揺れる米欧同盟とロシア敵視
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米国のトランプ大統領が、ロシアとウクライナを仲裁し、ウクライナ紛争を終
わらせようとしている。ウクライナのポロシェンコ大統領が、6月19−20日
あたりにホワイトハウスを訪問してトランプと会う。その後、7月7−8日にド
イツのハンブルグで行われるG20サミットにトランプとプーチンが出席し、サ
ミットの傍らで2人の初の米露首脳会談が行われると予測されている。
http://www.rferl.org/a/poroshenko-trump-meeting-washington-ukraine-russia/28553010.html
Sources: Ukraine's Poroshenko To Meet Trump
In Washington
http://en.interfax.com.ua/news/general/428950.html
Ukrainian Foreign Ministry confirms
Poroshenko-Trump meeting, doesn't give specific dates
ウクライナ紛争は、2014年に米国がウクライナの極右勢力などを扇動して
親露政権を転覆させ、極右政権ができたことで始まっている。ウクライナ東部の
ドンバス地方(ドネツク、ルガンスク)のロシア系住民が、それまで享受してい
た自治を極右政権を否定されたため、内戦を経て事実上の分離独立をしたことと、
極右政権がクリミア半島のロシア軍基地の使用を禁じたため、クリミアの住民の
大半を占めるロシア系が住民投票でロシアへの併合を決め、それに基づいてロシ
アがクリミアを併合したことの2点が、ウクライナ紛争の内容だ。
http://tanakanews.com/140305ukraine.php
危うい米国のウクライナ地政学火遊び
クリミアはもともとロシア領で、ロシアもウクライナもソ連に属していた時代
に、ウクライナ人のフルシチョフが民族撹乱策の一環で、ロシアからウクライナ
に帰属替えした。ソ連崩壊後、ロシアは、ウクライナが親露的で、クリミアのセ
バストポリ軍港をロシアに貸与し続けることを条件に、クリミアをウクライナ領
のままにすることを認めた。米国の扇動でウクライナが反露政権に転じ、セヴァ
ストポリを貸さないと言い始めたのだから、ロシアがクリミアの住民投票の結果
をふまえてクリミアをロシアに併合したのは「正当防衛」だった。クリミア併合
を理由にロシアを制裁するのは、イラクやイランなどに対してやってきた、米国
が得意とする「濡れ衣敵視戦略」である。米国の対露制裁は国際法違反であるが、
安全保障を米国に依存するNATOなどの親米諸国は、米国との関係を重視して、
濡れ衣と知りつつ対露制裁(やイラク侵攻やイラン制裁)を支持してきた。
http://www.globalresearch.ca/donetsk-peoples-republic-story-untold-by-western-media/5594713
Donetsk People’s Republic - Story Untold by
Western Media
2015年に、ドイツとフランスがロシアとウクライナを仲裁し、この4か国
で、ドンバスでのウクライナ内戦を終わらせる道筋として「ミンスク合意(ミン
スク2)」を締結している。この合意は、ドンバスのウクライナからの分離独立
でなく、ドンバスがウクライナ国家の一部としてとどまり、ドンバスを含むウク
ライナで総選挙を経て新政権を選出し、その新政権がドンバスに自治を付与する
新憲法を制定する筋書きになっていた。だがその後の2年間で、ドンバスはウク
ライナから事実上分離独立した状態になっており、ウクライナ政府は今年、ドン
バスとの境界線を封鎖し、ドンバスとの経済関係を断絶している。ミンスク合意
は、すでに履行不能なものになっている。ロシアは、表向きまだミンスク合意を
支持しているが、実はもう支持していない。ロシアは、2地域のロシア系住民の
民意を尊重し、ドンバスやクリミアがウクライナに戻ることを求めない。
http://tanakanews.com/170426ukraine.php
ウクライナ東部を事実上併合するロシア
6月14日、対露制裁の強化を検討する米議会の公聴会でティラーソン国務長
官が証言し、米国がロシアとウクライナを仲裁する意欲があること、仲裁すると
したらミンスク合意の枠組みにとらわれずにやるつもりであることを示唆した。
すでに述べたように、ウクライナ紛争の解決は、ミンスク合意を外して行った方
が良いのだから、ティラーソンの発言は合理性がある。トランプがウクライナと
ロシアの大統領に相次いで会うこと、米国務長官がウクライナ紛争を仲裁したい
と証言していることから、トランプは今後、ウクライナ紛争を仲裁していくと予
測される。
http://www.bloomberg.com/news/articles/2017-06-14/tillerson-signals-easing-policy-toward-russia-on-ukraine-accord
Tillerson Signals Easing Policy Toward
Russia on Ukraine Accord
http://www.reuters.com/article/us-usa-diplomacy-tillerson-idUSKBN19528J
