ISという巨大な嘘
IS という巨大な嘘
前回までのブログ記事では、現地に足を踏み入れたジャーナリストや専門家諸賢に少し遠慮する気持もあって、IS の正体を、私が思っている通りに決めつけることをしませんでした。しかし、8月9日(日)の朝日新聞朝刊第一面の記事『米軍の空爆1年、勢い衰えぬIS』を読んで、私の考えを直裁に述べておくことにしました。まず朝日の記事を写します。:
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過激派組織「イスラム国」(IS)の勢力拡大が止まらない。イラク、シリア両国の支配地域をほぼ維持し、中東や北アフリカなどでは影響下にある組織によるテロが相次ぐ。米軍がイラク領内で対IS空爆を開始して8日で1年。計6千回以上の空爆でも弱体化に至らず、掃討作戦は長期戦を強いられている。
米軍主導の有志連合は昨年9月、シリア領内でも対IS空爆に踏み切った。米中央軍は7日、IS掃討について「有志連合が主導権を握っており、ISは形勢不利」と説明した。
だがAP通信によると、米情報機関はIS戦闘員の規模を2万~3万と推定し、空爆開始前から実質的に減っていない。ISは戦闘員を次々補給し、情報機関関係者は「戦略的な手詰まりの状態にある」と指摘する。戦闘員の多くは、ISが解釈するイスラム教に基づく「国家樹立」に共鳴した中東や欧州の若者。中東では民主化運動「アラブの春」で独裁政権が崩壊した後、政治の混迷で経済が停滞し、若年層の失業が深刻化している。欧州ではイスラム圏出身の移民2世が差別され、過激思想に傾くケースが散見される。
米国のIS掃討作戦は戦闘部隊を派遣せず、空爆と、ISと戦うシリア反体制派の訓練などにとどめる対症療法的なものだ。空爆の効果は限定的で、反体制派の訓練も小規模でうまくいっていない。(ワシントン=杉山正、イスタンブール=春日芳晃)
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ISの勢力拡大が止まらないのは当たり前です。米国とトルコがISの勢力を支持し利用しているからです。米国とトルコの当面の目標はシリアのアサド政権の打倒にあります。地上に米軍を送るかわりに米国はISを代理として使っているのです。トルコはISの戦力をサポートしてシリア北部のクルド人勢力を殲滅しようとして失敗しました。では、イラク国内での1年間、計6千回以上の空爆で何が行われたのか? 「ワシントンポストやニューヨークタイムズなどを見てごらん。地上のイラク軍兵士と電話で連絡しながら、米軍機は建物に隠れているISテロリストを空から狙い撃ちしている」と記者さんたちは言うかもしれませんが、WPもNYTも今は“大本営発表”の一部です。それよりも、例えば、大戦末期、九州で米空軍機が、しばしば、民間の列車を空から機関銃掃射したことを思い出しましょう。何十人、何百人の市民が空から惨殺されました。ISといえば、新品らしいトヨタのピックアップ・トラックを数十台連ねて意気揚々と進軍するIS兵士たちの映像がよく流されます。実際、ああしたデモは彼らが好んでやることのようです。もし米軍がIS撲滅に本気ならば、このバカ行列を見逃す筈がないではありませんか! たしかに、米軍機の空からの掃射爆撃によってISの若いリクルートたちの数十人、数百人が殺されているかもしれません。「イスラム国」劇という巨大な嘘の演劇舞台を本物にみせるための捨て石として彼らの死が使われているのであれば、これは無残の極みです。数千回に及ぶ飛行の主な目的は、戦争出費のレベル維持、イラク、シリアのインフラ破壊、ISに向けての武器弾薬食料の直接供給でしょう。これについては多数の直接証言があります。
この4月に、国連の安全保障委員会で「イスラク国」を国連の制裁(sanction)の対象とすることをロシアが提案した時、米欧やトルコが反対し否決されました。シリアでアサド政権とも戦い、「イスラク国」とも戦う反政府勢力など育つ筈がありませんが、ペンタゴンにとってはこれも戦争出費として落とせます。
