シリア政府のイドリブ奪還作戦を前に、米国とトルコが攻撃反対で一致?
アメリカ国務省によると、同省のマイク・ポンペオ長官は9月4日にトルコのメブリュット・チャブシュオール外相と電話で会談、シリア軍によるイドリブに対する攻撃は受け入れられないということで一致したという。その前日、アメリカのドナルド・トランプ大統領はツイッターに「シリアのバシャール・アル・アサド大統領はイドリブに対する向こう見ずな攻撃をするべきでない」と書き込んでいる。
イドリブを支配してきたジハード傭兵にはアメリカ系とトルコ系のグループが存在していることから、トルコ政府の動向が注目されていた。アメリカ国務省の発表が正しいなら、トルコはイドリブの件でアメリカへ接近していることになる。
勿論、こうしたことでシリア政府やロシア政府がイドリブ奪還作戦を諦めるとは思えない。昨年(2017年)7月、ダーイッシュ(IS、ISIS、ISILとも表記)の問題に関するアメリカの大統領特使、ブレット・マクガークはイドリブについて、9/11からアル・カイダの最も大きな避難場所だと表現していた。イドリブでアメリカの手先として活動しているタハリール・アル・シャーム(アル・ヌスラ)はアル・カイダ系の武装集団にほかならない。
こうしたシリア軍やロシア軍の攻撃にブレーキをかけるため、アメリカ政府は化学兵器を持ち出し、直接的な軍事介入で脅した。例えば、ペルシャ湾に駆逐艦のサリバンズを派遣、B-1B戦略爆撃機をカタールに配備している。
その一方、アメリカはUAV(無人機)を含む構成の兵器をジハード傭兵へ供給、シリア軍やロシア軍と戦わせようともしている。すでにUAVを使った攻撃が何度か実行されているが、ロシアのメディアによると、トルコから200機のUAVがトルコ人とチェチェン人の専門家もシリアへ運ばれたという。
言うまでもなく、「シリア政府軍が化学兵器を使ったなら」という「条件」はシリア政府が化学兵器を使ったことにする偽旗作戦を実行するということにほかならない。44名の子どもが誘拐されたと言われているが、その実行者はSCD(シリア市民防衛)、別名「白いヘルメット」だとも伝えられている。イギリスの情報機関MI6がその子どもを犠牲者に仕立て上げようと計画していうというのだ。
化学兵器に関し、ジム・マティス国防長官はジハード傭兵に化学兵器を使う能力がないと語っているが、そうした能力があることは何度も指摘されてきた。昨年10月には国務省もそうした能力があることを通達の中で認めている。
アメリカのバラク・オバマ政権が化学兵器を軍事侵略正当化の口実として使い始めたのは2012年8月、アメリカ軍の情報機関DIAが反シリア政府軍の主力はサラフィ主義者、ムスリム同胞団、そしてアル・カイダ系武装集団のAQI(アル・ヌスラと実態は同じだと指摘されていた)であり、バラク・オバマ大統領が主張する穏健派は存在しないとホワイトハウスへ報告した月のことだった。
2012年12月にヒラリー・クリントン国務長官はシリアのバシャール・アル・アサド大統領が化学兵器を使う可能性があると語り、13年1月29日付けのデイリー・メール紙には、イギリスの軍事関連企業ブリタム防衛の社内電子メールにオバマ政権がシリアで化学兵器を使ってその責任をアサド政権に押しつける作戦をオバマ大統領が許可したという記述があるとする記事が載った。(同紙のサイトからこの記事はすぐに削除された)
そして2013年3月にアレッポで爆発があり、26名が死亡したのだが、そのときに化学兵器が使われたという話が流れる。シリア政府は侵略軍であるジハード傭兵が使用したとして国際的な調査を要請するが、イギリス、フランス、イスラエル、そしてアメリカは政府軍が使ったという宣伝を展開する。
しかし、攻撃されたのがシリア政府軍の検問所であり、死亡したのはシリア軍の兵士だということをイスラエルのハーレツ紙が指摘、国連独立調査委員会メンバーのカーラ・デル・ポンテも反政府軍が化学兵器を使用した疑いは濃厚だと発言している。
アメリカをはじめとする侵略勢力は2013年8月にも化学兵器を使った偽旗作戦を実行した。ダマスカスの近く、ゴータで実際に使われたのだが、攻撃の直後にロシアのビタリー・チュルキン国連大使は反シリア政府軍が支配しているドーマから2発のミサイルが発射され、ゴータに着弾したと国連で説明、その際に関連する文書や衛星写真が示されたとジャーナリストがフェースブックに書き込んでいる。
それだけでなく、メディアも化学兵器とサウジアラビアを結びつける記事を掲載、すぐに現地を調査したキリスト教の聖職者マザー・アグネス・マリアムはいくつかの疑問を明らかにしている。
この攻撃では子どもの犠牲者が宣伝されたが、この子どもたちは直前に誘拐された子どもではないかとも言われている。ゴータへの攻撃が行われる10日ほど前、反政府軍がラタキアを襲撃し、200名とも500名とも言われる住人が殺され、150名以上が拉致されているのだ。
2013年12月には調査ジャーナリストのシーモア・ハーシュも8月の攻撃に関する記事を発表、反政府軍はサリンの製造能力を持ち、実際に使った可能性があるとしている。また、国連の元兵器査察官のリチャード・ロイドとマサチューセッツ工科大学のセオドール・ポストル教授も化学兵器をシリア政府軍が発射したとするアメリカ政府の主張を否定する報告書を公表している。ミサイルの性能を考えると、科学的に成り立たないという。
また、トルコの国会議員エレン・エルデムらは捜査記録などに基づき、トルコ政府の責任を追及している。化学兵器の材料になる物質はトルコからシリアへ運び込まれ、そこでダーイッシュが調合して使ったというのだ。この事実を公表した後、エルデム議員らは起訴の脅しをかけられている。
アメリカの軍事的な脅しに対し、ロシアはシリアの軍備を増強、地中海には最新鋭のフリゲート艦2隻、つまりグリゴロヴィチ提督とエッセン提督を含む15隻が配備した。前にも書いたが、ロシア軍はカスピ海からシリアのターゲットを攻撃できる巡航ミサイルを持っている。
ロシア軍は地中海で艦隊演習を実施するだけでなく、9月11日から15日にかけてウラル山脈の東で30万人が参加する大規模な演習ボストーク18を予定している。この演習には中国とモンゴルが招待されているという。万一、シリアでロシア軍とアメリカ軍が衝突、全面戦争に発展しても、その準備はできているということだろう。
以上は「櫻井ジャーナル」より
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投稿: Tim | 2021年8月 5日 (木) 04時23分