本山よろず屋本舗さんのサイトより
http://motoyama.world.coocan.jp/
<転載開始>
 4月6日付けの『ヤスの備忘録』のヤスさんのメルマガで、米中貿易戦争の背景が語られていました。
       大変秀逸な記事だと思ったので、今回はそれを紹介したいと思います。

       事前準備として、最近の北朝鮮をめぐる情勢について解説します。
       去年、北朝鮮はさかんにミサイルを発射や核実験を行い、たびたび国連安保理が開かれ、制裁が決議されました。
       ある解説者は、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)氏は、世界中から避難を浴び制裁を受けても、けっして核開発を止めることはないだろうと言っていました。
       その理由ですが、イラクのフセイン大統領とリビアのカダフィ大佐の末路を見ているからだといいます。
       イラク戦争を行ったアメリカのブッシュ大統領は、悪の枢軸として、イラン、イラク、北朝鮮を指定しました。この中でイラクのフセイン政権は、米軍の直接武力介入により崩壊しました。フセイン大統領は逃亡しましたが、発見され裁判の後に処刑されました。
       またリビアは、アラブの春による混乱の中、北大西洋条約機構(NATO)に軍事介入され、カダフィ大佐は拘束された後、殺害されました。
       イラクもリビアも、どちらも核を持っていなかった為に、欧米による直接武力攻撃を受けて崩壊したと金正恩氏は理解しているはずである。
       それゆえ、世界からいかなる制裁や避難を受けようとも、北朝鮮が核開発を止めることはない、という解説です。

       しかし、今年に入り、事態は急変しています。
       北朝鮮は、ピタリと弾道ミサイルと核実験を止めました。そして4月末には朝鮮半島の南北首脳会談が予定され、5月には史上初のアメリカと北朝鮮による首脳会談が予定されています。
       上記の解説者が言っていることと、真反対の動きとなっています。

       その理由ですが、私はイラクのフセイン大統領とリビアのカダフィ大佐の背景と、北朝鮮の背景は違うからだと見ています。
       イラク戦争が起こる前、フセイン大統領は原油の決済を米ドルからユーロに替えました。リビアのカダフィ大佐は、原油の決済を金(キン)に裏付けられたディナール建てにすることを計画していました。
       どちらも、米ドルによる決済を否定したのです。

 日本が中東諸国から原油を買い付ける場合、円は受け取ってくれませんから、まず円で米ドルを買います。その米ドルで代金を払います。
       これは、原油だけに限りません。
       他国が日本の工業製品を買おうとしたら、その国の通貨を米ドルに交換します。その米ドルで日本の企業に代金を支払うのです。
       このように、あらゆる輸出入の決済を米ドルで行っています。
       それゆえ世界で貿易額が膨らめば膨らむほど、米ドルの需要が増します。輸入代金として受け取った米ドルを貯め込んでいると、その国の通貨は米ドルに対して高くなってしまいます。そうなると輸出に不利になるので、米ドルで米国債を買うことになります。
       これがアメリカが、膨大な借金をしても破綻しなかったカラクリといえます。
       アメリカは借金証書としての米国債をどんどん発行しても、世界で貿易の需要がある限り、米国債を買ってくれる国が登場してくれます。
       こうした米ドルの基軸通貨体制が維持されている限り、アメリカは安泰です。

       ところが、イラクのフセイン大統領とリビアのカダフィ大佐は、この米ドルの基軸通貨体制に反旗を翻したのです。これが欧米から直接の武力攻撃を受けた背景だといえます。

       北朝鮮は、原油を輸出していませんし、そもそも北朝鮮の経済力は世界から見ても微々たるものです。
       イラクやリビアとは、背景が全く違います。
       では、イラクやリビアのように米ドルの基軸通貨体制に反旗を翻す国はもう出てこないのでしょうか。
       こうしたことを前提として、ヤスさんのメルマガを読んでいただきたいと思います。

       今、アメリカのトランプ政権は、中国に対し貿易戦争を仕掛けています。


       ・・・<『ヤスの備忘録』のヤスさんのメルマガ(第479回)から抜粋開始>・・・

▼上海原油先物取引所と貿易戦争

それでは今回のメインテーマを書く。上海原油先物取引所の開設と高関税による貿易戦争との関係である。

      中国とアメリカの貿易戦争がエスカレートしている。トランプ政権が中国産の鉄鋼とアルミニウムに25%の高関税の適用を発表すると、中国政府はすぐさま豚肉やワインを中心に米国から輸入される128品目に対して最大25%の関税を導入した。中国は、自国の利益を守り、米国の追加関税による損失を埋めるための措置だとしている。

