日銀が露呈した「金融政策の限界」という異常事態(3/3)
日銀が露呈した「金融政策の限界」という異常事態
これは理論上、金融政策と財政政策を融合し、同時に進める政策だ。政府が国債を発行し、日銀はそれを引き受ける。同時に、国債と引き換えに、新しく刷ったお札(通貨)を政府に渡す。これで無制限な通貨供給が可能になる。この時、国債の発行者(政府)=保有者(日銀)であるから、実質的に政府債務残高は増えない。
このような政策が進むと、政府が対価を求めず国民に現金などを給付する(ばらまく)ことへの期待が、一時的に景気の高揚感をもたらすかもしれない。しかし紙幣の乱発は悪性インフレのリスクを高める。
もっとも、デフレ環境下にあるわが国で、すぐに高率のインフレ=ハイパーインフレが進行するとは言いづらい。ただ、インフレはある時に急上昇することがあり、コントロールが難しい。
そればかりか、いったん財政ファイナンスが進むと、止めるのは困難だ。財政ファイナンスで景気支援や軍備調達を進めた高橋是清は、財政の緊縮を進めようとした結果、軍部の怒りを買い2・26事件で暗殺された。また、最終的に国の借金を返済するのは国民だ。つまり、際限ない金融緩和は国民の幸福感を低下させることにもなりかねない。
強弁を続け市場の虚を突こうとする日銀を
市場参加者は警戒している
そのような際限なき金融緩和のリスクを考えると、9月の会合での検証は金融政策を修正するチャンスだ。日銀はサプライズ重視の金融政策の限界を認めるべきだ。そして、強弁を排し、本音ベースでのコミュニケーションを進めて市場との信頼関係を回復すべきだ。
2013年4月の量的・質的金融緩和は、2年を念頭に2%の物価を達成する、“短期決戦型”の金融政策だ。2014年の消費増税が景況感を悪化させ始めると、日銀は“サプライズ演出”をも重視した。2014年10月の追加緩和、2016年1月のマイナス金利導入は、投資家を驚かせて半ば強制的に金利低下、円安の圧力を高めようとした。これは、機能が停滞した筋肉に電気ショックを与えて無理やり動かそうとすることに似ている。
短期決戦とサプライズ重視の金融政策をもってしても、わが国の需給ギャップはプラスには転じていない。足許では物価の基調が下ぶれている。この中、市場は政策の限界を懸念している。一方、黒田総裁は「追加緩和に限界なし」と依然、強気だ。
そして、強弁を続け、市場の虚を突こうとする日銀を、市場参加者は警戒している。強弁が発せられるほど、市場の警戒心は高まり中銀への信頼は低下するだろう。信頼回復を選択するかは日銀の判断次第だ。日銀に対する市場の信頼がさらに弱まれば、際限なき金融緩和が経済を壊す恐れもある。
すでに、債券ディーラー、ファンドマネージャーらは日銀が景気を支えるよりも、期待を裏切りボラティリティーを掻き立てる存在になりつつあるとみなし始めた。この状況は主要国の中でも例がない。日銀は市場を圧迫するほどの行き過ぎた金融政策を進めてしまった。その修正は、異常な事態が正常に戻ることを意味する。
今なら修正は可能だ。そして、それは必要だ。日銀は、短期決戦とサプライズ重視の政策スタイルを改めて市場との信頼関係を回復するか、際限なき金融緩和に踏み込み出口を閉ざすかの分岐点に立っている。日銀が原点に立ち返り、金融政策の役割への期待を考え直すべきだ。それができるかどうかが、今後の経済を大きく左右するだろう。
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