いまISと本気で懸命に戦っているのはクルド人勢力とシリア国軍です。米国とそれに同調するいわゆる有志連合諸国が本当にISをやっつけたいのなら、クルド人勢力とシリア国軍こそ仲間に引き込むべきなのですが、そんなことには絶対になりません。このブログの前回の記事の終わりに、
「IS叩きの戦列に参加したはずのトルコは、ISに対する空爆はほんの言い訳程度で茶を濁し、クルド人に対してはイラクやシリア内の拠点に対する激しい空爆を実施し、トルコ国内では、危険分子と見做されるクルド人の大量逮捕投獄に踏み切りました。「ロジャバ革命」の全面的危機の到来です。」
と書きました。今度の米国とトルコの取引は、シリアとイラクのISを米空軍機が攻撃するのに便利な基地をトルコ東部に提供する代わりに、シリアとトルコの国境に接するシリア側の帯状の空の一部の制空権をトルコに任すことを米国が承認するというのが、その根幹です。国際法的に言えば、正式に宣戦布告もしていない他の独立国(シリア)の制空権がトルコと米国の間での取引の対象となるなんて言語道断ですが、これまでに何度も書きましたように、米国にとってもトルコ、イスラエルにしても、アサド政権の打倒こそが最大最重要の目標です。トルコが正式に対IS有志連合に参加するというのは、大きな嘘の一部です。特にトルコとしては、アサド政権崩壊の後、シリア北部の、現在「ロジャバ革命」が進行中の地帯をクルド人たちから取り上げ、トルコ“大帝国”の領土にしたいのでしょう。巧妙にISをプロキシー地上軍として操り、空は米国製の戦闘爆撃機で制圧する米国とトルコの猛攻の前に、アサドのシリアも、カダフィのリビアと同じ運命を辿るのではないかと、私は大いに心配しています。しかし、一縷の希望は持っています。下の記事を御覧ください。:
http://www.globalresearch.ca/why-syria-is-winning-advancing-towards-a-strategic-victory-that-will-transform-the-middle-east/5468277
私は、興味を持った人物がインタビューや講演で喋るところを耳で聞き、目で見ることを努めてやっています。それも一回限りではなく、出来れば何度も。そうしているうちに、米欧のマスメディアでは評判の悪い人物でも、次第に好感度、信頼感が増して行く場合があります。エリトリアのイサイアス・アフェウェルキ大統領、シリアのバッシャール・アル・アサド現大統領などがその例です。
「ロジャバ革命」は本物の「アラブの春」の稀な実例として始まりましたが、アサド政府はこの反政府運動を積極的に圧殺しようとせず、むしろ黙認の姿勢をとったと思われます。専門家は、これをアサドの対トルコ対策の一環と捉えるでしょうが、私は、別の見解を取ります。アサドは、多分、前々回に引用した「ロジャバ諸県の憲法」の趣旨に、少なくとも個人として、賛同したのではないか、というのが私の見解です。
以前に一度紹介したことがありますが、私がほぼ毎日訪れるLibya360゜というウェブサイトがあります。リビアという国の滅亡を悼む心を持つ人ならば、是非にも訪れていただきたいサイトです。その8月10日付の記事の一つに『クルド人抵抗運動を鼓舞した哲学(The Philosophy that inspired the Kurdish Resistance)』と題する読みやすい論考があります。通常、アナーキスト思想家として知られた米国の思想家ブクチン(Murray Bookchin)とクルド人抵抗運動の指導者オジャラン(Abdullah �・calan)の思想的関連を明快に解説した文章です。
https://libya360.wordpress.com/2015/08/10/the-philosophy-that-inspired-the-kurdish-resistance/
これを読めば、この四方八方暗闇ばかりの世界で、クルド人たちの「ロジャバ革命」が、私たちにとっても、一つの希望の灯火であることが分かります。ISという巨大な嘘を操る巨悪によってこの灯火が吹き消されないように、私たちも闘わなければなりません。次回から上記の論考の翻訳を始めます。
藤永 茂 (2015年8月12日)
