中東和平に着手するロシア
中東和平に着手するロシア
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プーチンのロシアが、イスラエルとパレスチナを仲裁する中東和平に首を突っ
込み始めた。米欧が手掛けてきたものの頓挫している和平交渉を、ロシアが引き
取って進めようとしている。8月21日「イスラエルのネタニヤフ首相と、パレ
スチナ自治政府のアッバース大統領の直接交渉をモスクワでやりたいと、プーチ
ンが連絡してきた」と、エジプトのシシ大統領が発表した。ネタニヤフもアッバ
ースも、ロシアの仲裁を歓迎している。
http://sputniknews.com/politics/20160821/1044498777/russia-host-israel-palestine.html
Moscow Ready to Host Direct Talks Between Abbas, Netanyahu
http://www.frontpagemag.com/fpm/263953/war-and-peace-putins-middle-east-p-david-hornik
WAR AND PEACE IN PUTIN'S MIDDLE EAST
プーチンがモスクワ交渉をいつ開くのか明らかにされていないが、シシがロシ
ア主導の中東和平計画を発表した直後、米大統領選挙の結果が出た直後の11月
11日に、ロシアのメドベージェフ首相がパレスチナを訪問する予定をロシア政
府が発表した。メドベージェフの訪問は、モスクワでの中東和平交渉の準備のた
めだろうから、モスクワ交渉は、次期米大統領が決まった後の11−12月に予
定されていると考えられる。
http://sputniknews.com/world/20160822/1044517910/palestine-russia-medvedev.html
Palestine Expects Russian Prime Minister's Visit on November 11
中東和平の仲裁役はかつて米国だったが、オバマ政権は2期目になってネタニ
ヤフとの関係が悪化している。イスラエルの協力が得られなくなり、米国主導の
中東和平は頓挫している。今年に入り、米国の代わりにフランスやEUが仲裁役
を買って出て、5−6月からフランス立案の和平案を進めようとしたが、これも
イスラエルの協力が得られず破綻している(エジプトやサウジは、欧米と協調し
てイスラエルとの交渉を進めている)。
http://www.presstv.ir/Detail/2016/06/02/468551/Israeli-PM-Netanyahu-Palestine-peace-talks-France
Netanyahu steps up opposition to French ‘peace’ initiative
http://www.haaretz.com/misc/article-print-page//.premium-1.724640
French FM to Netanyahu: I know you're against peace initiative, but train has left the station
米欧とくにEUは、イスラエルが、将来のパレスチナ国家の領土になるはずの
ヨルダン川西岸地域で、パレスチナ人を追い出してユダヤ人用住宅(入植地)を
作っているのを批判し、やめさせようとしている。極右の入植者組織に牛耳られ
ているネタニヤフ政権は、入植地拡大でイスラエルを非難する欧米が中東和平の
仲裁役をやることを好まない。だから欧米主導の和平は進まない。ロシアが仲裁
役になるプーチンの申し出は、欧米主導の和平策の破綻の上に出てきている。
http://www.haaretz.com/misc/article-print-page//.premium-1.736748
Israel lays groundwork for possible settlement expansion southeast of Jerusalem
http://tanakanews.com/160308israel.htm
西岸を併合するイスラエル
▼敵対扇動の米英覇権の失敗の末に
ロシアは以前から、中東和平の主導役として米国が組織した「カルテット」
(米露EU国連)の一員である。イスラエルのユダヤ国民500万人のうち
100万人は、旧ソ連から移民したロシア語を使う人々だ。イスラエルは建国後
の20年間、社会主義を標榜し、ソ連と親密だった。ロシアは安保理の常任理事国
でもあるため、カルテットに入っている。だがこれまで、ロシアが表立って中東
和平を主導したことはなかった。パレスチナ問題は、大英帝国の中東支配の中で
作られた謀略的な問題であり、70年以降は米国のユダヤ支配の暗闘の絡みで、