すると米政府は3日、知的財産権侵害を理由に通商法301条に基づき高関税を課す中国製品のリスト案を公表した。米消費者への影響を最小限にとどめようとしながらも、ハイテク分野を中心に約500億ドル(約5兆3300億円)相当の製品が対象にされた。

      3日に公表された知財制裁関税の対象リストには、中国が「中国製造2025(メイド・イン・チャイナ2025)」と名付けた戦略の下で支援する先端分野の製品が含まれている。

●貿易戦争の背後にあるもの

      このように、トランプによるアルミニウムと鉄鋼への高関税の適用が発表になってから、まずは中国とアメリカの間で懸念されていた高関税の報復の連鎖が始まる気配が濃厚になっている。

アメリカの高関税適用の動機は、後を立たない中国による知的財産権の侵害がある。この状況にしびれを切らしたアメリカが、高関税の導入に踏み切ったことが理由のひとつになっていることは間違いない。

だが、これがもっとも重要な理由かといえばそうではない。もし中国の知的財産権侵害が高関税導入の理由だとするなら、知的財産権の分野で中国が大幅に妥協し、これまでとは異なる強い姿勢で侵害を対処する方向が示された段階で、トランプ政権は高関税の導入を中止することだろう。

しかし、始まりつつある高関税の報復の連鎖を見ると、事態はそんなに単純なものではない。第476回の記事でも述べたように、軍事力ではロシアが優勢になっているとの懸念から、国防産業の基盤強化のため、アメリカ国内の製造業を再構築しなければならないという安全保障上の認識があることは間違いない。また、国防産業が海外の輸入製品に対する依存度が高いのは問題だとする懸念もある。こうした懸念の払拭に必要な処置として、今回の高関税の導入が行われた。

そうであれば、高関税の適用はアルミニウムや鉄鋼などの製品に限定されることはない。半導体などのITを含む幅広い分野に拡大される可能性が高い。今回発表された中国のハイテク製品の高関税は、こうした動きの一環だろう。

だが、アメリカによる高関税適用の背後には、これ以外にもうひとつ重要な背景が存在していると見た方がよい。それは、上海における人民元決済の原油先物取引所の運営開始である。

●上海石油先物取引

      3月26日、長いあいだ待たれていたドル建てではなく、人民元建ての石油先物取引が開始された。取引は上海先物取引所の一部分である上海国際エネルギー取引所で行われる。取引は「SC1809」と呼ばれる。取引価格だが、始値をバレルあたり416元(約66ドル)としている。

この取引には、中国や海外の投資家が参加できる。すでに150以上の国内ブローカー、また「中国海洋石油総公司」や「中国石油天然気集団公司」、さらに「中国石油化工総公司」の子会社のような国有石油会社が登録している。また、「JPモーガン」や「バンク・フィナンシャル」、「ストレーツ・フィナンシャル・サービシス」などの海外の金融機関、そして国内ブローカーの香港の子会社など、約10社の外国勢も取引登録をしている。

●ドル基軸通貨体制

この上海先物取引開始の目的は、価格を中国の製油業者が取引している原油に可能な限り近づけ、ドルをベースにした「WTI」や「ブレント」などの国際的な価格指標から支配力を奪い取ることにある。

      周知のように、アメリカの覇権の基礎になっているのは基軸通貨がドルであるという事実である。自由貿易で各国に開放した米国市場には世界のあらゆる地域から製品は輸出されてくるが、ドルが基軸通貨であるため代金はすべてドルで支払われる。

      一方各国は、自国通貨の上昇を嫌い、受け取った代金をドルのままアメリカ国内の市場に再投資せざるを得ない。ドルを自国の通貨に両替すると、その通貨価値は上昇し、輸出にとって極めて不利になるからだ。

ドルが基軸通貨であれば、ドルは自動的にアメリカに還流してくる。このシステムが存在している限り、米政府の財政赤字は国債の販売を通して補填されるので、覇権国としての経済力の基礎が築かれる。