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過激派組織「イスラム国」(IS)の勢力拡大が止まらない。イラク、シリア両国の支配地域をほぼ維持し、中東や北アフリカなどでは影響下にある組織によるテロが相次ぐ。米軍がイラク領内で対IS空爆を開始して8日で1年。計6千回以上の空爆でも弱体化に至らず、掃討作戦は長期戦を強いられている。
米軍主導の有志連合は昨年9月、シリア領内でも対IS空爆に踏み切った。米中央軍は7日、IS掃討について「有志連合が主導権を握っており、ISは形勢不利」と説明した。
だがAP通信によると、米情報機関はIS戦闘員の規模を2万~3万と推定し、空爆開始前から実質的に減っていない。ISは戦闘員を次々補給し、情報機関関係者は「戦略的な手詰まりの状態にある」と指摘する。戦闘員の多くは、ISが解釈するイスラム教に基づく「国家樹立」に共鳴した中東や欧州の若者。中東では民主化運動「アラブの春」で独裁政権が崩壊した後、政治の混迷で経済が停滞し、若年層の失業が深刻化している。欧州ではイスラム圏出身の移民2世が差別され、過激思想に傾くケースが散見される。
米国のIS掃討作戦は戦闘部隊を派遣せず、空爆と、ISと戦うシリア反体制派の訓練などにとどめる対症療法的なものだ。空爆の効果は限定的で、反体制派の訓練も小規模でうまくいっていない。(ワシントン=杉山正、イスタンブール=春日芳晃)
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ISの勢力拡大が止まらないのは当たり前です。米国とトルコがISの勢力を支持し利用しているからです。米国とトルコの当面の目標はシリアのアサド政権の打倒にあります。地上に米軍を送るかわりに米国はISを代理として使っているのです。トルコはISの戦力をサポートしてシリア北部のクルド人勢力を殲滅しようとして失敗しました。では、イラク国内での1年間、計6千回以上の空爆で何が行われたのか? 「ワシントンポストやニューヨークタイムズなどを見てごらん。地上のイラク軍兵士と電話で連絡しながら、米軍機は建物に隠れているISテロリストを空から狙い撃ちしている」と記者さんたちは言うかもしれませんが、WPもNYTも今は“大本営発表”の一部です。それよりも、例えば、大戦末期、九州で米空軍機が、しばしば、民間の列車を空から機関銃掃射したことを思い出しましょう。何十人、何百人の市民が空から惨殺されました。ISといえば、新品らしいトヨタのピックアップ・トラックを数十台連ねて意気揚々と進軍するIS兵士たちの映像がよく流されます。実際、ああしたデモは彼らが好んでやることのようです。もし米軍がIS撲滅に本気ならば、このバカ行列を見逃す筈がないではありませんか! たしかに、米軍機の空からの掃射爆撃によってISの若いリクルートたちの数十人、数百人が殺されているかもしれません。「イスラム国」劇という巨大な嘘の演劇舞台を本物にみせるための捨て石として彼らの死が使われているのであれば、これは無残の極みです。数千回に及ぶ飛行の主な目的は、戦争出費のレベル維持、イラク、シリアのインフラ破壊、ISに向けての武器弾薬食料の直接供給でしょう。これについては多数の直接証言があります。
この4月に、国連の安全保障委員会で「イスラク国」を国連の制裁(sanction)の対象とすることをロシアが提案した時、米欧やトルコが反対し否決されました。シリアでアサド政権とも戦い、「イスラク国」とも戦う反政府勢力など育つ筈がありませんが、ペンタゴンにとってはこれも戦争出費として落とせます。
いまISと本気で懸命に戦っているのはクルド人勢力とシリア国軍です。米国とそれに同調するいわゆる有志連合諸国が本当にISをやっつけたいのなら、クルド人勢力とシリア国軍こそ仲間に引き込むべきなのですが、そんなことには絶対になりません。このブログの前回の記事の終わりに、
「IS叩きの戦列に参加したはずのトルコは、ISに対する空爆はほんの言い訳程度で茶を濁し、クルド人に対してはイラクやシリア内の拠点に対する激しい空爆を実施し、トルコ国内では、危険分子と見做されるクルド人の大量逮捕投獄に踏み切りました。「ロジャバ革命」の全面的危機の到来です。」