これまた謀略的に問題解決が推進(するふりをして阻止)されている。パレスチ
ナ人はソ連の社会主義につながる左翼が多かったものの、パレスチナ和平は英米
の謀略問題なので、ソ連やロシアは首を突っ込まなかった。
http://tanakanews.com/f0622israel.htm
イスラエルとロスチャイルドの百年戦争
そのロシアのプーチンが今回、中東和平に首を突っ込むことにしたのは、昨秋
のロシア軍のシリア進出以来、中東におけるロシアの軍事・政治面の影響力が急
拡大し、それに連動してイスラエルが自国の安全保障をこれまでの米国でなくロ
シアとの関係に頼る傾向を強めたからだ。シリア内戦は、露イランアサドの側が
勝ち、米サウジトルコに支援されたテロリスト(ISとヌスラ)の敗北が確定し
つつある。6−7月には、エルドアンのトルコが(やらせ)クーデターをはさみ、
米ISヌスラ(軍産NATO)を見捨ててロシア側に劇的に寝返り、中東での
ロシアの立場はますます強くなった。
http://tanakanews.com/160704turkey.php
欧米からロシアに寝返るトルコ
イスラエルにとって敵もしくは味方として重要な、イラン、シリア、レバノン、
トルコ、イラク、エジプト、ヨルダンといった国々のすべてが、今やロシアと
親密な関係を持っている。イスラエルは、ロシアの仲裁を得ることで、これまで
脅威・仇敵だったイランやレバノン(ヒズボラ)、シリアとの敵対を緩和し、自
国の安全を強化できるようになった(従来は、米国がイランやヒズボラやシリア
を敵視していたので、イスラエルもそれらを敵視し続ける必要があった)。イス
ラエルが、イラン、シリア、ヒズボラ、イラクとの敵対を解くに際して不可欠な
のが、パレスチナ問題の解決もしくは好転だ。パレスチナ人がイスラエルにひど
い目に合わされている限り、イラン、シリア、ヒズボラ、イラクなどイスラム諸
国のほとんどは、イスラエルと和解するわけにいかない。
http://tanakanews.com/160316syria.php
中東を多極化するロシア
http://www.jordantimes.com/news/local/jordan-russia-seek-inclusive-solution%E2%80%99-syria-crisis
Jordan, Russia seek 'inclusive solution' to Syria crisis
イスラエルは、911以来、イスラム世界との敵対を扇動・恒久化する米国の
テロ戦争に自国を組み込み(もしくは911を機に米国をイスラムとの恒久対立
に引っ張りこみ)、「米イスラエル同盟がイスラム世界と戦う」構図を作り、米
国にイスラエルの安全を保証させる態勢を組んだ(戦後の英国が「英米同盟がソ
連と戦う」冷戦構造を作って自国の安全保障としたのを真似た感じだ)。911
以後、パレスチナ問題は「過激なパレスチナ人がイスラエルに対してテロを行う」
というテロ戦争の構図の中に歪曲して組み入れられ、イスラエルがパレスチナ人
をひどい目にあわせ、パレスチナ人や他のイスラム教徒がそれに怒ってイスラエ
ルを敵視するほど、イスラエルの傀儡と化した米政界で「米国はイスラエルを守
らねばならない」との主張が席巻し、米イスラエルのテロ戦争の同盟体が強化さ
れる構図だった。パレスチナ問題が解決から遠のくほど、米イスラエル同盟の
維持に都合が良かった。
http://tanakanews.com/151228war.php
国家と戦争、軍産イスラエル
http://www.israelnationalnews.com/News/News.aspx/216728
Egyptian president: Putin willing to host Netanyahu and Abbas
しかし、米国のテロ戦争は、やり過ぎや稚拙な策の(意図的な?)繰り返しの
末に、決定的に失敗した。米国は、シリアやイラクを露イランに任せ、イスラエ
ルを残して中東から撤退する方向だ。米国の後ろ盾が失われつつある中、これま
でイスラエル自身が扇動してきたイスラム世界からの敵視は、イスラエルにとっ
て「対米同盟を強化する良い策」から「自国を危険にする悪い策」に変質してい
る。イスラエルは、イスラム世界との関係を「敵対」から「協調」に急いで転換
する必要に迫られている。最も有効な転換策は、中東での影響力を急拡大するロ
シアとの関係を強化し、ロシアに頼んでイスラム側との敵対を緩和することだ。
敵対の緩和に必要不可欠なのが中東和平、パレスチナ問題の解決である。プーチ
ンは、ネタニヤフに頼まれてモスクワでの中東和平をやる感じだ。
http://tanakanews.com/141121israel.php
イスラエルがロシアに頼る?
▼ネタニヤフがプーチンに花を持たせる?