●ペトロドルの合意

そして、ドルの基軸通貨制を支えているのは、ペトロドルの合意である。ニクソン政権最末期の1974年、変動相場制に移行したドルの価値を安定させるために、キッシンジャー国務長官はサウジアラビアと以下の3点で合意した。

      1.サウジアラビアが世界に販売する原油の決済通貨はドルを使用すること。

      2.代金として受け取ったドルは、アメリカのドル建て資産へと再投資すること。

      3.見返りに、アメリカはサウジアラビアに最先端の兵器を供与する。

ベトナム戦争の戦費負担、そしてオイルショックの影響でドルの価値は低落し、高いインフレに苦しんでいたアメリカにとってこの合意は、ドルの価値を安定させ、国内のインフラを抑止する効果が期待された。

それだけではない。石油はエネルギー源なので世界でもっとも重要な戦略物資である。そして、世界最大の産油国であるサウジアラビアの決済通貨がドルであることで、その他の商品の決済通貨も必然的にドルが選択される構造ができた。

●ドル基軸通貨体制のゆらぎ

      しかし、人民元建ての石油取引が始まるとこの状況は一変する可能性がある。

まず、人民元建ての原油先物取引が可能になると、アメリカの経済制裁下にあるロシアやイラン、さらに反米のベネズエラや、イランとの関係の強い原油輸出国は、人民元建てで世界最大の中国市場に向けて原油輸出が可能となる。

さらに、中国から人民元で受け取った輸出代金は、上海の市場で金地金で受け取ることもできることになっている。この結果、ドルの使用を回避したい国々は人民元決済を選択することで、ドルベースの金融システムに依存する必要性もなくなる。

この影響力は大きい。世界最大の石油輸入国である中国の決済通貨が人民元になるのだ。サウジアラビアをはじめ多くの国々は、石油を上海石油先物取引所で売り、この結果、ここの価格が世界の石油価格の基準となるに違いない。

そしてそれとともに、中国の旺盛な輸入が背景となり、他の商品にも人民元決済の波は拡大することは間違いないはずだ。そしてその結果、アメリカの覇権の基礎であるドルの基軸通貨体制も揺らいでくる。そして、国際秩序の基本的な形成者の位置に中国が就く可能性が高くなるだろう。

       ・・・<抜粋終了>・・・


 こうした事情で、私は上海石油先物取引が開設される3月26日に注目していました。
       しかし米ドルの明らかな下落は起きなかった上に、不思議なことに円高が進みました。
       日本のマスコミで、上海石油先物取引の開設が報道されたのも観た記憶がありません。

       これはアメリカにケンカを売ることになる上海石油先物取引の開設を、中国政府が自国のマスコミにも報道してほしくなかったという事情があるようです。
       中国政府は、アメリカにいきなりケンカを売るような行為を、できるだけ緩和したいと思っているようです。
       以下、さらに抜粋します。


       ・・・<『ヤスの備忘録』のヤスさんのメルマガ(第479回)から抜粋開始>・・・

●ひっそりと行われた先物取引

これは、現在の国際秩序を大きく変化させる事態である。ただごとではない。しかし、こうした状況に突然となるかといえばそうではない。国際的な基軸通貨を人民元にする動きは、中国政府の設定した比較的にゆっくりとしたペースで、それも水面下で進むようだ。

      今回の上海石油先物取引所も、大きな公式の発表もなくひっそりと行われた。日本の主要メディアでほとんど報道されていないのもこれが理由だろう。ロイターのような国際的なメディアでも、複数の中国の金融機関に取材してやっと明らかになったようだ。ということでは、これはほとんど発表されていないも同然だ。

また、上海石油取引(SC1809)でいきなり人民元が使われるのかといえば必ずしもそうではない。新華社の記事によると、上海先物市場では取引価格の表示は人民元であるものの、しばらくの間、決済通貨はドルになり、人民元ではないとしている。さらに、これからはドルのみならず、ユーロや円など他の通貨による決済も可能になるとしている。

そして人民元による決済だが、年内にも徐々に始まる見込みだとしている。すると、中国最大の石油の輸入先であるアフリカのアンゴラ、そしてロシアが人民元建てで石油を売る最初の国々になる見込みだ。

しかし、新華社によると、たとえ人民元建ての決済が可能になったとしても、すぐに取引量が一気に増えるとは考えにくいとしている。その理由は、人民元建て決済が行われるためには、これが国際的な石油会社やトレーダーたちの支持が必要になるからである。