と書きました。今度の米国とトルコの取引は、シリアとイラクのISを米空軍機が攻撃するのに便利な基地をトルコ東部に提供する代わりに、シリアとトルコの国境に接するシリア側の帯状の空の一部の制空権をトルコに任すことを米国が承認するというのが、その根幹です。国際法的に言えば、正式に宣戦布告もしていない他の独立国(シリア)の制空権がトルコと米国の間での取引の対象となるなんて言語道断ですが、これまでに何度も書きましたように、米国にとってもトルコ、イスラエルにしても、アサド政権の打倒こそが最大最重要の目標です。トルコが正式に対IS有志連合に参加するというのは、大きな嘘の一部です。特にトルコとしては、アサド政権崩壊の後、シリア北部の、現在「ロジャバ革命」が進行中の地帯をクルド人たちから取り上げ、トルコ“大帝国”の領土にしたいのでしょう。巧妙にISをプロキシー地上軍として操り、空は米国製の戦闘爆撃機で制圧する米国とトルコの猛攻の前に、アサドのシリアも、カダフィのリビアと同じ運命を辿るのではないかと、私は大いに心配しています。しかし、一縷の希望は持っています。下の記事を御覧ください。:
http://www.globalresearch.ca/why-syria-is-winning-advancing-towards-a-strategic-victory-that-will-transform-the-middle-east/5468277
私は、興味を持った人物がインタビューや講演で喋るところを耳で聞き、目で見ることを努めてやっています。それも一回限りではなく、出来れば何度も。そうしているうちに、米欧のマスメディアでは評判の悪い人物でも、次第に好感度、信頼感が増して行く場合があります。エリトリアのイサイアス・アフェウェルキ大統領、シリアのバッシャール・アル・アサド現大統領などがその例です。
「ロジャバ革命」は本物の「アラブの春」の稀な実例として始まりましたが、アサド政府はこの反政府運動を積極的に圧殺しようとせず、むしろ黙認の姿勢をとったと思われます。専門家は、これをアサドの対トルコ対策の一環と捉えるでしょうが、私は、別の見解を取ります。アサドは、多分、前々回に引用した「ロジャバ諸県の憲法」の趣旨に、少なくとも個人として、賛同したのではないか、というのが私の見解です。
以前に一度紹介したことがありますが、私がほぼ毎日訪れるLibya360゜というウェブサイトがあります。リビアという国の滅亡を悼む心を持つ人ならば、是非にも訪れていただきたいサイトです。その8月10日付の記事の一つに『クルド人抵抗運動を鼓舞した哲学(The Philosophy that inspired the Kurdish Resistance)』と題する読みやすい論考があります。通常、アナーキスト思想家として知られた米国の思想家ブクチン(Murray Bookchin)とクルド人抵抗運動の指導者オジャラン(Abdullah �・calan)の思想的関連を明快に解説した文章です。
https://libya360.wordpress.com/2015/08/10/the-philosophy-that-inspired-the-kurdish-resistance/
これを読めば、この四方八方暗闇ばかりの世界で、クルド人たちの「ロジャバ革命」が、私たちにとっても、一つの希望の灯火であることが分かります。ISという巨大な嘘を操る巨悪によってこの灯火が吹き消されないように、私たちも闘わなければなりません。次回から上記の論考の翻訳を始めます。
藤永 茂 (2015年8月12日)
以上は「私の闇の奥」より
このような見方の人がだんだん増えてきています。嘘はだんだんばれてくるのです。日本の安倍政権は嘘の方に味方しています。類は類を呼ぶのです。 安倍政権は安保法制を不正義のために使用しようとしているのです。 以上
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