これまで中東和平は、米欧が手がけて頓挫し続けてきた。ロシアがやったから
といって急にうまくいくのか?、という疑問が湧く。実のところ、この疑問は、
問題の立て方が間違っている。中東和平が頓挫し続ける理由は、すでに述べたよ
うに、911以降、米国とイスラエルの両方が、イスラム世界の怒りを扇動する
策として、和平の頓挫を望んできたからだ。中東和平が最後に進展したのは911
前の98年のワイリバー合意だった。その後のテロ戦争下では、中東和平が進展
しなくて当然だった。
ネタニヤフがプーチンに頼んで再開してもらう今後の中東和平交渉は、これま
での米主導のものと違い、うまくいかせるために行われる。以前の和平交渉は、
イスラエルが譲歩するふりをして新案を出すが、その細部にパレスチナ人が拒否
する項目を入れておき「せっかくイスラエルが譲歩したのにパレスチナが拒否し
た」と糾弾する構図が繰り返されたが、今後の交渉はそうでなく、イスラエルが
最小限の譲歩でパレスチナ人が満足する構図を作ろうとし、ネタニヤフは交渉を
成功させてプーチンを立てようとするだろう。
http://www.al-monitor.com/pulse/originals/2016/08/israel-china-rapprochement-putin-netanyahu-russia-bds.html
Why Netanyahu's 'Asian option' is raising eyebrows in Israel
プーチンが中東和平に乗り出す理由は「イスラエルに恩を売る」ことに加えて
「欧米が延々と失敗し続けた中東和平をプーチンが短期間に成功させ、世界を驚
嘆させ、ロシアの国際信用を引き上げる」ことがある。ロシアに頼って自国の長
期的な安全を確保したいネタニヤフは、ロシア主導の新たな中東和平を成功させ
てプーチンに花を持たせる何らかの策をすでに考えているのでないか。
今後のロシア主導の中東和平の「成功」は、米国がどう反応・対応するかによ
って変わってくる。11月8日の大統領選挙で、対露協調による中東安定を提唱
するトランプが勝てば、米国は露主導の中東和平を積極的に評価・協力し、米露
協調で和平を進めることも視野に入る。だが反露・軍産系のクリントンが勝つと、
米国は露主導の中東和平を評価せず、けなすか無視する態度をとる(イスラエル
が賛成しているので表立った反対や妨害はしない)。クリントン傘下だと、米マ
スコミは露主導の中東和平を「成功」と書きたがらなくなる。次の米大統領が
誰になるかわかってから、メドベージェフがパレスチナを訪問するのは、このよ
うな背景があるからだろう。
http://tanakanews.com/160511trump.htm
トランプ台頭と軍産イスラエル瓦解
▼プーチンのサウジ取り込み策との関係
ロシアが中東和平を始めることを最初に発表したのは、ロシア政府でもイスラ
エルでもなく、エジプトのシシ大統領だった。この奇妙な展開は、私が見るとこ
ろ、プーチンによる「サウジ誘い出し策」である。シシは、サウジ王政の資金援
助でエジプトを回している。シシはサウジの名代として中東和平に関与し、サウ
ジが作った中東和平の「アラブ仲裁案」を推進し、パレスチナ自治政府を動かし、
最近ではイスラエルとの和解を加速している。プーチンは今後の中東和平におい
てシシを重用し、サウジ和平案を尊重する姿勢を見せ、サウジがロシアと協調
して中東和平を解決する構図をとろうとするのでないか、と私は推測している。
http://www.huffingtonpost.com/raghida-dergham/egyptian-national-securit_b_11054186.html
Egyptian National Security at the Heart of Rapprochement with Israel
http://www.jpost.com/Arab-Israeli-Conflict/Egyptian-FM-sparks-uproar-by-saying-Israel-not-guilty-of-terrorism-464729
Egyptian FM sparks uproar by saying Israel not guilty of 'terrorism'
サウジアラビアとその子分であるペルシャ湾岸諸国(GCC)は、石油ガスな
ど経済の分野で、ロシアと比較的良い関係を維持している。サウジとロシアは敵
対していない。だが、シリア内戦で、ロシアは勝ち組、サウジGCCは負け組に
入り、対立関係になってしまっている。シリア内戦でのロシアの盟友であるイラ
ンやシリア(アサド)は、サウジと敵対関係にある。ロシアは、中東の4つの地
域大国のうち、トルコ、イラン、イスラエルと良い関係を築いたが、サウジとだ
けはシリア内戦の敵味方関係が邪魔している。プーチンは、この状態を乗り越え
てサウジと戦略関係を強化し、サウジを対米従属から引き剥がしたいはずだ。ロ
