米朝首脳の会見で朝鮮戦争の講和交渉が始まるが、米の世界支配戦略は変わらない
ドナルド・トランプ米大統領と朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長と6月12日にシンガポールで会談、共同声明も発表された。両国の首脳が会った意味は小さくないが、それ以上のものではない。朝鮮戦争の終結には至らず、朝鮮が求めている朝鮮半島の非核化をアメリカが受け入れる可能性は小さい。
朝鮮が求めている朝鮮半島の非核化は、その地域におけるアメリカの核の脅威を取り除くことが含まれている。「検証可能」の対象にはアメリカも含まれると理解することができる。場合によっては日本も問題になるだろう。
これまでアメリカは東アジアにおける軍事的な緊張を高めるため、朝鮮を利用してきた。核兵器やミサイルの開発の裏でアメリカが暗躍している疑いもある。朝鮮とアメリカとの問題を考える場合、少なくとも朝鮮戦争まで遡らなければならないが、アメリカが求め、日本が同調している「非核化」は朝鮮の無条件降伏に等しく、これはアメリカによる朝鮮半島全域の制圧を意味している。その先には中国の制圧、ロシアの再属国化、そしてパックス・アメリカーナがある。
ところで、朝鮮戦争が勃発したのは1950年6月25日だが、その前から小規模の軍事衝突はあった。その当時、ダグラス・マッカーサーに同行して日本にいた歴史家のジョン・ガンサーによると、半島からマッカーサーに入った最初の電話連絡は「韓国軍が北を攻撃した」というものだったという。日本では北からの攻撃で戦争が始まったことになっているが、世界的に見ると決して常識ではない。
戦争勃発の3日前、ジョン・フォスター・ダレスは朝鮮半島から日本へわたり、吉田茂と会談した後にニューズウィーク誌の東京支局長だったコンプトン・パケナムの家で夕食会に参加している。日本側から出席したのは大蔵省の渡辺武、宮内省の松平康昌、国家地方警察企画課長の海原治、外務省の沢田廉三だ。
渡辺武は元子爵で後の駐米公使、松平康昌は元侯爵で三井本家家長の義兄、沢田廉三の結婚した相手は三菱合資の社長だった岩崎久弥の娘。海原治は国家警察予備隊、後の自衛隊を創設する際に中心的な役割を果たすことになる。
夕食会の4日後、つまり朝鮮戦争が勃発した翌日の26日には帰国直前のダレスに対し、天皇から軍国主義的な経歴を持つ「多くの見識ある日本人」に会い、「そのような日本人による何らかの形態の諮問会議が設置されるべき」だとする口頭のメッセージが伝えられている。メッセンジャーはパケナムだった。(豊下楢彦著『安保条約の成立』岩波新書、1996年)
朝鮮戦争の直前、1949年1月に人民解放軍は北京に無血入城、コミュニストの指導部も北京入りしている。1945年4月にフランクリン・ルーズベルトが急死して誕生したハリー・トルーマン政権は第2次世界大戦後、蒋介石に中国を支配させる予定で、20億ドルを提供しただけでなく軍事顧問団も派遣している。
その当時は国民党軍が紅軍(コミュニスト)を圧倒していたが、1947年の夏になると人民解放軍(47年3月に改称)が反攻を開始、48年の後半になると人民解放軍が国民党軍を圧倒するようになっていた。朝鮮戦争はアメリカ政府の中国奪還作戦だと見ることができる。
朝鮮戦争の最中、1951年4月にCIAは約2000名の国民党軍を引き連れて中国領内に侵入したが失敗、翌年8月にも中国へ侵攻したが、この時も人民解放軍の反撃で追い出されている。朝鮮戦争は1953年7月に休戦、アメリカ軍は目的を達成することができなかった。
その当時、インドシナではフランスが植民地奪還を目指して戦っていたが、この戦争でアメリカ政府はフランスを支援している。そのフランス軍が1954年5月にディエンビエンフーで降伏するが、その4カ月前、国務長官のジョン・フォスター・ダレスがベトナムでのゲリラ戦を準備するように提案している。それを受け、その年の夏にダレス国務長官の弟であるアレン・ダレスが長官だったCIAはSMM(サイゴン軍事派遣団)を編成、破壊活動を開始、リンドン・ジョンソン政権で本格的な軍事介入を始めた。
リチャード・ニクソン大統領はベトナム戦争を終結させ、中国との国交回復を実現するが、その中国では1970年代の終盤から新自由主義に向かって歩き始め、80年には新自由主義の教祖的な存在であるミルトン・フリードマンが中国を訪問、レッセフェール流の資本主義路線へと導いていった。フリードマンは1988年に妻のローザとともに再び中国を訪れ、趙紫陽や江沢民と会談している。趙紫陽は1989年に失脚するが、江沢民はその後もアメリカとの関係を推進した。この流れが大きく変化したのはウクライナでアメリカがネオ・ナチを使ったクーデターを実行した2014年である。
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