つまり、今回75%にハードルが上げられたことで、いよいよエンジンをアメリカでつくらなければ、関税ゼロの目標には届かないことになった。簡単に言えば、「急には絶対に無理」な話であり、そのことはトランプ政権もわかっているはずだ。これが「1つ目のウラ」であり、アメリカの中間選挙どころか次の大統領選挙に至るまで、アメリカの自動車メーカーは日本車に対して絶対優位を得られる構図になる。

 しかしこのハードル、簡単にクリアする方法がないわけでもない。それは北米での生産を、ガソリン車から電気自動車へとシフトさせることである。車からエンジンがなくなれば、部品はすべて北米産でも日本車は生産できる。

日本を巻き添えにする
トランプの「本当の狙い」

 そうなると仮定した上で、「もう1つのウラ」を考えてみよう。日本メーカーが北米生産を電気自動車にシフトしても、さらに問題が出てくる。電気自動車を売ろうにも、当面のところアメリカ市場ではそのインフラが整備されないだろう。理由は、温暖化対策の枠組みであるパリ協定から、トランプ大統領が離脱を表明しているからだ。

 トランプ大統領は時代に逆行するように、高効率に石炭を燃焼させるクリーンコール技術を推奨している。炭鉱を抱える州の支持を受けて当選したからだ。同様に、シェールオイルの採掘規制も撤廃に向けて動いている。

 アメリカ合衆国の地図にプロットしてみれば、こうした構図はすぐにわかる。石炭の採掘が多い州、オイルビジネスが盛んな州、鉄鋼業が強い州、そして自動車産業が雇用を生んでいる州――。それらはすべて、2016年の大統領選挙でトランプ大統領に票を入れた州である。

 地球温暖化問題に敏感で電気自動車の導入を進めるカリフォルニア州、国際的な約束を重視するニューヨーク州やマサチューセッツ州のような州もあるが、そもそもそれらの州民はトランプ大統領には投票しない。

 結局のところ、トランプ大統領は中間選挙に向けて、アメリカの共和党支持者が一番反応するであろう産業に対して、得票に有効な保護貿易政策を打ち出すことに着手した。その第一手が、今回のメキシコ陥落だったというわけなのである。

 今後、自動車をはじめ日本の産業界は、こうしたアメリカの深謀遠慮を読み解きながら、難しい貿易交渉を続けていくことを余儀なくされるだろう。

(百年コンサルティング代表 鈴木貴博)