シアがサウジと関係を強化したければ、シリア内戦とは別の所でやる必要がある。
その場所が、パレスチナの中東和平でないかと私は分析している。サウジ王政は
最近、イスラエル側との接触を増やしている。
http://www.timesofisrael.com/in-israel-ex-saudi-general-says-palestinian-state-would-curb-iran-aggression/
In Israel, ex-Saudi general says Palestinian state would curb Iran aggression
http://www.presstv.ir/Detail/2016/08/11/479596/Israelis-visit-Saudi-Arabia-Persian-Gulf-states-Jordan-Egypt
More Israelis visiting Saudi Arabia, Persian Gulf Arab states
サウジは従来、軍事面で米国に頼り切りだが、それがゆえに、サウジは中東で
の敵対を煽る米国のテロ戦争の戦略に巻き込まれ、イランとの対立から脱却でき
ず、もともとサウジ系の身内勢力だったアルカイダからもテロの反逆を起こされ
ている。イエメンの戦争も、もともと米国がサウジを巻き込んで起こしたものだ。
サウジは、敵が多いので米国に頼っているのでなく、米国に頼ったので敵が多く
なった。中東での米国の影響力が減退するなか、サウジは上手に米国依存を脱却
する必要に迫られている。プーチンのロシアは、サウジの対米脱却を手助けし、
中東での影響力を拡大しようとしているように見える。
http://tanakanews.com/150331yemen.php
米国に相談せずイエメンを空爆したサウジ
中東では、スンニ対シーア、アラブ対イスラエル、シリアやリビアの内戦、ク
ルド独立問題など、解決困難に見える対立構造がいくつもある。しかし、対立の
多くは、大英帝国時代から近年のテロ戦争まで延々と続いた英米の中東分断支配
戦略によって扇動され、解決不能な状態まで押し上げられている。米国が中東の
覇権国である限り、対立を解く努力をするふりをして悪化させる状況が続き、対
立が解けないが、米国が退却し、対立扇動戦略を持たないロシアの影響力が拡大
すると、対立が解消されていく可能性がある。ロシアも中東を分断支配したがる
のではとの懸念があるが、ロシアの中東戦略の要であるシリア内戦を見ると、ロ
シアは敵対を解消し、事態の安定化を目指していることがわかる(クルド人に関
しては、できるだけ独立させないことが中東の安定維持になる)。
http://tanakanews.com/160815turkey.php
ロシア・トルコ・イラン同盟の形成
http://tanakanews.com/151221syria.htm
シリアをロシアに任せる米国
パレスチナ問題、中東和平の最大の障害は、アラブとイスラエルの対立でない。
イスラエルの上層部で、和平を進めようとする中道派勢力よりも、西岸でパレス
チナ人の土地を奪って入植地を拡大して和平を阻止する極右の入植者勢力が強い
力を持っていることが、最大の障害だ。ロシアが中東和平を手がけても、入植地
の拡大を止めるのは困難だ。入植地が拡大されている限り、和平(パレスチナ
国家創設)も、イスラエルとイスラム諸国の和解も実現しない。ただ、和平や和
解が実現しなくても、敵対を低下させることはできる。すでに最近、アラブ諸国
のイスラエル敵視が減っている。
http://tanakanews.com/111011israel.php
入植地を撤去できないイスラエル
http://tanakanews.com/f0705israel.htm
世界を揺るがすイスラエル入植者
加えて、米国の中東覇権が低下すると、入植者の政治力も低下する。イスラエ
ルの入植者の中で極右の政治活動家たちの多くは、70年代前後に米国からイス
ラエルに移民してきた二重国籍の「米ユダヤ左翼くずれ」で、米国の軍産や好戦
派のユダヤ勢力とつながりがあり、米国からの資金で動いている。入植者の中に
は、住宅が格安で手に入るので参加しているロシア系なども多いが、政治活動と
してみると、中東和平を妨害する入植者組織は、米軍産の代理勢力である。米国
の覇権が強かった従来は、彼らがイスラエル政界を牛耳り、ネタニヤフも彼らの
言いなりだった。しかし今後、米国が中東から撤退する傾向が強まると、彼らの
政治力の減退が予測される。
この記事はウェブサイトにも載せました。
http://tanakanews.com/160830palestin.htm
以上は「田中宇氏」ブログより
戦争屋の米国よりロシアによる中東和平はうまくゆくように思います。またそうなってほしいものです。 以上
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