U.S. doesn't want to be 'handcuffed' to
Ukraine agreement
米国はこれまでウクライナ紛争を仲裁しておらず、ミンスク合意にも参加して
いない。オバマ政権の米国は、仲裁役でなく逆に、ウクライナの極右をそそのか
して紛争を引き起こした黒幕だった。トランプがウクライナ紛争を仲裁すること
は、米国の新たな動きとなる。
http://gulfnews.com/opinion/thinkers/inside-the-trump-administration-s-plans-to-restart-the-ukraine-peace-process-1.2035680
Inside the Trump administration’s plans to
restart the Ukraine peace process
仲裁の成否は、ウクライナが、ドンバスとクリミアが自国領として戻ってこな
いことを黙認するかどうかにかかっている。トランプは、ポロシェンコに対し、
ドンバスとクリミアの領有権を強く主張するのをやめたら、米国とEUがウクラ
イナに経済支援すると提案する可能性がある。ポロシェンコが、国内のナショナ
リスト勢力を抑止できるなら、トランプの提案を受け入れる可能性が出てくる。
その場合、ウクライナ政府が2地域の分離状態を非公式に黙認し、ロシアが静か
に2地域の住民をロシア国民として扱い、2地域を経済支援し続ける「沿ドニエ
ストル方式」が推進される。従来のように、ウクライナが2地域の分離を絶対認
めないままだと、仲裁は失敗する。
▼ウクライナ仲裁に動き出すトランプを妨害する米議会のロシア追加制裁案
NATOや軍産複合体(諜報界、マスコミ、民主党主流派)は、ロシア敵視
(米欧とロシアの対立激化)が、自分たちの影響力や財政力を保持するために不
可欠な戦略となっている。14年にオバマ政権内の軍産がウクライナの政権を転
覆して内戦を起こし、ドンバスとクリミアの分離を誘発し、それを理由に米国や
NATO諸国がロシアを制裁した。それは、テロ戦争が失敗していく中で、ロシア
敵視を強めることで、NATOや軍産の力を維持する目的だったと考えられる。
トランプがウクライナ紛争の解決に成功したら、NATOや軍産の力が低下して
しまう。
http://tanakanews.com/140404NATO.php
NATO延命策としてのウクライナ危機
トランプが5月下旬の中東欧州外遊後、ウクライナ紛争をロシアの得になる形
で解決しようと動き出したのと同時期に、米諜報界やマスコミといった軍産が、
トランプ政権がロシアのスパイであるとか、ロシアがハッキングなどによって米
大統領選に介入してトランプを勝たせたとかいう、無根拠なスキャンダルを掻き
立て、議会は特別検察官を立てて捜査を開始した。米議会は、ハッキングとウク
ライナ紛争とアサド支援を理由に、ロシアへの制裁を強める議案を検討している。
すでに上院で圧倒的多数で可決され、下院が審議に入ろうとしている。
http://www.forbes.com/sites/kenrapoza/2017/06/15/what-the-russia-sanctions-upgrade-means-for-trump-and-ukraine/#694c98022783
What The Russia Sanctions Upgrade Means For
Trump And Ukraine
http://www.reuters.com/article/us-usa-trump-russia-q-a-idUSKBN18Y2YP
Q&A: What we know about U.S. probes of
Russian meddling in 2016 election
しかし、これらのスキャンダルも、濡れ衣に基づくものばかりだ。犯罪を構成
する要件がないので、トランプは弾劾されない。ハッキングはロシアの仕業でな
く、民主党事務局(事後に暗殺されたセス・リッチ)の内部犯行(リーク)だ。
トランプは、米国の上層部の一角を占める隠れ多極主義者の代理人であり、その
意味でニクソンやレーガンの後輩にあたる。同じく古株の代理人であるキッシン
ジャーが、北京やモスクワに足繁く行って、トランプと露中を取り持っているこ
とからも、それが感じられる。トランプがロシアのスパイなら、CFRやロック
フェラーもロシアのスパイだ(というより、話が逆で、プーチンが、CFRやロ
ックフェラーの代理人なのだが)。
http://tanakanews.com/170611trump.php
トランプの相場テコ入れ策
米議会が審議中のロシア追加制裁は、石油ガスや鉄道などロシアの基幹産業の
諸企業を制裁できる新条項がついている。だがこの新条項は、ロシア企業と合弁
している外国企業も制裁対象にしている。ドイツ、フランス、オランダ、オース
トリアの大手石油ガス会社は、ロシアのガス会社ガスプロムと合弁し、ロシアの
天然ガスをバルト海経由でウクライナを迂回して欧州に送る「ノルドストリーム2」
のパイプラインを建設している。米議会が審議中のロシア追加制裁法は、ドイツ
などEU4か国の石油ガス会社を制裁してしまう。ドイツやオーストリアの政府
は、ロシアを制裁すると言って欧州企業を制裁する米国のやり方に激怒し、対米
非難を強めている。欧州に、ロシアでなく米国からガスを買わせるための策略な
のだという指摘も出てきた。