      石油の決済通貨が人民元になるためには、売りたいときに売ることができ、買いたいときに買えるだけの十分な取引量が市場になければならない。人民元建て決済が始まった当初は、この条件を十分に充足できるほどの取引量は期待できない可能性が高い。そのため、当初はトレーダーの支持が得られないので、人民元建ての石油先物取引は、かなり低調なところからスタートするのではないかとしている。

および国家が為替を通じて金融および商品市場に介入するとの観点から、彼らが参加するかどうかは疑問視されている。

●高関税の背景にある人民元建て石油先物取引

このように、新華社の記事で、今回開始された人民元建ての石油取引の影響力を小さく抑えるような報道がなされている。ドル基軸通貨体制を揺るがすような存在になるというようなニュアンスは、記事にはまったく見られない。日常のニュースのように小さな記事でひっそりと報じている。

ちなみに新華社は、中国国営の通信社だ。記事や社説には、中国政府の意向が強く反映していると見ることができる。

このように見ると、大々的な公式発表を行わないというスタイルや、この影響力をなるべく小さく報道するという新華社の記事は、この取引が将来的にはドルの基軸通貨体制を本格的に揺るがす可能性が大きいので、それが開始された事実をあまり大きく報道してもらいたくないようだ。

しかしこのまま行くと、ある程度時間はかかると思うが、近い将来上海先物取引所の人民元建て価格が石油の国際基準になることは、中国が世界最大の石油輸入国であるという事実を前提にすると、間違いないと見た方がよいだろう。そしてそれに伴い、基軸通貨はドルではなく次第に人民元へと動いて行く流れにあることも事実だろう。

       ・・・<抜粋終了>・・・


 こうした背景を前提とすると、トランプ政権が突然中国に貿易戦争を仕掛けた理由が浮かび上がってきます。


       ・・・<『ヤスの備忘録』のヤスさんのメルマガ(第479回)から抜粋開始>・・・

      このような視点から、トランプ政権が中国に課した高関税を見ると、これは単に知的財産権を巡る中国の態度変更を狙ったものではないことが分かる。今回発動された高関税は、最終的にはドル基軸通貨体制の挑戦するであろう中国を、政治的にも、経済的にも封じ込める動きの第一歩であろう。

もちろん、高関税の導入は中国から同様の報復がある。これはアメリカ経済にも打撃があることは間違いない。だがドル基軸通貨体制を擁護し、アメリカの覇権の強化を狙うトランプ政権からすると、高度な保護関税によって中国を封じ込める方が、米経済の景気よりもはるかに優先順位が高いと見ているはずだ。

      前回の記事に書いたように、元スパイのセルゲイ・スクリパリの神経ガス攻撃がひとつのスイッチとなり、ロシアを悪魔化する追い込みが始まった。ロシア軍が報告しているように、これからシリアで反政府勢力による自作自演の化学兵器による攻撃が行われ、これをシリア政府軍とそれを支援しているロシア軍の仕業と決めつけ、これを口実にアメリカ軍はシリア政府軍の支配地域を空爆する可能性がある。

もしそのときロシア軍に死傷者が出ると、アメリカとロシアの軍事衝突の危険性が高まる。しかしこれこそ、ロシアを軍事的に追い込み、叩くための理想的なシナリオなのだ。

これと同じような意味で、人民元建て上海石油取引所の開設は、アメリカが中国を追い込み封じ込めるためのスイッチのような役割を果たしたのかもしれない。その最初の動きが、トランプ政権による中国を対象にした保護関税の適用であった。ということでは、いま始まったばかりの高関税の報復合戦は、中国封じ込め策のほんの初期の段階のものだろう。軍産複合体に完全に取り込まれた格好のトランプ政権は、次にはもっと過激な行動に出てくる可能性が高い。

      世界はいま危険水域に徐々に突入しつつあるのかもしれない。目が離せない。

       ・・・<抜粋終了>・・・


 こうした背景を前提とすれば、突然アメリカが中国に貿易戦争を仕掛けた理由も納得できそうです。
       トランプ大統領は、中国製品への関税を口にするたびに、話し合いの用意があることを付け加えています。
       それは、「人民元での原油決済を止めてくれ。止めてくれれば貿易戦争を取り下げる」という本音があるのではないかと思うのです。


      (2018年4月8日)


<転載終了>