合意のための原発論その4、遺伝子の修復期間
2015年05月13日
合意のための原発論その4 遺伝子の修復期間
日本の社会だけの話では、混乱して合意に至らない可能性もあるので、ちょっとここで国際的な議論をみたいと思います。
日本に比べてフランスを除くヨーロッパ、アメリカの人は原発に対する嫌悪感が高いのですが、その理由は、
1) 社会が成熟していて、危険なものを排斥しようとする、
2) 被曝の影響が科学的に分かっていないので、原発以外の発電で進んだ方が良いと考えている、
という二つがあるからです。たとえば1年1ミリはおよそ交通事故死と同じぐらいの危険度ですが、ヨーロッパのような成熟した社会では、食品安全、医療被曝などを含めて「できるだけ安全な生活」という意識が強いので、自動車は特に重要で、代わりのものがないので仕方がありませんが、発電は原発以外の方法があるのだからという考えが支配的です。
もう一つ、大きな不安があります。それは表紙の図に示した「国際的に認められている被曝の影響」です。このグラフは「事故の頻度が低ければ、被曝は多くても大丈夫」というもので、たとえば1万年に一度ぐらいなら10ミリシーベルトまで良いし、10万年に一度なら100ミリシーベルトまでの被曝が許されるということを示しています。
これは放射線の被曝の危険を示す基本的なグラフの一つで、国際会議などでは「普通のこと」として使われているのですが、なぜ、事故の頻度が低ければ被曝は大きくても我慢ができるのかというと、ある集団に対して被曝による遺伝子の損傷が回復するのに時間がかかるとされているからです。
たとえば、ある集団が10ミリシーベルトの被曝を受けると、その集団がもつ遺伝子の損傷が回復するのに1万年かかるので、次の被曝まで1万年の間は被曝ができないというわけです。東電福島で事故が起こった時、100ミリシーベルトまで大丈夫という考えが出されましたが、もし東電福島の事故が10万年に一度しか起こらなければ、福島の人の遺伝子が回復するということを意味しています。
つまり、被曝が遺伝子に影響し、その影響が1万年ぐらいの世代にわたって影響を与えるというのが「国際的な普通の被曝の科学」であるということなのです。私も含めてこの地球上にいるすべての専門家でこのグラフを科学的に否定できる人はいません。まして日本の経済学者が「東電福島で死んだ人はいない」と言っても、20年後に出てくる遅発性がん、次世代に及ぼす影響、また1万年間の集団の遺伝子の修復などが分かるはずはありません。
私たちがこのグラフから学ぶのは、福島とその近県の人は東電福島の事故でかなりの被曝をしましたので、その周辺の原発は再開することはできないということです。たとえば九州の川内で原発を再開するときには、福島の人が川内付近に転勤したり、転居したりするのを規制しなければなりません。このことと憲法で保障する移動の自由との関係は法律の方に検討をお願いしなければならないでしょう。
そして、このグラフは原発の推進派、反対派のような「思想」ではありませんから、大事故を起こした日本政府や原子力関係者は日本人の遺伝子の修復時間と政策のマッチングが必要となります。国家は個人の健康や危険を支配する権限は与えられていないので、東電福島の被曝と被曝した人の子孫(遺伝子損傷)の健康などにかんして考え方と政策を具体的に示すことが必要です。
また被曝と健康にまだ大きな課題が残っているということは、「科学的にどの程度が安全か」というのは当面、明らかにならず、どうしても「いい加減だが合意」を求めなければならないということもわかります。
(平成27年5月12日)
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