http://www.zerohedge.com/news/2017-06-15/germany-austria-slam-us-sanctions-against-russia-warn-collapse-relations
Germany, Austria Slam US Sanctions Against
Russia, Warn Of Collapse In Relations
http://www.ft.com/content/27e28a44-51b0-11e7-a1f2-db19572361bb
Berlin hits back at US move to tighten
sanctions on Russia
トランプは5月下旬にNATOとG7のサミットに出て、西欧諸国がNATO
に対して十分な軍事負担をしていないと憤慨しまくり、米国が有事に欧州を防衛
する約束(NATO規約5条)への言及も拒否し、ドイツは自動車などを不当に
米国に大量輸出しているとドイツを批判した。ドイツのメルケル首相は、トラン
プが帰国した直後「欧州諸国は、もう安全保障の面で米国に頼れない。軍事的に
自立していくしかない。米国や(EU離脱する)英国は、もう信用できない」と
宣言した(その後撤回する趣旨の発言をして目くらまししたが)。トランプは、
NATOを潰し、英離脱によってドイツ主導の傾向を急速に強めるEUを対米自
立の方向に押しやっている。
http://www.rt.com/op-edge/391142-trump-russia-eu-great/
In Europe, Donald Trump is making Russia
great again
そして奇怪(もしくは笑)なことに、そのトランプを敵視する軍産傀儡の
マケイン上院議員らが主導する米議会が制定しつつある対露追加制裁策もまた、
欧州の石油ガス企業を制裁してしまうものに仕立てられ、ドイツなどを激怒させ
ている(マケインらは、好戦策を過激にやって失敗させる隠れ多極主義的なネオ
コン系だ)。
http://www.zerohedge.com/news/2017-06-16/must-not-happen-germany-threatens-us-retaliation-over-new-russia-sanctions
"That Must Not Happen": Germany
Threatens US With Retaliation Over New Russia Sanctions
フランスでマクロン政権ができた後、ドイツとフランスは、軍事統合の推進を
急いでいる。軍事行動の意志決定は国権の最重要部分なので、各国のナショナリ
ストを激高させぬよう手をつけず、代わりに、兵器の共同開発や軍事産業の統合、
軍事訓練の共同実施、装備の共有化など、兵站部門の軍事統合を先に進める。
独仏の統合をモデルに、独仏とEUの他の諸国との軍事統合を進めていく計画だ。
軍事統合に反対していた英国のEU離脱と、トランプのNATO軽視の姿勢が、
EUの軍事統合を加速している。
http://www.khaleejtimes.com/editorials-columns/europe-should-chart-a-new-course-without-the-us
Europe should chart a new course without
the US
独仏は、EUの軍事統合を、NATOと対立するのでなく、NATOを補完す
るものと位置づけているが、これは、米国が欧州の安全保障の面倒を見てくれる
間はNATO中心で行くが、米国のトランプ化(多極主義化)や弱体化が進んで
NATOが弱体化したら、自然にEU軍が中心になるシナリオなのだろう。
http://sputniknews.com/europe/201706101054516120-france-germany-defense-eu/
Berlin Stands for Closer Cooperation With
Paris in Defense Area - German MoD
http://www.cnbc.com/2017/06/07/eu-prepares-a-defense-union-that-could-alleviate-not-aggravate-trumps-concerns-on-nato.html
EU prepares a defense union that could
alleviate, not aggravate, Trump's concerns on NATO
ノルウェーはEUに入らない一方、NATOを強く支持する国の一つとして機
能してきた。だが、5月のトランプの欧州訪問後、ノルウェーのソルベルグ首相
は、米国が大きく変わってしまったと考え、メルケルが示した方向性を支持し、
安全保障を米国に依存するのをやめてEUの軍事統合に積極参加していきたいと
表明した。安上がりな対米依存のNATOが自国の安全を守れなくなりそうなの
で、次善の策としてEUの軍事統合に参加するのが良いと、他の北欧諸国も考え
る傾向だ。
http://sputniknews.com/military/201706011054183948-norway-eu-us-divorce/
Trouble in Paradise: Norway to 'Follow EU'
in Its 'Divorce' With US
http://euobserver.com/nordic/138131
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