ガンは癌にあらず、第四章・試論4.1.3.5-7(41)
5)味覚と免疫系のオプティマムの類似性
味覚についても免疫系と類似したことが起こっている. ある特定濃度のグルタミン酸ナトリウム, イノシン酸ナトリウムおよびそれらの混合物の水溶液の[うま味]を測定すると, 2物質の1:1混合物が最も強いうま味を示す. これを[相乗効果]と説明している.
味蕾(みらい)の2種類のサイトを2種類の物質が夫々きれいに抑えたときに強い刺激として伝達されるとすると, 免疫賦活でもこれに近い現象が起こっていると考えることができる.特定濃度と特定割合以外は強いうま味を感じないが, 春ウコン摂取の過不足によって効果を発揮しないことと類似の現象である, と解釈できる.
グルタミン酸・イノシン酸ナトリウム塩混合物の相乗効果(うまみの強さ)
6)免疫賦活で癌を唯一抑えたW.コーレーイ)
[コーレー説]のように, [丹毒のような病原を体に入れて, それに対する免疫を活性化させ, この免疫力を使って癌を抑える方法]もある. この方法は, 免疫力を上げて癌を抑えることを示した唯一の方法である. リスクは大きいが, 免疫と癌との関係で極めて興味のある方法である.
話はやや横道にそれるが, コーレー説の延長線上から推測すると, 「初期の癌を手術して取り除いてしまうと, 癌を叩こうとして活性化していた免疫系の矛先はたくさんある癌の小さい芽に向かい, これらを淘汰してしまう」と考えることもできる. 初期の癌の場合は, 手術後の処置に制癌剤を使わなくても, 癌の芽まで治まってしまう可能性があるように思われる.
イ)ウイリアム・コーレー(W.B.Coley,1862~1936)
7)漢方薬,天然物の生理活性
30年以上前の話になるが, 欧州の著名な製薬企業ウエルカム社が漢方薬に含まれる生理活性物質を大々的に研究したことがある. 結論は, [漢方薬の成分には見るべき生理活性物質はなかった]というものであった. 漢方薬から, ジキタリスやモルヒネのように強い活性を示す特長のある物質の発見を期待したようである. そして, 漢方薬から抽出した単一成分では, 見るべき生理活性を持った物質は皆無という結論だったのだろう.
漢方薬は確かに薬としての効果を出している. そのため, ウエルカム社の結果を聞いた当時は, [有効成分がない]という結論を理解できなかった. 春ウコンの結果から眺めてみると, 漢方薬は多成分が多くのサイトと反応した結果の生理活性効果であり, 「免疫系の色々な部分に作用してそれぞれの疾患を抑える」と理解できるようになった.
また, 伏谷伸宏博士(東京大学教授名誉教授, 現・北海道大学客員教授, 天然物化学)から, 「天然物の研究者が生理活性を調べている時に, 各種の分画手段を使って単一成分に分けていくと, 当初測定されていた生理活性が, 全て分画成分の中から消えてしまうことがしばしば起こる. 春ウコンが癌に効いたのなら, 当面, そのままの状態で摂取し続けたほうが良い」ということを教えて頂いた. 1990年頃のことである. その後の経過を考えてみると, 春ウコンの活性も[単一物質で起きてくる生理活性ではない]という証が出てきた. 回り道をすることなく成果が出て来つつあるので, 伏谷博士の指摘は的確で貴重な情報であった.
ウエルカム社の漢方薬についての研究も, 漢方薬から純粋な有機物を単離して調べた結果, これが持つ効能を再現できなかったのだと思う. 同社の研究成果が報道された時, 多くの研究者の間に, [漢方薬には見るべき活性はなさそうだ]との考え方が浸透して行った. そして, 酵素阻害剤の研究が加速されたのもこの頃からである.
漢方薬の効果を確かなものと認めて, 漢方薬から単離した有機物を組み合わせて生理活性を再現する研究に入っていれば, 結論は異なったものになっていたと考えている. そして, 新たな医薬の領域が創出され, 医薬・医学に対する考え方が変わっていた可能性が大きい(参照:4.1.3の2)③).
なお, 天然物から活性物質を単離して, 結晶化または油状化すると, 溶解性が全く変わってしまうものもある. 自然の状況にある化合物が徐々に溶離してくる時には溶液(血中など)に溶けだすものでも, 単離すると物性がかわり, 天然物と同じ溶解性を実現することは難しくなることもしばしば起こる. 自然のままが良いとされる理由は多々ありそうである.
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