に分子標的薬イレッサなどを単独で用いた場合、どうなるかのイメージをグラフ化してみます。
時間軸は、ANK治療間隔を前提に、2目盛で1週間です。(実際には、イレッサは投与を始めてから、血中濃度が序々に上昇し、10日目ぐらいから効果を発揮し始めます。)途中までは、がんの増殖を抑え、特に、がんによる勢いの差が少なくなっています。イレッサは正常細胞の増殖も抑えますので、ここでは、投与を中断することを想定し、中断後に、がんの増殖カーブが立ち上がっています。イレッサは、がんを抑える効果は強いのですが、永久に、がん細胞の増殖を抑え続けることはできません。
自分で、がん細胞を攻撃しない分子標的薬にとって、十分な治療効果を発揮するには、どうしても相棒が必要です。その点、化学療法剤は問題があります。化学療法剤は、分裂中の細胞の遺伝子に傷をつけるものです。つまりイレッサによって増殖を抑えられたがん細胞は、化学療法剤の攻撃を免れることになります。イレッサががん細胞を守っているようなものです。一方、体内のNK細胞は化学療法剤によって叩かれ、これもまた、がん細胞を攻撃できなくなっています。体内で、「誰もがん細胞を攻撃しない」状態となります。
また、承認当初、イレッサを服用された患者100人中に2~3人の割合で間質性肺炎を発症され、その中の3人に1人の方が亡くなられました。とんでもない副作用が強い薬として、マスコミにも叩かれました。化学療法剤は「長期間連続投与」すれば、死亡率100%です。無事な人はいません。100%の方が亡くなる化学療法剤は問題なくて、死亡率1%弱のイレッサが問題とされたのです。後に、男性のヘビースモーカーを投与対象からはずせば、発症率も死亡率も下がることが判明します。これでマスコミは副作用問題を取り上げなくなります。そもそも、肺がん患者さんが、標準治療を限界まで受けられていると、間質性肺炎を発症する確率が高くなっています。この状態でイレッサを投与して間質性肺炎を発症しても、何が主たる原因なのか分からなくなります。イレッサは最後の引き金を引いたのかもしれません。
次にANK療法単独治療のケースをシュミレーションしてみましょう。
このグラフは、1クール目の途中の段階までを表しています。つまり、培養細胞が直接、がん細胞を攻撃する効果のみが現れている段階です。ANK療法を継続することで、体内に眠る数百億個のNK細胞が目を覚ませば、一気にがん細胞を叩くことも可能ですが、いずれの場合も、ANK療法により、排除されるがん細胞の数と、増殖するがん細胞の数、どちらが上回るのか、「数の戦い」となります。がん細胞が優勢であれば、がんは増殖を続け、NK細胞が優勢となれば、急速にがん細胞の勢いは衰え、両者拮抗の場合もあります。
では、ANK療法を分子標的薬と併用すれば、どのような効果が期待できるのでしょうか。あくまでシミュレーション(計算上の話)としては以下のようになります。
分子標的薬が、がん細胞の増殖を抑えている間に、ANK療法により、がん細胞の数を減らしていきます。がん細胞の勢いが強くても、ANK療法が叩いた数だけ、がん細胞が減れば、NK細胞の方が優勢になっていきます。
上の図は、イレッサのような低分子分子標的薬、つまり、がんの増殖を抑える効果は強いものの、NK細胞を刺激するADCC活性はないものを想定しています。
ADCC活性をもつ抗体医薬品の場合はどうなるでしょうか。
イレッサよりも、がんの増殖を抑える効果は弱いので、がん細胞の勢いの差による効果の現れ方の差は大きくなります。一方、ADCC活性により、NK細胞が優勢な場合は加速度的に更に優勢になります。
ここまで、グラフで示したものは、実際の臨床結果ではなく、あくまでシミュレーションに過ぎません。ANK療法、低分子分子標的薬、抗体医薬品、それぞれの特性と、治療設計の考え方について、ご理解をいただくために例示したものです。
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